2023年6月7日
ウクライナ ロシア

ロシアの軍事侵攻 どう終わらせる?カギは“主要国”以外!?

「インド、特に私は個人レベルで解決のためにできることは何でもする」

G7広島サミットで、招待国として参加したインドのモディ首相はウクライナのゼレンスキー大統領にこう伝えました。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻はいつ終わるのか。

連日、ウクライナ側の反転攻勢に注目が集まるなか、今後の出口戦略の1つのカギとなりそうなのが、インドやブラジルなどの「グローバルサウス」と呼ばれる国々です。

このモディ首相の言葉を聞いて、ある会議を思い出しました。

今春、日本で開催された「東京会議2023」です。

10か国の専門家が激論を交わした会議で見えた“プーチンの戦争”終結のカギを探りました。

(国際部記者 野原直路 / 能智春花)

東京会議2023とは

ことし3月23日から3日間、都内のホテルで開かれた国際シンポジウムです。

外交に関する調査などを行う日本の非営利シンクタンク「言論NPO」が、2017年から毎年開いています。その時々の世界の問題について、各国の国際政治などの専門家が集まり、議論してきました。

「東京会議2023」(2023年3月)

最大の特徴は、参加国の顔ぶれです。欧米諸国だけでなく、インドやブラジル、シンガポールなど、さまざまな地域から識者が参加しています。

世界各地で対立や緊張が高まる中、「主要国」の立場だけでは見えてこない、多様な視点で議論や提言をすることが狙いです。

ことし参加した国は?

公開された討議には、アメリカ、イギリス、インド、シンガポール、デンマーク、ドイツ、ブラジル、フランス、カナダ、日本の計10か国から11人の専門家が参加しました。

注目されたのが、会議2日目に行われた公開フォーラム。ウクライナの軍事侵攻から1年が過ぎる中、現状と今後について議論を交わしました。

論点① ロシアと停戦交渉すべきか?

ロシアと停戦交渉すべきか、否か。このテーマは、欧米と「グローバルサウス」を代表する国々で、その立場が割れました。

「いまは交渉の時ではない」

ウククライナに多額の軍事支援を続ける欧米の識者の多くは、こう訴えました。

安易にロシアに妥協して停戦しても、再びロシアによる軍事侵攻を許しかねない。その危機感から、徹底的にウクライナ支援を続けるべきだという立場でした。

“まだ停戦交渉をすべきでない”

アメリカ 外交問題評議会シニアバイスプレジデント ジェームス・リンゼイ氏
「軍事侵攻の平和的な決着といっても、その中身が極めて重要です。侵略をしたロシアに利益をもたらすような内容では、非常に危険な前例を残すことになり、私たちは後悔するでしょう。外交の機は熟していません」

デンマーク ラスムセン・グローバルCEO ファブリス・ポティエ氏
「現時点では軍事的な解決策しかなく、外交や政治で解決できるとは思えません。プーチン大統領は、みずからの支配が非常に強力であると同時に、もろいことも理解しています。ロシア国内で彼の立場が弱まった時、政権を維持しつつも、なんらかの形で敗北を受け入れなければならないと思います」

また、第2次世界大戦を引き合いに出して、戦争はそもそも一方が完全に疲れ切るまで、交渉が始まらない場合もあると指摘したのが、ドイツの専門家です。

ドイツ国際政治安全保障研究所 ディレクター ステファン・マイヤー氏
「戦争は交渉によってのみ終わらせられるという事実はありません。ドイツや日本のように、軍事的敗北によって戦争を終えることもあります。今は交渉の時ではなく、われわれは、ウクライナを支援し続ける必要があります」

ウクライナが受け取ったと表明した イギリスの主力戦車「チャレンジャー2」

“停戦交渉すべき”

一方、こうした姿勢に「待った」をかけたのが、「グローバルサウス」の“代表格”としての立場を築きつつあるインドの専門家でした。ロシアの軍事侵攻は許容できないとしつつも、停戦に向けた交渉を、いつまでも先延ばしにはできないと主張したのです。

インド オブザーバー研究財団 理事長 サンジョイ・ジョッシ氏
「みなさん交渉のときではないといいますが、ではいつが交渉のときなのでしょうか」
「私はインド政府を代表している訳ではありませんが、『グローバルサウス』の人たちの間でどんな議論があるかという観点で発言します。ロシアを弱体化させた上で交渉のテーブルに着かせるといっても、それはいったい、いつになるのでしょうか。ロシアは世界で11位の経済規模を誇る国です。弱体化させるには、何年も何年もかかります。『サウス』の国々はこの戦争を憂慮しています」

欧米とロシアとの対立で戦争が長引くほどに、侵攻に伴うインフレによって途上国の苦しみも続いてしまう。ウクライナ以外の国々が被っている痛みにも、目を向けてほしいという訴えでした。

