北海道・三陸沖後発地震注意情報 発表されたらどうする? Q&A

「千島海溝」と「日本海溝」で巨大地震の可能性がふだんよりも高まったとして発表されるのが「北海道・三陸沖後発地震注意情報」です。
いったいどんな情報?
どんなときにどう発表されるの?
どうすればいい?
Q&A方式でまとめました。
目次
Q. いったいどんな情報なの?

A. 巨大地震が発生する可能性がふだんより高まっているので、地震の揺れや津波に注意して過ごしてください、という情報です。
北海道から岩手県にかけての沖合にある「千島海溝」と「日本海溝」(東日本大震災を起こした領域の北側)について、国はそれぞれマグニチュード9クラスの巨大地震を想定しています。
大地震(先発)が発生し、その後、より規模の大きな巨大地震(後発)が起きる可能性が相対的に高まっているとして気象庁が発表します。
Q.千島海溝・日本海溝の巨大地震って何?
A. 北海道から房総沖にかけて海側のプレートが陸側に沈み込む境目で、過去には巨大地震が起きたこともあります。
「千島海溝」は、北海道の択捉島沖から十勝地方の沖合にかけて、「日本海溝」は青森県の東方沖から千葉県の房総沖にかけての一帯で、地震活動が活発です。

政府の地震調査委員会によると、「千島海溝」では1952年の「十勝沖地震」などマグニチュード8クラスの津波を伴う巨大地震が発生しています。
津波の堆積物の調査から、17世紀には領域全体が一度にずれ動くような巨大地震が起き、東日本大震災のような高い津波が押し寄せたと考えられています。
「日本海溝」沿いではマグニチュード7クラスの地震が繰り返され、2011年には東日本大震災を引き起こしたマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。
これらの領域では、300年から400年の間隔で巨大地震が発生したと考えられ、政府の地震調査委員会は「大津波をもたらす巨大地震の発生が切迫している可能性が高い」としています。
Q. 巨大地震ではどんな被害に?

A. 死者は最大10万~19万人、建物被害は22万棟が全壊するなど甚大な被害が想定されています。
国は2021年に公表した想定で「千島海溝」「日本海溝」で巨大地震が発生した場合、北海道や東北北部の沿岸を最大で20メートルを超える巨大な津波が襲い、死者は最大で19万人に達する甚大な被害になると推計しています。
また、建物は最大で22万棟が全壊するほか、港湾施設なども大きな被害を受けることが想定されています。

さらに寒冷地特有の「低体温症」も大きな課題です。
想定では、寒さの厳しい冬に地震が発生した場合、津波に巻き込まれたり、屋外で長時間過ごしたりするなどして命の危険にさらされるおそれのある人が、日本海溝で4万2000人、千島海溝で2万2000人に達するとしています。
Q. 巨大地震注意の情報なぜ出すことに?

A. 震源域や周辺では大地震のあと、さらに規模の大きな地震が発生したことが知られていて、万が一、巨大地震が起きた際に被害を少しでも軽減するためです。
「日本海溝」と「千島海溝」ではマグニチュード7クラスのあと8や9クラスの巨大地震が発生した事例があります。
直近では、東日本大震災を引き起こした2011年3月11日のマグニチュード9.0の巨大地震です。2日前にマグニチュード7.3の地震が発生しています。
また、1963年には択捉島南東沖を震源とするマグニチュード7.0の地震があり、その18時間後にマグニチュード8.5の後発地震が起きました。
このため気象庁は、マグニチュード7クラスの地震のあと、巨大地震が発生する確率が高まっているおそれがあるとして、最初の地震発生から2時間後をめどに内閣府と合同で記者会見を開き、情報を発表します。

対象となる地域は、太平洋側を中心とした北海道と青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、千葉県の182市町村です。
Q. 情報が出たらどうすればいいの?
A. 暮らしや経済活動はふだんどおり。でも、いざというときへの備えを再確認しておく必要があります。
情報が出されても後発の地震が必ず発生するわけではなく、事前の避難の呼びかけはありません。
情報が発表された場合、1週間程度は日常の生活を維持しつつ、津波が想定されるなど迅速な避難が必要な場合にはすぐ行動できるよう備えておくことなどが求められます。

