2020年09月11日
(聞き手:勝島杏奈 田嶋あいか)
前回までで、感染症ではウイルスを完全に撲滅することは難しいことがわかりました。では、ワクチンや治療薬は、いつできるのでしょうか?引き続き医療や科学が専門の中村幸司解説委員に学生リポーターが1から聞きました。
学生
田嶋
人類が新型コロナウイルスを乗り越えるためには何が必要ですか?
いまさら聞けないギモンがわかる!これまでの記事(1)~(3)もご覧ください
乗り越えるというのは、自粛をしていなかった時のような生活に戻れるかどうかということですよね。
中村
解説委員
元の生活に戻るのには、普通に考えればワクチンと治療薬だよね。
●ワクチン…病原体などから作って接種することで、あらかじめその病気に対する免疫を作り、病気にかかりにくくしたり、かかっても症状が軽くなったりするようにする。
●治療薬…すでに病気にかかった人に使って、病気を治したり、症状を緩和させたりする。
薬の開発の仕方は、大きく2通りあって、1つは新型コロナウイルス専用の治療薬としてゼロから新しい薬を作るやり方。
もうひとつは、今ある別の病気の薬の中から新型コロナウイルスに効くものを探すというやり方があります。
2つの方法があるんですね。いろんな薬の名前がでてきましたよね。
当初よくニュースになったアビガンは後者の候補の薬の1つです。
アビガンはインフルエンザに効果があるとされる薬で、インフルエンザウイルスが細胞の中で増えるのを邪魔するんです。
だから、インフルエンザと新型コロナウイルスとで、ウイルスが増える仕組みが共通していれば、ウイルスの増殖を抑えられるんじゃないかと。
そういう狙いで臨床試験を進めていますが、有効性は証明できていません。(9月11日現在)
●9月24日追記
9月23日、アビガンを開発した会社は、新型コロナウイルスに感染した患者に投与する治験で、症状が改善してPCR検査で陰性になるまでの期間がおよそ3日間短くなり、一定の有効性が確認できたと発表した。10月中にも新型コロナウイルスの治療薬としての承認申請を行うとしている。
そうなんですね。
あとは、エボラ出血熱のウイルスのために開発された「レムデシビル」もありますね。
臨床試験の結果、レムデシビルを投与した方が治るまでの期間が短く、一定程度の効果があるとして、新型コロナウイルスの治療薬としてアメリカで承認されて、日本でも承認されました。
他にも日本で開発されている「オルベスコ」とか「フサン」という薬があります。
オルベスコはウイルスが増えるのを抑えるのと同時に、免疫の暴⾛まで抑えると考えられているんです。
もう1つのフサンはウイルスの増殖も抑えるけれども、⾎栓ができにくくする効果も期待されているんです。
初めて聞く薬の名前です。
オルベスコは、気管支ぜんそくの薬、フサンは急性膵炎の薬として使われているものです。
新型コロナウイルスに感染して症状が重くなった人を調べると、本来は感染から体を守ってくれる免疫が自分自身の細胞を攻撃するという、
いわば「免疫の暴走」が起こったり、血管内に血液の塊「血栓」ができやすくなったりしていたんです。
●免疫の暴走…「サイトカインストーム」と呼ばれる。免疫の働きが過剰になって自分自身の細胞を攻撃し、炎症などを引きおこす。新型コロナウイルスの重症化に大きく関係していると考えられている。
●血栓…血管の中でできる血液の塊。これが血液の流れに乗って、様々な臓器で血管を詰まらせることがある。これも重症化に関係しているとみられている。
2つの薬は、ウイルスの増殖を抑える効果があるだけでなく、免疫の暴走あるいは血栓といった重症化の要因となる症状も抑える効果を併せ持つため、治療薬として使えるのではないかと期待されています。
このほかに、ウイルスの増殖を抑える効果のある薬と、別に免疫の暴走や血栓を抑える薬を併せて飲む、2剤ないし3剤を併用する方法なども試みられています。
このように、すでに別の病気の治療薬として開発された薬の中から、新型コロナウイルスに効く薬を探す研究が進む一方で、新型コロナウイルスに特化した新しい薬の開発には時間がかかっています。
学生
勝島
治療薬についてはわかりましたが、新型インフルにならないにこしたことはないわけで・・・、ワクチンってどういうものなのですか?
