2023年6月30日
プーチン大統領 ロシア

ロシア ワグネル反乱「プーチン氏の弱さをさらけ出した」

「1週間前に比べれば、プーチン大統領が失脚する可能性は高まっている」

ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装反乱について、こう指摘するのは去年9月までアメリカの駐ロシア大使を務めたジョン・サリバン氏です。

プーチン政権の動向やプリゴジン氏のロシア国内外での活動を注視してきたサリバン氏は今回の事態をどう見ているのか。今後、ロシアはどうなるのか。詳しく聞きました。

(ワシントン支局記者 渡辺公介)

前駐ロシア大使 ジョン・サリバン氏とは

アメリカ外交のナンバー2の国務副長官などを歴任し、2019年12月から2022年9月まで3年近くにわたって駐ロシア大使を務めました。

駐ロシア大使就任式に臨むサリバン氏とプーチン大統領(2020年 クレムリンにて)

モスクワでプーチン政権の動向を見続け、ウクライナ侵攻後もアメリカの対ロシア外交を最前線で担ったサリバン氏にインタビューしました。

※以下、ジョン・サリバン氏の話。インタビューは現地6月28日に行いました。

ワグネル そもそもどんな存在?

ジョン・サリバン氏

われわれアメリカの政府関係者は、プリゴジン氏とその関係団体を注意深く追跡してきました。そして、彼らの活動の大半はロシア政府の代わりに行っているものだということが分かりました。

プリゴジン氏は明らかにロシア政府の代理として活動していましたが、それを認めることはありませんでした。ロシア政府もそれを認めてきませんでした。

プリゴジン氏とワグネルは、シリア、リビア、スーダン、中央アフリカ、マリで軍事や治安活動に従事していましたが、ロシア政府は「ワグネルは民間の団体であり、そのことについて話すのは時間の無駄だ」と言っていたのです。

マリで活動するワグネルの部隊とされる写真(フランス軍撮影)

状況が変わったのは、ワグネルがウクライナの戦場で活動を始めてからです。

プリゴジン氏は自身の活動について公に語るようになり、ロシア政府もワグネルがウクライナでロシア政府のために活動していると認めたのです。

武装反乱の背景 どう見た?

数か月前から、プリゴジン氏とショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長との間の対立があらわになりました。

プリゴジン氏はショイグ国防相らのことを「裏切り者」、「臆病者」と呼び、ロシア政府からの支援が十分でないとして部隊を撤退させると脅しました。

民間軍事会社ワグネルの代表 プリゴジン氏

先週末、目の当たりにしたのは、ワグネルやプリゴジン氏と、最高指導者であるプーチン大統領を含むロシア政府との間の異常としか言いようのない対立でした。

プリゴジン氏はなぜ反乱をおこした?

ウクライナでロシア軍による作戦がうまくいっていないことが理由の1つです。

そもそも、そのためにプリゴジン氏、そしてワグネルがウクライナに入り、ロシア軍を支援することになりました。
そしてロシア政府はプリゴジン氏への依存を強めていきました。

一方、プリゴジン氏はロシア国防省やショイグ国防相、ゲラシモフ参謀総長がウクライナでの軍事作戦で計画性や実行力に欠いていると不満を抱いていました。

プリゴジン氏は「組織的でなく実行力がない」と批判しました。それに対して、ワグネルとその戦闘員はプリゴジン氏が主張するところの、“並外れた貢献”をロシアのために行ったというわけです。

ところが、プリゴジン氏によると、ワグネルの戦闘員たちは国防省の支援が得られなかった。そのことから、軍の指導部との間で対立が始まったのです。

ロシア南部の軍管区司令部 なぜ掌握できた?

