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「我々が国境地帯で活動すれば、ロシア軍は部隊を割かねばならず、それはウクライナ軍を助けることになる」
「プーチンは弱く、無能で、ロシアが戦争に負けつつあることを思い知らせる」
こう語るのは、ロシアの反体制組織でウクライナ側にたつ「自由ロシア軍」の幹部です。
ウクライナの反転攻勢が始まるなか、ロシアと戦う“もう一つのロシア軍”の幹部にインタビューしました。
(ウクライナ取材班 小林雄)
話を聞いたのは「自由ロシア軍」の幹部
今回、NHKの単独取材に応じたのは、「自由ロシア軍」の政治部門の幹部、イリヤ・ポノマリョフ氏です。ポノマリョフ氏はもともとロシア議会の議員でしたが、プーチン政権に反対し、ウクライナで亡命生活を送っていました。
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ポノマリョフ氏が参加する「自由ロシア軍」に注目が集まったのが先月でした。
ウクライナと国境を接するロシア西部のベルゴロド州で戦闘が起き、「自由ロシア軍」と「ロシア義勇軍」という2つの組織が戦闘への関与を主張したのです。
ウクライナからの反転攻勢に備えるロシアにとって自国の領内で発生した異常事態でした。
(以下、イリヤ・ポノマリョフ氏の話)
あなたの「自由ロシア軍」での役割は?
私は「自由ロシア軍」の政治的調整を行う役割を担っています。
ウクライナの首都キーウには、「自由ロシア軍」と「国民共和軍(National Republican Army)」という、2つのロシアの反体制組織が作った政治センターがあります。私はそこでコーディネーター・調整官をしています。
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「自由ロシア軍」の目的は?
第一は、ロシアの解放です。
我々の土地、ロシアの領土を解放し、そこに真に自由なロシアを作り上げることです。多くの反体制派が思い描く単なる理想像(ファンタジー)ではなく、実際の領土に我々の旗、新しいロシアの旗を打ち立てることです。そして新しい国が誕生したことを世界に示すことです。
第二に、最終的にモスクワを解放するために、我々は成長しなければならないということです。
『軍事的な成功』という実績を示すことで、ロシアの人々に政権打倒が本当にできる、実現可能なことなんだという感覚を持ってもらう必要があります。
そのために当面の目標となるのは、「領土の獲得」です。
ウクライナ軍はいま大規模な反転攻勢を始めようとしています。そのため、ロシア軍は多くの兵力をウクライナ領内に配置しています。だから我々の部隊はとても簡単にロシア領内に入ることができます。
そして、我々がウクライナとの国境地帯で活動すれば、ウクライナに侵攻しているロシア軍は自らの国境の防御のために、大きな部隊を割かねばなりません。結果として、それはウクライナ軍を助けることにもなります。
ウクライナ軍との連携は?
それはややトリッキーな質問ですが、理解してほしいのは、我々も「ロシア義勇軍」もともにウクライナ軍に正式に加わっているということです。
ウクライナ軍には外国人部隊というセクションがあり、我々はそこに組み込まれています。
その意味で我々はウクライナ軍の指揮系統に何か月も前から組み込まれ、ウクライナ軍の一部としてウクライナ国内の前線で戦ってきました。
東部の激戦地・バフムトにも派遣され、ロシアの傭兵部隊ワグネルとも戦っています。「ロシア義勇軍」も我々の部隊より規模が小さいですが、非常に強力な部隊として、ハルキウやヘルソンなどあちこちで活動しています。
ウクライナ軍の反転攻勢に事実上参加?
いいえ、(ロシア領内での攻撃は)あくまで我々の自主的な作戦です。その意味で、我々は独自に行動しているということです。
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ウクライナ政府は欧米各国にロシアの領土を直接攻撃しないと約束しています。
だから「自由ロシア軍」の指揮官たちは外国人部隊の上官に、「ロシアを解放してきます」と言って、「休暇届」を出してロシアに向かっているのです。
なので、ウクライナ軍はロシア領内での活動に参加していませんし、ウクライナ兵はロシア領内にはいません。ウクライナ軍は我々の作戦になんらの支援をしてはいないのです。
しかし、もちろんウクライナ軍からのある種の賛同は得ていますし、我々の部隊は当初からウクライナ軍内で訓練を受けてきたというのは事実です。
これは実は以前、プーチン政権の部隊が2014年にウクライナに侵入してきたときと同じやり方です。
2014年にロシア兵がドンバス地域で活動した際も、プーチンは「私は何もしていない。彼らは休暇で行っているだけだ。それは彼らの自由だ」と言っていました。それと同じことをウクライナもやっているのです。
もちろん我々の活動はウクライナ軍にとって好都合であり、大きな助けになっています。ウクライナ軍の指揮官たちはロシア人部隊がウクライナの反転攻勢を助ける最も効果的な方法は何かと考えているでしょう。
しかし、強調しておきたいのは、作戦は我々が決定し、実行し、管理しているということです。そこにウクライナ軍は加わっていません。
「自由ロシア軍」や「ロシア義勇軍」の兵力は?
