医療

梅毒急増 考えよう 性感染症のこと

梅毒急増 考えよう 性感染症のこと

2024.02.28

性感染症の梅毒の感染者数が急増しています。

 

年間の感染者数は10年で12倍に急増し、2023年には、現在の方法で統計を取り始めてから3年連続で過去最多となりました。

 

実は、増加しているのは梅毒だけではありません。

 

淋病やクラミジアなど、ほかの性感染症も増加傾向にあります。

 

この背景に、性感染症について話すことを避けがちな風潮があるのではないかと考える専門家もいます。

 

性感染症を身近なことと捉えて、話し合うハードルを下げてほしいというトークイベントを取材しました。

 

(科学文化部 三谷維摩 山下由起子)

性感染症について語り合おう!

2024年2月、梅毒について語り合うトークイベントが東京都内で開かれました。

登壇したのは、性教育ユーチューバーとして活動するシオリーヌさんと、性感染症の専門家で愛知医科大学の三鴨廣繁主任教授です。

性感染症のことが気になっても、家族やパートナーとは話題にしにくく、知識不足や誤った知識が広がっているのではないか。

トークイベントは、こんな問題意識から、正しい知識を分かりやすく伝え、周囲の人と話すきっかけになればと開催されました。

(三鴨主任教授)
梅毒の感染者数は、10年前と比べて、男性は10倍、女性は23倍に増えています。梅毒は身近な病気になりました。自分には関係ないと思うのは、やめにしよう。

三鴨廣繁主任教授

しかし、

(シオリーヌさん)
普通に暮らしていて性感染症について知識を得る場がなく、これだけ感染者がたくさんいるのに『自分ごと』になっていません。性感染症は特別なものではなくて、一度でも性的接触があれば、誰しも経験しうるということを伝えたいです。

シオリーヌさん

性感染症の広がりは

梅毒の感染者数は実際にどのくらい増えているのでしょうか。

国立感染症研究所のまとめによりますと、全国から報告された梅毒の感染者数は、2023年の1年間の速報値で1万4906人と、過去最多になりました。

2012年は875人と1000人に満たない数でしたが、それ以降、急増しています。

国立感染症研究所のまとめ 2022年と2023年は速報値

増えたのは梅毒だけではありません。

厚生労働省がまとめた2021年までのデータによると、淋病はここ数年増加傾向が明確になってきました。

クラミジアは長年、女性に多い性感染症でしたが、2019年に逆転し男性のほうが多くなっています。

自分とは遠い話題だから大丈夫?

性感染症というと、自分とは遠い話題のように感じる人もいるかもしれません。

性風俗産業を利用したり、働いたりしている人のものと思ってはいないでしょうか。

でも、国立感染症研究所のまとめでは、梅毒の感染者のうち、性風俗産業を利用したことのある男性、性風俗産業に従事したことのある女性はそれぞれおよそ4割です。

一方で、性風俗産業の利用歴や従事歴のない人もおよそ3割います。

決してひと事ではない状況になっています。

また、東京や大阪、福岡、愛知といった大都市だけの問題でもありません。

2023年1年間の梅毒の感染者数を都道府県別に見ると、▽東京が3658人、▽大阪が1967人などと、大都市で多いのは事実です。

しかし、増加率でみると地方でも問題は深刻です。

2022年1年間の人数からの増加率は、

▽長崎県が2.81倍で146人、▽鳥取県が2倍で28人、
▽山形県が1.94倍で31人、 ▽和歌山県が1.82倍で62人

などとなっています。(いずれも速報値)

(日本大学医学部 川名敬主任教授)
梅毒が流行しているのは大都市だけではなく、地方都市にも広がっています。梅毒はいまや身近な病気になっています。

川名敬主任教授

症状で気づけるから大丈夫?

梅毒の初期の症状は気づきにくい、ということを多くの専門家が指摘しています。

感染から1年以内の「早期梅毒」と呼ばれる時期は、原因となる細菌が入り込んだ場所を中心に3ミリから3センチほどの腫れやしこりが現れることが多いとされます。

その後、手や足など全身の赤い発疹、発熱やけん怠感など、さまざまな症状が出ることがあります。

しかし、症状が出ても痛みを感じることは少なく気がつかないことも多いほか、無症状のことも多いと専門家は指摘しています。

梅毒の症状の例 発疹やかさつき

(梅毒に詳しい 古林敬一医師)
妊娠を考えている女性の検査をしたときのことです。この女性には性感染症の症状はありませんでしたが、検査をしたところ思いがけず梅毒が陽性となりました。
私は、梅毒はほとんどが無症状だと言っても良いと思います。何かきっかけがあって検査を受けないと、自分で気付くことは非常に難しいです。

古林敬一医師

症状が無くなったから大丈夫?

