目指せ!時事問題マスター

1からわかる!バイデン大統領とアメリカ(4)中国とどう向き合う?

2021年04月15日
(聞き手:伊藤七海 佐々木快)

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就任後、トランプ前政権からの政策転換を次々に打ち出してきたバイデン大統領。前政権で対立していた中国とは、どう向き合うの?違いはどこに?1からわかります。

続く強硬路線 背景は

学生
伊藤

前回のお話で、バイデン政権も中国への強硬な姿勢は変わらないと伺いました。

学生
佐々木

トランプさんは、中国に対していつもけんか腰だったイメージですが、バイデンさんは違うんでしょうか。

そうですね、同じ強硬路線でも、トランプさんとは違いますね。

髙橋
解説委員

解説は、国際部でワシントン、エルサレム特派員、ジャカルタ支局長などを歴任し、アメリカを内からも外からも見続けてきた髙橋祐介解説委員です。学生時代から今まで、アメリカの動きをつぶさに追ってきた“アメリカウオッチャー”です。

そもそも旧ソビエトとの東西冷戦が終わったあと、“唯一の超大国”になったアメリカの歴代大統領にとって、台頭する中国とどう向き合うかは、外交上の最大の課題になっているんだ。

そうなんですか。

よくあるパターンとして、選挙期間中は「中国には厳しく対処します」と言って支持を得ながら、大統領に就任したあと、徐々に軌道修正して態度を軟化させる傾向がある

中国とも協力しなければいけない部分が出てくるから。

例えばジョージ・W・ブッシュさんは、前のクリントン民主党政権が中国を「戦略的なパートナー」と呼んだのに対抗して、選挙キャンペーンでは中国を「戦略的な競争相手」と位置付けた。

でも大統領就任後、中国とは「建設的な協力関係を築きます」と言って関係修復をはかった。政権発足の年に起きた9.11の同時多発テロ以降、テロとの闘いには国連安保理で常任理事国を務める中国との協力が欠かせなかったからね。

ところがトランプさんは、そうした歴代の大統領たちとは“逆パターン”をたどった。

政権発足当初から中国との巨額の貿易赤字を問題視していたけど、政権末期には、外交・安全保障の諸課題をすべてひっくるめて、アメリカの歴代政権が踏襲してきた「中国への関与政策そのものが失敗だった」という見解まで示した。

関与政策

中国の経済発展を助けることで中国が民主的な社会に変わっていくことを促す、歴代政権の対中政策。去年7月、トランプ政権のポンペイオ国務長官は、「関与政策」は中国の民主化につながらず、事実上失敗したとして、圧力で方針転換を迫る姿勢を鮮明にした。

関与政策がダメなら、選択肢として残っているのは、東西冷戦のような封じ込め政策

トランプさんは、そこまでは踏み込まずに任期を終えたけど、「中国と、はっきり対抗する」という時代の転換点を作った大統領として後世に記憶されると思っています。

その路線をバイデンさんも引き継いだということですか。

実はバイデンさんって、選挙戦のときから「中国に弱腰だ、べったりだ」という批判を受けてきたんです。

そうなんですか。

バイデンさんは、中国の習近平国家主席と話した時間が、西側の現在の主な首脳の中では一番長いと言われていて。

彼はオバマ政権の副大統領として中国を訪問し、当時の国家副主席で次の最高指導者に内定していた習近平さんと6日間で5回も膝詰めで会談したことまであるんです。

2011年に中国を訪問したバイデン副大統領(当時)。習近平国家副主席(当時)との関係強化をはかった。

関係ができているんですね。

だから大統領に就任したバイデンさんが、中国の春節(旧正月)の大みそかに習近平さんと初めて電話で2時間も会談したときには、米中関係がこの先どのような方向に向かうのか注目されたんだけど、結論として…まだよくわからない。

中国側は「米中が協力すれば互いの利益になり、争えば共に傷つく」「対立せず互いを尊重すべきだ」という立場を示したのに対して、バイデンさんは、それにははっきりとは応じずちょっと距離を置き、アメリカ側が中国に抱いている「根本的な懸念」を伝えたという。

その直後に行った初めての外交演説では、中国のことを “most serious competitor”「最も重大な競争相手」と位置付けた。

最も重大な競争相手?

