2023年1月6日
ポーランド NATO ウクライナ ロシア

「NATOのアキレスけん」対ロシア最前線の基地とは?

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対抗し、ヨーロッパ東部の防衛態勢を強化してきたNATO=北大西洋条約機構。

その「アキレスけん」とも言われている場所があります。
ウクライナと接するポーランドと、バルト3国の1つリトアニアの国境地帯です。

対ロシア最前線、ポーランド北東部の基地で行われたNATOの演習を取材しました。

(ブリュッセル支局長 竹田恭子)

「NATOのアキレスけん」とは?

NATO加盟国であるポーランドとリトアニアとの100キロほどの国境地帯で、「スバウキ回廊」と呼ばれています。

バルト3国とほかのNATO加盟国が唯一、陸でつながっている場所です。

「スバウキ回廊」と呼ばれる国境地帯

なぜここが「アキレスけん」なの?

ロシアの飛び地カリーニングラードと、ロシアと同盟関係にあるベラルーシに挟まれているからです。

軍事拠点でもあるカリーニングラードにはロシア軍の地上部隊も配備されています。

ロシアとベラルーシの動きしだいでは、バルト3国への陸路でのアクセスが遮断されるリスクがあるとされています。

どうやって「アキレスけん」を守るの?

「スバウキ回廊」から直線距離で100キロほど、ポーランド北東部のオジシュにあるNATOの基地が、その役割の一端を担っています。

基地にはNATOの多国籍部隊が配置され、地元ポーランド軍と連携し地域の防衛にあたっています。

12月中旬の時点では、主軸のアメリカ軍に加え、イギリス軍とルーマニア軍、あわせておよそ900人が配置されていました。

「多国籍部隊」配置の意味は?

部隊を多国籍にすることで、「加盟国1国に対する武力攻撃はNATO全体に対する攻撃とみなす」というNATOの基本原則を体現しています。

多国籍部隊を配置するようになったきっかけは、2014年のロシアによる一方的なクリミア併合でした。これを受けてNATOは、「いかなる侵攻にも即座に対応できる能力を示す」ため、2017年、ポーランドとバルト3国に部隊を配置。

そして今回のウクライナ侵攻を受けて、さらにスロバキアやルーマニアなど中東欧の4か国にも追加で配置されました。

オジシュの雪原で行われた演習

12月中旬、オジシュの基地では氷点下の凍てつく寒さの中、多国籍部隊による演習が行われ、NHKを含む一部のメディアにその様子が公開されました。

公開されたのはどんな演習?

この日行われたのは実弾演習でした。

偵察任務を担うイギリス軍の部隊が高機動装甲車で先行して状況を把握。

後に続くアメリカ軍の戦車部隊が敵に打撃を与えるという、それぞれの役割に基づいて演習が行われました。

今回カメラの前には姿を見せませんでしたが、ルーマニア軍は自走式の対空砲で部隊が空から攻撃されないよう守る役割を担っています。

現場の司令官

現場の司令官は「ともに訓練することで、互いの装備やシステムを理解し、戦場でコミュケーションをとるすべを身につけることができる。戦う準備はできている。われわれはまさに最前線の部隊、NATOの加盟国を守るという意思を体現した存在だ」と話していました。

演習公開のねらいはどこに?

NATO本部 ベルギー ブリュッセル 

NATOの対外的発信と対内的発信、双方のねらいがあります。

対外的発信はもちろんロシアに向けたもので「応戦態勢が整っている」ことを改めて示すため。

そして対内的発信は、NATO加盟国に向けたものです。

今回、NHK以外に部隊を取材したのは5か国のメディア。ルーマニアやブルガリア、エストニアなど、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が続く中、自国の安全保障に不安を感じるヨーロッパ東部の国のメディアが中心でした。

多国籍部隊の主軸のアメリカが、NATO加盟国の安全保障に役割を果たしていることをこうした国々に示すねらいもうかがえました。

取材を終えて

30か国が加盟するNATOの意思決定は多数決ではなく、すべての加盟国の同意でなされます。

2022年3月 会見するストルテンベルグ事務総長

ストルテンベルグ事務総長はかつて「事務総長として最も大変なのは全加盟国のコンセンサスを得ることだ」と発言していましたが、取材していても国益や優先課題がかならずしも一致しない30か国がまとまるには、まず同盟への信頼が不可欠だと感じる場面が多くあります。

ウクライナ侵攻に終わりが見えず、NATOの結束が試される局面も続く中、今回のように部隊をメディアに公開する機会も使って加盟国の人々の信頼を得ていきたい。そんな思惑が感じられました。

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