梅毒の治療には、飲み薬を一定の期間服用する方法と、注射を打つ方法の大きく2つがあります。

治療にあたっている医師たちが問題だととらえているのは、飲み薬を自己判断で勝手にやめてしまう人がいることです。

梅毒の症状は、治療をせずに消えたり、薬を飲んでいる途中で消えたりすることがあります。

しかし、これは治ったわけではありません。


治療をしなければ梅毒はそのまま進行していきます。

また、症状がなくても、感染してから1年程度は、感染を広げる可能性があります。

(古林医師)
梅毒の原因となる細菌は、非常にゆっくり増殖する菌で、薬は菌が増殖するときに作用することが分かっています。飲み薬で治療する場合は、一定の期間、薬を飲み続けないといけません。自己判断で薬を飲むのをやめず、最後まで飲みきってほしいです。

また、梅毒の治療薬は薬局などで購入することはできません。

自己流で判断せずに、医師の指示に従って薬を飲み切り、梅毒が治ったかどうか検査を受けて確認してほしいということです。

一度感染したからもう大丈夫?

感染症の中には、一度感染すると免疫がついて、その後は感染しなかったり、感染しにくくなるとされる病気もあります。

しかし専門家は、梅毒は一度感染しても免疫ができにくいため、何度でも感染することがあると指摘しています。

(プライベートケアクリニック東京 尾上泰彦院長)
2回目の感染で受診する人は、男女問わずよく見かけます。過去には4回目の感染で受診した人もいました。梅毒は、注意を怠ると何度でも感染してしまいます

尾上泰彦院長

治療を終えたからと言って、その後、性感染症への対策をしなくてよいわけではありません。

淋病やクラミジアなども繰り返し感染する可能性がある性感染症です。

一度かかったからもうかからないとは思わないで欲しいと、専門家は口をそろえています。

自分の体の問題だから他人には関係ない?

梅毒は、感染すると、自分自身に深刻な症状が出るおそれがあるだけでなく、パートナーを感染させるおそれがあるほか、妊婦に感染した場合、おなかの子どもに母子感染して「先天梅毒」になる可能性もあります。

先天梅毒の子どもは、皮膚の異常や 難聴といった症状が出たり、発達に遅れが出たりするおそれがあります。

先天梅毒として報告された子どもの数は、2023年の速報値で37人と、いまの方法で統計を取り始めてから最も多くなりました。

(川名主任教授)
梅毒の感染が拡大する中、感染に気付いていない女性もいると考えられます。感染に気付かず妊娠すると先天梅毒がさらに増えることが危惧されます。
過去にリスクのある性行動があった場合は、症状がなくても感染しているかもしれません。
男女ともに、自分ごととして捉えて検査を受けてほしいです。

危ないことはしていないから大丈夫?

トークイベントでは、こんな質問も出ました。

性交渉の相手が恋人だけの場合、感染の心配はしなくてもいいですか?

(シオリーヌさん)
相手が、恋人になる前のことは分かりません。
お互いに検査をして、感染していなければ、それ以降は安心と言えるのではないでしょうか。

日本大学医学部の川名主任教授とNHKが2022年に共同で行ったインターネットのアンケート調査では、性感染症に感染したことのある女性のおよそ8割、男性のおよそ5割は、特定の相手としか性交渉を行っていなかったと答えています。

「自分はリスクのある性交渉はしないから関係ない」と安心していいというわけでもありません。

コンドームは予防になるの?

コンドームは感染予防のために重要で、感染の可能性を下げることができます。

(シオリーヌさん)
中高生と話していると、コンドームは18歳以上でないと買えないと思っている人がいますが、そのようなことはありません。成人向けの製品ではないので、必要であれば何歳でも購入できます。

しかし、コンドームで性感染症をすべて予防できるわけではありません。

オーラルセックスなどでコンドームを着用していないときや、性器周辺以外の場所に出来た潰瘍などから感染することもあります。

コンドームを使わない性交渉があったときや、不特定の相手と性交渉があったときのほか、「人生の節目」に検査を受けることを提案している専門家もいます。

(尾上院長)
不特定多数の人との性的な接触を避けること、それにコンドームを使うことが重要です。
しかし、コンドームだけで100%防ぐことができるわけではありませんし、スキンシップを含めて、どのような状況で感染するか分かりません。
大事な人を感染から守るためにも、新しくパートナーができたときや、結婚するとき、子どもを作るときといった、人生の節目に検査を受ける『節目検診』も考えてみてください。

シオリーヌさん「検査は愛情表現」

梅毒は早めに発見して治療すれば、治る病気です。

しかし、病気に気付かなければ、治療を始めることができません。

トークイベントの最後に、シオリーヌさんは、性感染症の検査に抵抗を感じないでほしいと呼びかけました。

(シオリーヌさん)
性感染症の検査は前向きなことだと考えて欲しいです。後ろめたいものではありません。
自分の体を考えるきっかけになるし、自分からパートナーに感染させないためのものでもあります。
パートナーやつきあっている相手に『検査を受けて』と言えないという人が多いと聞きますが、お互いを大事にしているという愛情表現でもあります。検査に行くことのハードルを下げて行ければと思います。

2024年2月25日(日) 「NHKニュース」で放送

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