軍の幹部らが事前に知らなければ、ワグネルが抵抗を受けずに軍の施設を掌握したことは説明しづらいでしょう。

ウクライナ侵攻でロシア軍の副司令官を務めるスロビキン氏をはじめとする軍の幹部が反乱の計画を事前に知っていたという情報があります。

プリゴジン氏とワグネルは何の抵抗もなく、ウクライナからロシアに戻り、ロシア軍の拠点を掌握しました。

通りを歩くワグネル戦闘員(6月24日 ロストフ州)

ロシア軍、国境警備局、治安機関の抵抗を受けることなくです。こんなことは、プリゴジン氏がロシアの軍や治安機関から支持を受けていなければ起こりえません。

ワグネルの部隊がモスクワに向けて北上している途中、ロシア軍のヘリコプター6機がワグネルによって撃墜され、さらに航空機も撃墜されました。ロシア軍のパイロットなどは死亡しましたが、極めて小規模な衝突にとどまったと言えます。

また、ロストフ州でワグネルやプリゴジン氏は住民たちから歓迎されていました。

人々と握手するプリゴジン氏 (6月24日 ロストフ州)

プリゴジン氏は自由に移動し、住民から支持されていたのです。これは明らかに異常な事態です。

これらは、ロシア政府内の亀裂、さらにはロシア社会の亀裂の表れだと言えるでしょう。

プーチン大統領への影響は?

プーチン大統領には、悪い影響をもたらすでしょう。

プーチン大統領はこれまで、事態を制御できる、力強い権威主義的な指導者というイメージを注意深く作り上げてきましたが、うそだったことが明らかになりました。

演説するプーチン大統領 (6月27日 モスクワ)

プーチン大統領はプリゴジン氏について「ロシアを背後から刺した裏切りだ」とまで評しながら、取り引きをせざるを得ず、その“裏切り者”を出国させました。

なぜなら、プーチン大統領は反乱を鎮圧してプリゴジン氏を拘束したり、排除したりするだけの強さを持ち合わせていなかったからです。これは、強い立場から物事を進める人間の行動ではなく、プーチン大統領にとっては非常に不愉快だったことは間違いありません。

プーチン大統領は失脚する?

今すぐに起きるとは思いません。ただ、1週間前に比べれば、その可能性は明らかに高まっています。なぜなら、プリゴジン氏による反乱がプーチン大統領の弱さをさらけ出したからです。

ロシア政府やプーチン大統領は、大統領としてのイメージを回復しようと躍起になっています。

視察先で市民とふれあうプーチン大統領(6月28日 ロシア南部ダゲスタン共和国 )

プーチン氏は武装反乱の直後、軍や治安機関のトップを集め、緊急の会議を開きましたが、イメージ回復のための一環でしょう。

ウクライナの戦況への影響は?

ワグネルはウクライナの反撃からロシア軍を守る重要な役割を担っていました。ウクライナ軍の進軍を止め、バフムトを包囲し、攻勢をかけていました。

バフムトでのワグネルの戦闘員とされる兵士(2023年4月公開)

もし、ワグネルがウクライナの軍事作戦から排除されれば、ロシア軍の作戦の実行力に悪影響を及ぼすでしょう。

また、プリゴジン氏は、プーチン大統領が特別軍事作戦を開始する理由として「ウクライナのネオナチによる攻撃からロシアを守るためだった」としたことについて、「すべてうそだ」とし、ロシア軍の死者数についても「ロシア政府は正確に報告していない」と主張しました。

このことは、ウクライナで戦っているロシア軍の兵士の士気を低下させると思います。

中国をはじめとする各国への影響は?

ロシアと軍事面で連携している国やロシアを支持をしている国を含め、世界的にプーチン大統領のイメージに悪い影響を与えるでしょう。

中国やイランの指導者は、ロシアで何が起きているのか、ロシアやロシア政府は自分たちが考えているくらい本当に安定し、信頼できるのか、疑問を抱いているはずです。

もし、わたしが習近平国家主席なら、ロシア政府の安定性やプーチン大統領の強さ、または、弱さについて、考え直さざるを得ないと思います。

中国政府は、習主席の親愛なる友人であり、無制限のパートナーシップの関係にある人物が実際にはかなり弱いパートナーで、中国の課題を解決するのではなく、むしろ、中国にとって問題を引き起こすのではないかと、注視しているはずです。

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