平たく言うと「中国はアメリカの覇権に挑んでくる相手だ、中国の好きなようにはさせない」と言うこと。

中国が軍事的、経済的にアメリカを脅かしつつあることや、新型コロナの感染拡大もあって、今、アメリカ国民の対中感情は、非常に悪化している。

党派の違いにかかわらず「中国には厳しくあたれ」というのが世論の大勢で、弱腰ととられる態度は取りにくい。

トランプさんが中国に厳しかったから、バイデンさんが甘い顔をしたら突き上げを受けかねないので。

中国との関係で問題になるのが大きく2つ、通商問題と人権問題

通商問題は

通商問題については、トランプ政権のとき、米中貿易摩擦のテンションがこれ以上ないほど高まった。

ニュースで、よく見ました。

トランプ政権と米中貿易摩擦

きっかけは2018年、アメリカが中国から輸入する工業製品などの関税を引き上げたこと。米中が互いの輸入品に高い関税を上乗せする措置を繰り返し、制裁と報復の応酬に。中国製品に対しては、最大25%の制裁関税が維持されている。

1からわかる!「米中貿易摩擦」【前編】そもそもの経緯は?はこちらから

バイデン政権は、どうするんですか?

バイデン政権がまとめた貿易に関する指針では、「中国は今ある国際秩序のルールを無視している。不公正な貿易慣行や知的財産権の侵害は見過ごしにはしません」と明確にしている。

ただ、トランプ政権のような「極端なアメリカ第一主義」はなくなると思います。「懲罰的な貿易手法は取らない」とも言っていて。

というと、関税を撤廃することもありますか?

中国側は、それを求めているんだけど、バイデンさんはまだ応えていない。

トランプさんって、ファーウェイなどハイテク企業にも制裁を強めていましたよね?

半導体の輸出を禁止したと聞いたことがあります。バイデン政権でも続くんですか?

トランプ政権とハイテク摩擦

トランプ政権は2019年以降、安全保障上の脅威があると判断した、中国の通信機器大手ファーウェイなどハイテク企業との取引を事実上禁止する措置を拡大してきた。

ハイテク摩擦の問題で重要なのは、中国に主導権を握られるなということ。21世紀の覇権を左右するのはテクノロジー、例えば高速大容量の通信規格5Gです。

ファーウェイのような5Gで最先端の技術を持つ中国企業が、世界の5G通信網を整備したら、そこにアメリカや世界が乗っからないといけなくなる。

「それは避けたい」ということですか。

そう。バイデン政権も、ハイテク分野で厳しい対応を続けていくことになります。

人権問題は

もう1つ、人権問題はどうですか?トランプさんは厳しかったですよね?

実は、トランプさん自身がどれだけ人権問題に関心があったかは、よくわからなくて

そうなんですか?

トランプ政権で大統領補佐官だったジョン・ボルトンさんが暴露本を出して「首脳外交でもトランプさんは自分の再選にプラスになるようなことばかりを気にして、人権問題には全く興味を示さなかった」ということを書いている。真相はわからないけど。

トランプ前大統領とジョン・ボルトン元大統領補佐官

ただトランプ政権としては、厳しい姿勢でしたね。

例えばトランプ前政権のポンペイオ国務長官は、中国当局が新疆ウイグル自治区で少数派を厳しく弾圧し「ジェノサイドを行っている」と非難した。

新疆ウイグル自治区の問題

アメリカ政府はウイグル族の女性に強制的な不妊手術が行われているなどと指摘し、中国政府の行為を、民族などの集団に破壊する意図を持って危害を加えるいわゆる「ジェノサイド」と認定。イギリス政府も強制労働が行われているとして関連する製品の規制強化を発表したほか、EU加盟国は人権侵害に関わったとして中国の当局者に制裁を科すことで合意するなど、国際社会からの批判が強まっている。

