
「反転攻勢には地上にあるすべての兵器や装備を投入する」
ロシアへの反転攻勢について、こう述べたウクライナのレズニコフ国防相。
ウクライナ軍による大規模な反転攻勢はいつ、どのように始まるのか。
欧米各国が支援を表明しているF16戦闘機の投入時期は?
シンガポールで行われたアジア安全保障会議に出席したレズニコフ国防相に話を聞きました。
※以下、レズニコフ国防相の話。インタビューは6月4日に行いました。
F16戦闘機はゲームチェンジャーになる?

F16については、ことしの夏はゲームチェンジャーにはならないでしょう。
ただ、「パトリオット」という非常に重要な防空システムの存在を強調しておきたいと思います。
5月16日、ロシアは極超音速ミサイル「キンジャール」を使用しました。
一晩のうちにキンジャール6発を同時に発射し、イスカンデルも3発使用しましたが、われわれは最新の防空システムであるパトリオットを使用し、すべて迎撃しました。

パトリオットもゲームチェンジャーであり、私たちはパートナーに対し、パトリオットのような迎撃システムや、ロケット、ミサイルなどがもっと必要だと説明しています。
F16戦闘機の投入時期は?
秋か冬の時期になるだろうと考えています。
パイロットの訓練には時間がかかりますし、それだけでなく、パートナー国から技術者や専門家を派遣してもらうことも必要です。
非常に高度なシステムを使うときは、メンテナンスや修理が必要で、それにはさらに時間がかかるのです。

残念ながら、この夏はF16戦闘機なしで反転攻勢の作戦を進めなければなりませんが、地上にあるすべての兵器や装備を投入することになります。
“形成作戦”はすでに始まっている?
すみませんが、国防相である私が形成作戦について話すのは場違いだと思います。将校たちが議論すべきものです。
形成作戦(shaping operations)とは
敵の後方支援の拠点や補給網を攻撃し、本格的な作戦を始める前に自軍の進軍に有利な状況をつくる準備段階の作戦。
ウクライナと国境を接するロシア西部などで相次いでいる攻撃をめぐっては、ウクライナ側が反転攻勢に向けて「形成作戦」を進めているという見方も出ている。

戦争が始まった当初、ウクライナは3日と持たずに敗北すると確信していた人もいました。それは、大きなソビエト軍と小さなソビエト軍の戦いだという誤った認識があったからです。
もしそうであれば、たしかに大きなソビエト軍のほうが勝利するでしょう。しかし、私たちウクライナ軍は、ソビエト軍ではありません。
私たちは2014年を境に変わりました。2014年にロシアが戦争を始め、ウクライナのクリミア、ルハンシク、ドネツクを占領したときから。日本の北方領土と、まさに同じ状況です。
私たちは2014年から、(通常の兵器に情報戦やサイバー攻撃も組み合わせた)ハイブリッド戦争に備え、ウクライナ軍の近代化を進めたのです。
アジア安全保障会議参加の成果は?
私にとって初めてとなる今回の訪問は非常に重要なものであり、アジア太平洋地域がとても重要な地域であると確信しています。

これまでに、オーストラリア、ニュージーランド、日本、アメリカ、カナダの国防相らに会いました。カンボジアの国防相とも会談を予定しています。
イギリスと韓国の代表とも握手できましたが、のちほど会いたいと思っています。そしてもちろん、シンガポールの国防相とも会いました。
中国の国防相とは廊下で会い握手を交わしましたが、これは2国間の会談ではなく非公式なものです。
なぜアジア太平洋地域が重要?
私たちはグローバルな世界に生きています。それはとても小さな世界です。
ロシアが世界の自由な航行を阻止すれば、ウクライナの穀物やひまわり油、とうもろこしなどがアジアの国々に届かなくなります。これによって皆さんは、ウクライナで戦争が起きていることを実感するわけです。

ですから私は、皆さんが食料危機を回避し、必要とする食料を得るためにも、ウクライナを支援してくれると確信しています。
世界の食料危機は、軍事的な危機や戦争と密接に結びついているのです。だからこそ、私は会議の場に赴き、友人を見つけ、連携を続けなくてはいけないのです。
繰り返しますが、この戦争は資源をめぐる戦争です。そして、私たちはこの戦争に勝利するのです。
日本との会談はどうだったか?
浜田大臣とは初めて公式に会談しました。非常に和やかな雰囲気で、親しい友人のように話し合うことができました。これは非常に重要なことです。

私は軍事侵攻が本格的に始まったとき、ウクライナが多くの支援を得られるよう、各国の国防相と個別にやりとりする必要性を認識していました。
そうすれば、私たちが何を求めているのかを伝え、なぜそれを求めているのか説明することができます。私たちの強い思いも含めて伝えることができるのです。
私たちはソビエト時代からの武器を使っていたので、ロシアの軍事侵攻が始まるとパートナー国が支援をしてくれました。
さまざまな種類の兵器や装備を得ることができ、日本からは車両が提供されました。

人道的な支援として、兵士のためのヘルメットや防弾チョッキも提供されました。兵士の命を守ることが最優先なので、とても感謝しています。
このほか、負傷した兵士たちの治療などについても議論しています。
ロシアは依然としてソビエト軍のままであり、彼らにとって兵士は使い捨ての消耗品に過ぎないため、犠牲者が出ることを問題視していません。しかし、私たちにとって仲間の死は非常に重大なことで、だからこそ大臣とそうした議論を交わしているのです。
私たちは、日本の皆さん、そして日本政府からの支援に本当に感謝しています。
反転攻勢の準備は整っている?
私の考えでは、真の反転攻勢は2022年2月24日、ロシアが軍事侵攻を開始したときから始まっているのです。あの日、あの瞬間から、私たちは反撃を開始し、ロシアに攻め込まれた領土の半分以上を解放しました。
キーウ州、チェルニヒウ州、スムイ州、スネーク・アイランド(ズミイヌイ島)、ハルキウ州、そしてドニプロ川の右岸とへルソン。
そして光栄なことに、われわれウクライナは今から100年前に(日露戦争で)日本の艦隊が成し遂げたのと同じことを再び実現しました。

日本が100年前に対馬周辺で成し遂げたのと同じように、われわれはロシアの黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を沈没させました。これは歴史上2度目の出来事になります。
今、黒海の底に沈んでいるロシアの軍艦は、私たちが勝利すれば、有名なダイビングスポットになるでしょう。そのときには、私がダイバーとして案内するのでお越しください。
