科学と文化のいまがわかる
原子力
2018.09.13
電力会社が最もおそれ、決して起きてはならないとしていた全域での停電「ブラックアウト」。そのブラックアウトが北海道で現実のものとなった。地震で直接、被害を受けた発電所は1か所。それがなぜ、北海道全域での停電を引き起こしたのか。住民生活や物流などにも深刻な影響を与えた大規模停電。地震から1週間、取材でいくつもの課題が浮き彫りになってきた。
「北海道で大地震が起きた」
自宅で寝ていたところ、一報を受けた。すぐに泊村にある泊原子力発電所の取材を進めると「午前3時25分に外部電源を喪失した。非常用の発電機で対応している」という。泊原発周辺の揺れは震度2。それなのになぜ、外部電源を失ったのか、まず、疑問が浮かんだ。
泊原発は、東日本大震災の翌年、平成24年5月までにすべて運転を停止しているが、貯蔵プールには1527体もの核燃料が入っている。安定して冷却が続けられるか、動向を注視していたところ、札幌放送局から情報が寄せられた。
「道内全域で電力が供給できず、およそ295万戸が停電」
「道内全域?」
日本ではこれまであまり知られていなかった“ブラックアウト”の取材が始まった。
北海道の初秋は涼しい。地震は午前3時7分、電力需要がとくに少ない時間帯に起きた。このときの需要は310万キロワット、冬場のピーク時の6割ほどだという。この310万キロワットの5割以上をまかなっていたのが、震度7の揺れを観測した厚真町にある苫東厚真火力発電所だった。
地震直後、苫東厚真火力発電所の3基のうち2基が緊急停止。ここで供給の4割余りにあたる130万キロワットが落ちる。
そして、18分後の午前3時25分、残る1基や別の発電所も停止して、北海道全域が停電するブラックアウトに至ったのだ。
なぜ、2基が停止したあと、地震の影響をほとんど受けていないほかの火力発電所なども停止したのか。
背景には、電力需要の大部分を1か所の発電所に集中させていた「いびつな状態」があった。
ブラックアウトのカギを握っていたのが電気の「周波数」だ。
この周波数が乱れると、発電所のタービンの回転数も乱れ、羽などが壊れるおそれがある。
発電所を守るためには周波数を一定に保つことが重要だ。
周波数を一定に保つためには電力の需要と供給を同じ量にすることが欠かせない。
企業や家庭での電力需要に対して発電所からの供給が下回るとバランスを保てず、周波数は下がる。
反対に、需要に対して供給が上回ると周波数は上がる。周波数は、東日本では50ヘルツが基準で、トラブルが起きても、48.5ヘルツから50.5ヘルツの間から外れないよう、電力会社が精密にコントロールしている。
しかし、電力供給が急激に失われると、周波数が大幅に低下し、送電線でつながっているほかの発電所は損傷を防ぐため自動的に停止するシステムになっているのだ。
一方、解明されていない疑問点も残されている。
地震発生からブラックアウトまで18分間あった。この間、電力の供給が続き、北海道全域での停電には至っていなかった。
NHKは、インターネットのツイッターで、午前3時7分以降、北海道に住んでいるとみられる人が「停電」とつぶやいたツイートを調べた。
午前3時9分から24分ごろにかけて、道内各地で停電に関する投稿が次々にあがっていたが、ほぼ横ばいで推移していた。
しかし、ブラックアウトが起きた午前3時25分から27分ごろにツイート数は急増、それまでの3倍から5倍ほどに跳ね上がっていた。
ツイッターからは、午前3時25分までの18分間は、停電が起きてない場所も多かった可能性が浮かび上がった。
その要因は、地震発生後も、苫東厚真火力発電所の残る1基(1号機)や、ほかの発電所が稼働を継続したほか、地震発生から4分後には本州からの融通を受けていた電力が10万キロワットから60万キロワットに増え、供給が続けられていたからだとみられる。
これについて北海道電力は、地震直後に強制的に停電を起こす装置が自動的に作動して、一部の地域への電力供給を減らしたことで、電力の需給バランスを保とうとして、18分間にわたって大規模停電を防いでいた可能性があるとしている。
しかしその後、苫東厚真火力発電所1号機など、すべての発電所が停止した。
なぜ18分後に停止したのか、詳しい原因はまだ解明されていない。さらに、激しい揺れに襲われた1号機だけが、なぜ緊急停止せず、稼働していたのかもわかっていない。北海道電力には、原因の徹底した究明と初動の対応に問題がなかったかなど、ブラックアウトに至った経緯の検証が求められている。
大規模な停電は、住民の生活をはじめ全国規模での物流などに大きな影響を与えた。
コメやとうもろこしなどの農作物や、旬を迎えているサンマなどの魚介類の輸送ができなかったり、多くの病院が一時、外来の受付をやめたりしたほか、透析患者への対応に奔走するなど影響や被害が広がった。
停電は、地震から2日後、ほぼ全域で解消したが、電力供給量は依然、十分とはいえない。政府は、地震から4日後の10日(月曜日)から、経済活動が活発になって電力の需給状況が厳しくなるとして、計画停電を避けるためにも20%の節電目標への協力を求めている。
こうしたなか、翌11日には、運転開始から40年がたった火力発電所の1基でトラブルが起きて自動停止し、別の1基を立ち上げた。
さらに、道内最大の苫東厚真火力発電所の復旧の見通しは、1号機は9月末以降、2号機は10月中旬以降、4号機は11月以降だという。
被災されている方には大変なことだが、再び最悪の事態にならないためにも節電が必要な状況が続いている。
電力システムに詳しい東京電機大学の加藤政一教授は、東京湾を例に挙げた。
「首都圏の電力は、多くが東京湾にある火力発電所から供給されている。ここで大きな地震が起き、仮に多くの発電所が同時に被害を受けた場合、大規模停電が起きるおそれがある。それを避けるためには発電所を東京湾から離れたところに置くなど分散することも考えないといけないが、膨大な費用がかかる。いつ起こるかわからない大地震に対し、対策としてどこまで負担すべきか、電力料金との兼ね合いもあり非常に難しく、社会全体が考えていく必要があると思う」
北海道電力は、今回の地震が起きる前から主要な電源を分散する必要性を認識していた。来年から新しいLNG=液化天然ガスの火力発電所を稼働させる計画だったほか、本州からの電力供給を増強するための工事も行われていた。
一方、北海道電力が頼みとする泊原発は、敷地内にある断層の問題で国の審査が長期化し、再稼働の見通しは立っていない。
電力の安定供給という電力会社の“至上命題”を果たすために、地震や津波、台風などの自然災害のリスクをどう見積もって対策をたてるのか。
北海道を襲ったブラックアウトは、電源の分散化と、被害を最小限に抑える減災対策の必要性を浮き彫りにしている。