ジェノサイドというのは、大量虐殺などの“人道に対する罪”にあたる非常に重い言葉で、最大限の非難。この見解にバイデン政権のブリンケン国務長官も「同意する」と言っています。

バイデン政権も、同じ姿勢?

バイデンさんの場合、まず身内の民主党が人権問題に厳しい。さらに、ウイグルの問題をめぐっては、共和党議員に「来年の北京オリンピックをボイコットすべきだ」と公言する人もいます。

与野党問わず厳しいなら、バイデンさんも人権問題を見過ごすわけにはいかないですね。

安全保障の問題はどうですか。

中国が海洋進出して、自分の権益を主張する範囲を一方的に広げようとしている問題がありますよね。

トランプ政権はこうした動きを批判していたんだけど、バイデン政権も変わりません

南シナ海 原子力空母も含めたアメリカ海軍の軍事演習(2月)

早速、南シナ海で中国が主権を主張する海域にアメリカ海軍の艦艇を派遣して「航行の自由作戦」を実施。原子力空母も含めた軍事演習も行って、中国側をけん制しています。

「ルールに従わない一方的な現状変更は許しません」というのが基本姿勢です。

通商問題、人権問題、安全保障の問題…バイデン政権になっても大きく変わらないんですね。

トランプ政権と違う点はどこにあるんですか?

台湾問題 一つの中国“原則”と一つの中国“政策”は違う!

米中関係には様々な問題があるけど、その中で一番核心となる問題って何だと思う?

一番?…なんでしょう…

中国の国家の正統性にかかわる問題、すなわち台湾の問題です。

ざっくり振り返ると、日中戦争の頃は表面的に協力していた中国国民党と中国共産党は、戦後全面的な内戦に突入して共産党が勝利、国民党は台湾に追いやられたよね。

はい。学校で習ったので覚えています。

アメリカは当初、台湾の国民党つまり中華民国政府を承認していたけど、1972年にニクソン政権が電撃的に北京の共産党つまり中華人民共和国に接近し、1979年にアメリカと中国は国交を正常化した

中国の毛沢東主席と会談した米ニクソン大統領(当時)1972年

このとき台湾をめぐって「一つの中国」という概念が生まれた。知っているかな?

世界史で聞いたことがあるような…

中国がアメリカ側に求め、現在も主張しているのは「一つの中国原則」”One China Principle”と言って、「世界に中国はただ一つ、台湾は中国の不可分の一部です。だから中国の唯一の合法政府である我々とこれからは付き合ってください」ということ。

そうした中国側の主張にアメリカは「異は唱えません」と言いながらも、自分たちは「一つの中国政策」”One China Policy”を進めていきますと約束した。

「一つの中国」原則と「一つの中国」政策…どう違うんですか?

この2つを混同した解説や報道もあるけど全く違うんです

アメリカは、中国が「一つである」と主張していることは “acknowledge”「知りおいています」と。法的に承認したわけではなく、あくまでも「あなた方の主張は知っていますよ、反対もしませんよ」と約束した。

その結果、アメリカは、中国との国交正常化以来、台湾との正式な外交関係が途絶えているんだけど、「台湾関係法」という法律も整えて、中国が武力で台湾を統一しないよう武器売却などで応援してきた。

そういう認識のズレは現在もそのまま残っているので、米中関係は、これまでずっと「同床異夢」にあると言われてきたんです。

同じことを言っているようで、思惑は違うということですか。

微妙ですね。

そう、当時の米中双方は、国交正常化という共通の目標のために合意を優先させた。そのために、いわば決して交わらない2つの糸が「交わった」と見せかけられるような微妙な表現をひねり出したんだ。