それについては機密として公表はしていません。軍事的にセンシティブな情報なのです。
我々の部隊に何人いるかは外部に公表することが禁止されています。
ただ、大まかな規模については言うことができます。「自由ロシア軍」には4個大隊、「ロシア義勇軍」には1個大隊規模の兵力があります。これで大まかな規模は理解できるでしょう。
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部隊にはロシア以外の国籍の人もいる?
いいえ、我々の部隊への入隊資格はロシアのパスポート、ロシアの市民権を持っていることです。なので、部隊のメンバーは全員ロシアの市民権を持っています。それが条件なのです。
また、「ロシア義勇軍」には右翼団体のメンバーが多く、彼らは民族的な意味でロシア人主体です。
一方で、ロシア国内には多様な民族がいます。タタール人やロシアに住むウクライナ人、北カフカスの人々、ブリヤート人もいます。それらの多様な人々が、プーチン政権に抵抗しようとしています。
また、例えば、ポーランド人の部隊は、我々とは協力しながら活動しています。
志願する義勇兵は増えている?
とても大勢います。
「ロシア義勇軍」については言えませんが、我々の「自由ロシア軍」については、一時1万人が参加を希望していると言われていました。直近の数字を知らないのですが、間違いなく数千人単位です。
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ただ我々の方の選考過程がボトルネックになっています。我々の受け入れ能力に限界があるんです。
訓練施設も限られていますし、なにより厳重な身元の確認をしなければなりませんが、それがとても大変なのです。ロシアの工作員が参加希望者を装って内部から部隊をかき乱そうとする試みはこれまでも多々ありました。
本心からの志願者かどうか、確認するのにとても時間がかかるのです。
多くの志願者が来ているのですから、このプロセスを早め、部隊を拡大したいところではあります。その努力をしているところです。
ウクライナや欧米から装備の提供は?
欧米諸国からは支援を受けていません。彼らは全体として極めて慎重です。
正直に私の考えを言えば、慎重すぎると言えるでしょう。ただ、これまでも幾度となく欧米諸国が言うレッドラインは変更されてきました。
ウクライナの努力もあって、かつては躊躇していた戦闘機の提供も行われるようになりました。それと同じだと思っています。ロシア人部隊も、ある意味でウクライナ軍の“一部”なのですから。そうした西側からの支援の議論はすでに始まっています。
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現在のところ、我々は戦場でロシア軍から奪った武器を主に使っています。
バフムトに派遣されていた部隊などは、ロシア軍から戦利品を獲得しています。ウクライナ軍のルールで、そうした戦利品はその部隊が使うということになっています。
最近、我々がアメリカ製のMRAP装甲車を使っているという報道がありましたが、あれもロシア軍が奪ったMRAPを、我々が奪い返して使っていたものでした。そういうことは往々にしてあります。
ただ、我々が使っている装備の90%はロシアのものです。ロシア製の戦車、ロシア製の装甲車などです。
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前線のロシア兵の士気は?
彼らは逃げてばかりです。この戦争全体で言えることですが、プーチン政権の軍隊の士気は極めて低いです。
彼らが劣勢にあるのはこのためです。彼らは何のために戦っているか分からない状態なのです。ロシアの兵士たちは我々よりも良い装備を持っていたり、数が多かったりしますが、結局のところ何のために戦っているか分かっていないのです。
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特に彼らは今、同じロシア人に対峙しているわけです。外国人ではなく同胞です。そして、彼らも分かっています。我々が、正しい目的を持った解放軍だということを。
「自由ロシア軍」に寝返るロシア兵も出ているか?
我々の仲間の3分の1はもともとロシアの軍人で、そうした元ロシア軍兵士が中心となって立ち上げたのです。軍を去り、2022年2月にプーチン政権と戦うことを決めた兵士たちなのです。
ただ、さきほども言いましたが、兵士たちが寝返って新たに参加を希望してきても、やはり我々はそれに対して慎重です。身元確認の問題があるからです。
半年ほど前にもワグネルの部隊から、ウクライナ側に寝返り、自由ロシア軍に入りたいと言ってきた男がいました。
その男は、メディアにも取り上げられヒーロー扱いされましたが、嘘発見器で調べたところ、結局はロシアの情報機関の工作員だったことが分かったのです。これは教訓でした。厳重な身元チェックがやはり重要なのです。
今後の目標は?
目標は、間違いなく「モスクワ」です。しかし、いまはまだ兵力が足りません。
ですから、私たちの現在の現実的な目標は「勢力拡大」です。
それが第一の目標で、そのために最善を尽くしています。ベルゴロド州の一部を切り取るのか、そのほかの国境沿いの町を攻め落とすのか、そこは状況次第です。
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いずれにせよ我々はモスクワのエリートたちに、我々が進軍してきていること、プーチン氏は弱く、最高司令官として無能であり、戦争に負けつつあるということを思い知らせる必要があります。
その上で最終的に我々がモスクワに至る、それが私たちの目標です。