ヒトの体は、ウイルスが入ってきた時に、ウイルスから体を守る仕組みを持っています。
その1つが、感染症にかかると熱が上がるということで、インフルエンザになると38℃以上の熱が出ますよね。
あれはなぜ熱が出るかというと、インフルエンザウイルスは体温が上がると体中での活動が下がるんですよ。
そういうことだったんですね!
だから体温を上げることで、インフルエンザが体の中で増えるのを防ごうとしているんです。そういうふうに人間の体は進化した。
体に入ってきたウイルスなどを攻撃する能力を免疫といいます。
ウイルスに感染すると、そのウイルスを攻撃する、いわば攻撃部隊が体の中にたくさんできてくれます。こうなると体からウイルスがいなくなって回復します。
なるほど。
治ったあとも体の中には攻撃部隊が残っていて、同じウイルスが入ってきたらすぐ攻撃してくれるんです。
だから、2度目の感染はしなかったり、感染しにくくなったり、感染しても軽症で済んだりするというのが免疫の仕組みです。
ワクチンはいわば「偽のウイルス」を使って、体に感染したと思わせて攻撃部隊を作らせます。
こうできれば、本物のウイルスが入った時にすぐ攻撃できます。
どうやって作るんですか?
1つは、ウイルスそのものを使うやり方です。
普通に感染させると病気になってしまうので、弱らせたウイルスを体に入れて、増えないうちに攻撃部隊をたくさん作らせる。
これが生ワクチンです。
ほかには、どんなワクチンがあるのですか?
もう1つは、簡単に言うとウイルスを「殺して」、感染する力を完全になくして、体に入れるやり方です。
ただ、一般にウイルスは「生物ではない」と考えられているので、その意味で「殺す」という表現は正確ではないかもしれませんけどね。
病原性が無いので病気にならない、だけど攻撃部隊をつくることで、本物のウイルスが入ってきた時に、「同じものが来た」と思って攻撃してくれる。
なるほど。
これは不活化ワクチンと言って、インフルエンザのワクチンはこういう作り方ですね。
ワクチンは大体この2つの方法でできていますが、最近、遺伝情報を使って作るワクチンというものもあります。
遺伝情報?
ウイルスの遺伝情報、つまりウイルスの部品を作るもとになるものを体内に入れる方法です。
体内でウイルスの部品が作られると、他のワクチンと同様に攻撃部隊ができてくれるという考え方です。
比較的早く開発できるので、今、臨床試験が行われている新型コロナウイルスのワクチンは、遺伝情報を使って作るワクチンが多いです。
ワクチンの作り方も変わってきているんですね。
遺伝情報を使って作るワクチンが多い理由は、他にもあるんです。
ウイルスを弱めたりウイルスを粉々にしたりするのはウイルスを直接扱うことになるので、設備の整った限られた研究機関じゃないとできないんですよね。
そうですよね。
でも、遺伝情報を使ったワクチンは、ウイルスそのものじゃなくて単に遺伝子を扱うので、そこまでの施設を持っていない研究機関でも開発ができるという利点もあるんです。
どの方法で作られるかにもよると思うんですけど、いつ頃使えるようになりそうですか?
動物実験をやった上で人で安全性を見て、そのあと本当に効果があるのかを見るっていう段階があるんです。
8月の終わりに調べた時には、世界で170あまりのワクチンの開発が進んでいて、そのうちの30あまりのワクチンは人に投与している段階。
そのうちの8つは効果があるかどうか確かめる最終段階の試験に進んでいます。
一方で、ロシアと中国では、最終段階まで試験をせずに、緊急に、もしくは限定して承認されたワクチンまで出てきています。
安全で効果もあるとわかって「OK」となれば、ワクチンとして承認されて大量生産して、みんなに接種するという感じなんです。
日本では、早ければ年明けぐらいかな。
WHOは2月時点でワクチンができるまでに12か月から18か月かかると言っていたんですよね。普通は最短でもそれくらいかかります。
ワクチンさえできれば、私も半年後くらいに接種できますか?