でも40年以上経った今、世界情勢は大きく変わり、中国は経済も軍事力も途方もなく強大になった。習近平さんは「中台統一」を最大の目標に掲げていて、下手すると台湾は呑み込まれるのではないかという事態になってきた。

そこででてきたのが、トランプさん。トランプさんは物事を単純化する傾向があって、微妙な外交の芸当ができなかった

「中国は多くの問題を抱えている。これからは台湾とも仲良くしましょう」という趣旨のことを言ったんです。就任前には「なぜ『一つの中国』に我々は縛られなければならないのか」と疑問を投げかけ、中国側を仰天させたこともありました。

中国としては、心穏やかじゃないですね。

そう、最初に話したとおり、台湾の問題は中国にとって、中国共産党による事実上の一党支配、国家の正統性にかかわる絶対に譲れない問題なんです。衝突したら、戦争になり得る。

中国も非常に警戒していたところで、バイデン政権になって、米中の外交トップが会談した。

中国は「一つの中国原則が確認できた」、アメリカは「一つの中国政策に変わりない」とそれぞれ発表して。

「一つの中国原則」と「一つの中国政策」…同床異夢に戻ったということですか?

そう。バイデンさんは、米中の国交正常化の頃から議会でアメリカ外交に携わってきた数少ない政治家で、上院の外交委員長として台湾を訪問し、「台湾の将来は台湾の住民自身が決めることだ」と発言したこともある。

だから機微はわかっているんだよね。台湾問題で米中が決定的にぶつかる事態はひとまず避けられたというのが現状です。

でも偶発的な衝突はいつでも起き得るものだから、注意して見ていかなければならないよね。

是々非々、多国間連携で

台湾問題では対応が異なりそうですが、ほかにトランプ政権との違いはありますか?

自分とは違う意見にも耳を傾けようという姿勢はありますよね。バイデン大統領は「中国と協力できる問題は3つある。新型コロナ対策・気候変動対策・核の拡散を防ぐことだ」とも言っている。

いずれも地球規模の課題で中国の協力が欠かせない。利害が一致する部分もあるしね。

こういうところは「是々非々」で、トランプさんとは違うんですね。

そうですね。さらにバイデンさんは、中国とは1国ではなくみんなで向き合いましょうという姿勢。ここもトランプさんと異なる点です。

トランプさんは、1対1でしたよね?

トランプさんは、交渉の達人という自信があるから、2国間で取引、ディールをするという外交手法を取った。

一方でバイデンさんは、経済でも安全保障でも多国間で連携して、みんなで中国と向き合おうとしています。

特に、民主主義の価値観を同じくする日本、オーストラリア、インドとの4か国の枠組み「クアッド」を重視しています。

オンライン形式で行われた「クアッド」初の首脳会合(3月)

「クアッド」は、もともと安倍前総理が呼びかけて構想がスタートしたものなんだけど、バイデン政権もこの枠組みを引き継いだ。3月にはバイデンさんの呼びかけで初の首脳会議がオンライン形式で早くも開かれました

アメリカの国力って今、陰りが見えている。早ければ2028年にも、GDP=国内総生産の規模で、中国に追い抜かれるという予測もあります。

え!? 7年後には中国の経済力は世界1位になるということですか…

もうすぐ米中が経済の規模で逆転しそうな事態を控えて、アメリカはギアを入れ直す大事な時に来ている。だからこそ、バイデンさんは各国と連携して中国と向き合うつもりです。

ここまで見てきて、バイデンさんは中国への基本的な姿勢はトランプさんと変わらないけど、やり方は変えるということでしょうか。

「厳しい姿勢は変わらないけど、決定的な対立は避け、時に協力もあり得る。そして多国間で連携しながら向き合う」ということになりますね。

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