具体的な対策について、国はガイドラインで詳しく示しています。
Q.情報の確度はどれくらい?
A. 巨大地震につながるのは1/100程度。国は「情報が出されたからといって、必ず巨大地震が起きるとは限らない」としています。一方、情報の発表は2年に1回程度と頻繁になるということです。
世界的な統計では、マグニチュード7クラスの地震のあとに8クラスの巨大地震が起きるのは100回のうち1回程度、9クラスになるとさらに低いとされています。
一方、国のこれまでの説明では、過去の地震の履歴から後発地震注意情報は2年に1回程度と頻繁に発表される見込みです。
国の専門家による検討会の報告でも「情報は空振りとなる可能性が高い」としています。
情報が出される前に突然、津波を伴う巨大地震が発生することや、先発の地震から1週間をすぎてから規模の大きな地震が起きることもあり、日頃からの備えが大切です。
Q.“情報”をどう受け止めるべき?
A.“空振り”ではなく“素振り”と思って準備しておきましょう。
国の専門家による検討会の座長を務めた東京大学大学院の片田敏孝特任教授に話を聞きました。
片田さんは情報が発表された場合、その後に巨大地震が必ず発生するとは限らないが、可能性はふだんよりも相対的に高まっていると理解すべきだと指摘します。

「基本的に、地震の予知や予測をすることはできないということを、まず理解してほしい。この情報は、あくまでマグニチュード7クラスの地震が起きた場合、それに連動する地震が発生し、津波をもたらす可能性が相対的に高まっているという状況を知らせるものだ」
「非常に不確かな情報であることは事実だが『何も起こらなかったじゃないか』『逃げて損した』と考えてしまうと、情報自体が“オオカミ少年”となり、いざその時を迎えたときに『逃げときゃよかった』という事態を迎えてしまう。そのため“空振り”ではなく“素振り”と受け止めてほしい。自分や家族の命を守るための情報と考え、主体的に賢く活用してほしい」
Q.「南海トラフ地震臨時情報」との違いは?

A. 後発地震への備えを呼びかける情報としては同じ。事前の避難の呼びかけが大きく異なります。
同じように後発地震への防災対応を呼びかける情報には「南海トラフ地震臨時情報」があります。「北海道・三陸沖後発地震注意情報」と大きく異なる点が2つあります。
「南海トラフ地震臨時情報」は、想定震源域やその周辺でマグニチュード6.8以上の地震が起きたり、ひずみ計で異常な地殻変動が観測されたりするなどした場合、巨大地震との関連について調査を始めたことを示す「調査中」というキーワードで情報が出され、専門家で作る「評価検討会」が検討を行います。
一方、千島海溝と日本海溝で「後発地震注意情報」の対象となっている領域では、科学的な観測結果・知見などが十分でなく、過去に起きた巨大地震のメカニズムが詳しくわかっていないため専門家による検討は行われません。
もう1点は「事前避難」の呼びかけです。
南海トラフ地震臨時情報では、プレート境界でマグニチュード8以上の地震が起きた場合に「巨大地震警戒」というキーワードで臨時情報が発表され、津波の到達までに避難が間に合わない地域の住民に対して1週間、避難の継続が呼びかけられます。
これに対し、日本海溝や千島海溝の知見は限られるため、「後発地震注意情報」では事前の避難の呼びかけはありません。
Q.今後の課題は?
A. 住民への周知と具体的な対策の継続。国は情報について「大規模地震の発生可能性がふだんより相対的に高まっているといっても、後発地震が発生しない場合のほうが多い」とはっきりと指摘しています。
こうした特性を利用する側(住民・企業・地域など)はよく理解して、具体的な対策につなげていくことが大切です。
一方、周知や理解を進める難しさはすでに国が運用を始めている「南海トラフ地震臨時情報」でも明らかになっていて、NHKが対象地域に行ったアンケートでは、住民への浸透が進んでいないと答えた市町村が8割近くに達しています。
住民の理解を得ながら事前の備えを進めるためにも、国と自治体が協力して繰り返し周知に努め具体的な対策を続けることが求められています。

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