可能性はありますが、一方でワクチン開発にはいろいろ課題があることも知っておく必要があると思います。
どういうことですか?
ワクチンには、安全性と有効性が必要です。このうち、安全性を評価する上で、どのような副反応がどの程度あらわれるのかが、ポイントになります。
開発が先行している遺伝情報を使ったワクチンは、新しい方法なので、経験が少なく、どのような副反応が起こるのか慎重に見極める必要があるんです。
さらに、新型コロナウイルスのワクチン開発では、解決が難しい副反応が起こるかもしれないという指摘もあるんです。
●「解決が難しい副反応」…「ADE(抗体依存性増強)」と呼ばれる現象でワクチンを接種することでかえって症状が悪化することもある。SARSなどの研究でわかったもので、コロナウイルスのワクチンを作る際に共通した問題かもしれないとされている。
そうなんですか。ワクチン開発も難しいのですね。
ワクチンは健康な人に打つので、重篤な副反応がでると、本人だけでなく社会的にも問題になりかねません。
たしかに・・・
打たなきゃよかったっていう話なので。
ワクチン全般に言える問題がそこにあるんだよね。
あと、世界中の77億人の全員に打たないにしても相当数の人に打つよね。
あとから安全性に問題が明らかになって、その確率が0.00何%だとしても、母数が大きいから世界中では相当な人数になってしまうんですよね。
確率はすごく少なくても、かなりの人数になってしまうんですね。
そう。だから、安全性をどう考えるか、どこまでシビアに考えるのかが難しい。
シビアに考えようとすると開発と検証にどんどん時間がかかり遅れるので、それは待てないという感じもあるでしょ、そこが難しいよね。
ワクチンの開発が簡単ではないことはわかりました。
一般的にワクチンは、石橋をたたくようにして開発され、広く使われるようになるんですが、そうすると時間がかかります。
でも、時間を短縮するとリスクを抱えるので、どこで「ワクチンとして広く使っていいです」と承認するのかが課題です。
難しい問題ですね。
安全性だけでなく、有効性にも課題があります。
有効性もですか?
ワクチンを打った人が、二度と新型コロナウイルスに感染しないくらいの効果があるものができるのか、
あるいは感染はするけれど、症状が重くなるのを防ぐというくらいの効果なのかということです。
もう少し教えてください。
イメージとしては、1回ないし2回打つとほぼ一生のあいだ免疫ができるとされる「風疹のワクチン」のようなものなのか、「インフルエンザのワクチン」ように毎年接種する必要があるものなのかという違いです。
どれだけの効果があるものができるかも、まだよくわかっていないのですね。
それから、世界中で開発競争をしていますけども、1つじゃなくて、後ろからいくつものワクチンの開発が追従する形でやっていく必要があると思います。
先にできたワクチンが、安全性や有効性が高いか、大量生産できるかなど、すべての面で有能とは限らないですから。
たしかに、最初にできたものが、1番よいワクチンとは限りませんよね。
それは国としても考えておかなければいけないことです。
日本のワクチンが最も早くできることはないかもしれませんが、やっぱり、国産ワクチンの開発をしなければいけないと思います。
さっき言った理由に加えて、もう1つ、やっぱり日本人に打つワクチンは日本で作る方がいいと思う。
体質的にですか?
それもあるかもしれないですね。それだけでなく、海外のワクチンを日本が買うと、世界のワクチンの供給が不足して、ほかの国の人が打ちにくくなるとか、日本が買うことで値段が高くなってしまうという問題が起きる可能性があります。
いろいろ関連してくるということですね。
最初は海外でできたワクチンを打つことになるかもしれないけれども、最終的には日本人に打つものは日本で作ると。
もっと言えば、海外、特に途上国などワクチンを作ることができない国々に供給できるぐらいのものを日本で開発・製造できるといいですね。
なるほど。早くそうなるといいですね。
ありがとうございました。
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