2023年7月10日
リトアニア NATO スウェーデン ウクライナ ロシア

【詳しく】NATO首脳会議 ロシアにどう対処?ウクライナ加盟は?

「ロシアが侵攻で得るものは何もない」

NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は今月7日に開いた会見で、こう強調しました。

今週開かれる首脳会議では何を協議し、軍事侵攻を続けるロシアにどんなメッセージを打ち出すのか。

ウクライナはNATO加盟に近づくのか。首脳会議のポイントは?詳しく解説します。

(ブリュッセル支局長 竹田恭子)

NATO首脳会議いつどこで開かれる?

今月11日から12日まで、ロシアと国境を接するバルト三国のリトアニアで開かれます。

リトアニアの首都ビリニュス

ロシアと、ロシアと同盟関係にあるベラルーシ、両国と国境を接するリトアニア。

アメリカのバイデン大統領をはじめ、各国のリーダーが集まって首脳会議が開かれる首都ビリニュスは、ベラルーシとの国境から30キロほどしか離れていません。

旧ソビエトに併合された歴史からロシアへの警戒感が強く、ウクライナへの侵攻を受けてロシアに対する強い制裁を呼びかけるなど、バルト三国のほかの国やポーランドとともに、欧米各国の中でもっとも強硬な立場をとっています。

ウクライナをめぐるポイントは?

ストルテンベルグ事務総長は記者会見で「ウクライナをNATOに近づける」として、合意する見通しの支援策について明らかにしました。

NATO=北大西洋条約機構 ストルテンベルグ事務総長

軍事面・政治面の支援は?

軍事面ではウクライナ軍への複数年にわたる支援です。

最大の目的は、ウクライナ軍の装備などを「旧ソビエト規格」から「NATO規格」に移行させ、ウクライナとNATO加盟国の軍が協力しやすいようにすることです。

実用面で「ウクライナをNATOに近づける」ことにもなります。

そして、政治面ではウクライナとNATOの協議体を現在の「委員会」から「理事会」に格上げします。「理事会」では、ウクライナはNATO加盟国と対等の立場で話し合うことができます。

今回の首脳会議の場で開催される初会合には、ウクライナのゼレンスキー大統領も参加する見通しです。

ウクライナのNATO加盟は?

NATOはすでに15年前、2008年の首脳会議で「ウクライナは将来、NATOに加盟する」ということで合意していますが、その後具体的な進展はありません。

今回の首脳会議では、「将来の加盟」に向けてこれまでよりも明確なシグナルが出せるかどうかがポイントです。

NATOの北大西洋条約第5条は「加盟国1国に対する攻撃を全体に対する攻撃とみなして反撃などの対応をとる」という集団的自衛権の行使を定めているため、「ロシアによる軍事侵攻が続くなかでの加盟は難しい」という認識で加盟国は一致しています。

慎重な姿勢の国もある中、「15年前と同じことばを繰り返すだけでは不十分」、「NATO加盟に向けた具体的なステップを示すべき」という声が上がっていて、各国間の調整が続いています。

ウクライナへの「安全の保証」は?

NATO加盟が実現するまでのあいだ、ウクライナが求めている「安全の保証」に各国がどうこたえるかもポイントです。

ウクライナ大統領府のイエルマク長官は去年9月、NATOの前事務総長のラスムセン氏とともにNATO加盟までの「安全の保証」について提言をまとめました。

ゼレンスキー大統領に提言の文書を渡す NATO ラスムセン前事務総長(2022年9月)

今後のロシアの攻撃や侵攻を防ぐには、ウクライナが強力な自衛能力を備える必要があるとして、各国に長期的な兵器の供与や軍の訓練、防衛産業の育成支援などを求めています。

ラスムセン氏は6月、首脳会議にあわせてアメリカやイギリス、ドイツやフランスが長期的な支援を表明するという見通しを示しました。

アメリカのバイデン大統領も7日、CNNとのインタビューで、停戦合意などがあることを条件に防衛のための武器を供与することなど、安全保障上の別の枠組みを提供できるという考えを明らかにしていて、具体的にどのような支援が表明されるのかが注目されています。

ヨーロッパに向けて出発する アメリカ バイデン大統領

スウェーデン加盟はどうなる?

スウェーデンは今回の首脳会議までにNATOに加盟することを目指してきましたが、まだ、トルコとハンガリーが承認していません。

ストルテンベルグ事務総長は首脳会議開幕前日の10日に急きょ、スウェーデンとトルコの首脳会談を設け、ぎりぎりまで調整が続けられる見通しです。

NATOが目指しているのは、首脳会議の場でトルコが「加盟を承認する用意がある」と表明、その上で「前向きな決定」を行うこと。加盟国が改めて、スウェーデンの早期加盟を強く支持する姿勢を打ち出すことなどを想定しているとみられます。

ただ、トルコは「圧力」だとして反発しており、スウェーデンのNATO加盟に向けて前進するのかどうか、こちらも注目です。

トルコ エルドアン大統領(2023年7月)

加盟国の国防費も増額に?

NATO加盟国は2014年、ロシアによる一方的なクリミア併合のあとに開いた首脳会議で、各国の国防費について2024年までにGDP=国内総生産の2%になるよう目指すことで合意しました。

しかし7日に発表された推計では、ことし2%に達するとみられるのは31の加盟国のうち、アメリカやイギリス、東欧やバルト三国の国々など11か国にとどまっています。

ストルテンベルグ事務総長は「2%は目指すべき目標ではなく、最低限、達すべき数字だという認識で一致すべきだ」と繰り返し強調してきました。

今回の首脳会議では「最低2%」の方向で合意するとみられます。

防衛態勢の強化 ロシアにどう対処?

NATOは2014年以降、防衛態勢の見直しを進め、ロシアと国境を接するバルト三国とポーランドに多国籍部隊を配置。

ラトビアに配属されているNATOの多国籍部隊(2020年)

不測の事態に迅速に対応するための即応部隊も4万人規模に増強しました。

去年のロシアによる軍事侵攻を受けてこの動きはさらに加速。

ヨーロッパ東部に配置する多国籍部隊の数を4つから8つに増やし、黒海沿岸のルーマニアやブルガリアなどにも配置しました。

また、去年の首脳会議では、即応部隊を再編し将来的に30万人規模にすることでも合意しています。

赤丸は多国籍部隊が配置されている場所

今回の首脳会議では、地域で分かれた、新たな防衛計画を承認します。

部隊や装備の配置にもかかわる詳細なもので、具体的には、次の3つの地域についての計画です。

▼北極圏から大西洋沿岸にかけての北部地域
▼バルト海沿岸からアルプスにかけての中部地域
▼地中海や黒海沿岸の南部地域

NATOが地域ごとの防衛計画を見直すのは冷戦終結後、初めてだということです。

NATO バウアー軍事委員長

NATOの軍事機構を率いるバウアー軍事委員長は、ロシアがウクライナへの軍事侵攻で多くの兵器や人員を失う中でも、防衛計画を見直すことについて「ロシアの立ち直る能力を過小評価すべきではない」と述べ、警戒を怠るべきではないと強調しています。

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