もう1人、別の見解を示したのが「グローバルサウス」を代表するブラジルの専門家でした。

ロシアを軍事的な敗北に追い込めば、ロシアの「暴発」を招くのではないかと懸念を表しました。

ブラジル ジェトゥリオ・ヴァルガス財団総裁 カルロス・イヴァン・シモンセン・レアル氏
「もしロシアが敗北すれば、核兵器を使って対抗するかもしれません。それは危険すぎる賭けです。とても残念なことですが、もっとも安定した解決策は、『こう着状態』になることです」

ロシアによるICBM発射実験(2022年)

論点② 経済制裁は続けるべきか

軍事侵攻が始まって以降、欧米などが続けるロシアに対する経済制裁。

続けるべきか、否か。これについては、各国で意見が分かれました。

“経済制裁の継続を”

経済制裁の効果は表れていて、継続すべき。こう主張したのがイギリスの識者です。

イギリス王立国際問題研究所 グローバル経済・金融プログラム ディレクター クレオン・バトラー氏
「経済制裁は非常に重要な役割を果たすようになりました。ロシアの状況を見ると、優秀な人材の流出や資金、技術の不足など、中長期的に非常に大きなダメージを与えています」

“経済制裁には限界も”

一方で、フランスの識者は、逆に制裁の「限界」に触れ、ロシアの国民自体を追い詰めすぎる弊害を指摘しました。

フランス国際関係研究所 所長 トマ・ゴマール氏
「ロシア国民に対しては、政治的な変化があれば経済制裁の解除もありうると、語りかけていくべきです。なぜ経済制裁が科されるのか、そしてどうすれば解除されるのかを説明せずに制裁を強めれば、ロシア国民を隅に追い詰めてしまいます」

制裁は、戦争を続ける体力を削る上では有効であっても、ロシアの世論に変化を起こすには不十分だという指摘でした。

ロシアの独立系の世論調査機関によると、欧米側の強力な経済制裁にもかかわらず、ロシア国民の多くは軍事侵攻の支持を続けている現実があります。

※「レバダセンター」は政権から「外国のスパイ」を意味する「外国の代理人」に指定され 圧力を受けながらも独自の世論調査活動や分析を続けている

このまま厳しい経済制裁を続ければ、かえって、ロシアの世論を硬化させてしまうのではないかという懸念が示されたのです。

“経済制裁は再考を”

また、インドの識者は、軍事侵攻やそれに伴う経済制裁などの影響が、途上国を中心に世界的に広がっている現状に強い懸念を示しました。

インド オブザーバー研究財団 理事長 ジョッシ氏
「この戦争の影響はウクライナだけでなく、世界の多くの国々にも及んでいます。銀行システムからエネルギー、食料、そして肥料や小麦も、あらゆるものが戦争の道具に使われ、ある種の総力戦の様相を呈しています。これが今回の戦争を、より大きなものにしています」

論点③ 軍事侵攻終結の鍵を握るのは?

去年2月に始まったロシアによる軍事侵攻。まだまだ先行きがみえません。

ただ、いずれ訪れるであろう停戦に向けた動きの中で、どの国が仲介役を果たせるのか。この点については、ある程度意見の一致が見られました。それは、軍事支援を続ける欧米などの「主要国」以外だということでした。

カナダ 国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁 ポール・サムソン氏
「新たな国が前面に出てくる時です。世界が多極化している中、この問題について、G7=主要7か国をみても、仲介役になりうる国は1つもありません」

インド オブザーバー研究財団 理事長 ジョッシ氏
「信頼が置ける第三者や仲介者、またはそのグループが必要です。そうでなければ戦争は続いてしまいます」

アメリカ 外交問題評議会シニアバイスプレジデント リンゼイ氏
「ロシアは国連の安全保障理事会で拒否権を発動しています。中国もアメリカなどとの地政学的な競争をやめるチャンスが幾度もあったにもかかわらず、態度を変えず、対立を深めています」

フランス国際関係研究所 所長 ゴマール氏
「インドに特に期待しています。『グローバルサウス』にはロシアに圧力を加え、信頼を勝ち取るチャンスがあると思います」

取材後記

この東京会議では、ウクライナへの軍事侵攻の終結や世界の秩序の回復に向けた「共同声明」がまとめられ、来賓で訪れた岸田総理大臣に手渡されました。

関係者によりますと、共同声明のとりまとめは最後まで難航したといいます。

その中で大事な一文が盛り込まれています。

「政治体制の如何に関わらず、世界が抱える問題を解決しようとする国々と連携しなくてはならない」

冷戦終結からすでに30年以上が経過し、混迷とも言える状況が続いています。

さまざまな政治体制や価値観が存在感を増すなかで、どう世界的な課題に対応していくのか。

この一文には、「主要国」と呼ばれるG7各国だけでなく、新興国や「グローバルサウス」と呼ばれる国々などとも広く協力していくべきだという、問題提起のメッセージが込められたといいます。 まさに世界が多極化している現実を、つきつけられたように感じた瞬間でした。

キーウの独立広場(2023年2月)

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