科学

「宇宙運用センター」米軍公開 背景に中ロの脅威 軍拡懸念も

「宇宙運用センター」米軍公開 背景に中ロの脅威 軍拡懸念も

2019.06.23

宇宙空間の監視や防衛を担うアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」がNHKなど一部のメディアに公開されました。アメリカ軍は中国やロシアが衛星への攻撃能力を高める中、防衛力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進める方針です。

公開されたのはアメリカ西部、カリフォルニア州のバンデンバーグ空軍基地にあるアメリカ軍の「連合宇宙運用センター」で、19日、NHKやアメリカの一部のメディアのカメラが入りました。

「連合宇宙運用センター」はアメリカの軍事衛星や商業衛星に対する妨害や攻撃、それに宇宙ごみの動きを監視し、衛星網を防衛する任務に当たっています。

センターでは各国の衛星や大量の宇宙ごみなど宇宙空間を漂う2万5000の対象物を24時間体制で監視していて、この日は地上からミサイルが発射された場合の対応を再現しました。

担当者はアメリカの早期警戒衛星がミサイルの発射を探知すると、レーダーで捉えた軌道からアメリカや同盟国の衛星への被害の有無を分析し、関係国や関係機関に連絡する手順を確認しました。

アメリカ軍によりますと、衛星はGPSや通信をはじめ地球規模で展開する部隊の活動の基盤となる一方、中国やロシアが衛星を攻撃する能力を発展させ、対衛星ミサイルに加え、衛星自体から攻撃する「キラー衛星」と呼ばれる兵器の脅威も高まっているということです。

これについて「連合宇宙運用センター」の管轄部隊のホワイティング副司令官は「われわれは衛星軌道上で敵意ある活動を発見しており、その活動を注意深く追跡している」と述べ、「キラー衛星」への監視を強化していることを明らかにしました。

アメリカ軍ではこうした脅威に対抗するため宇宙軍の創設など防衛能力の強化と同盟国との協力態勢の構築を進めています。その一環として連合宇宙運用センターではイギリス、ドイツ、フランスから連絡官を受け入れているほか、日本の航空自衛官も常駐させる方向で調整を進めています。

センターの責任者を務めるブロデュアー大佐は「南シナ海を空母が航行する際、通信衛星に対する電波妨害を監視したり、シリアなどでのアメリカ軍による精密攻撃を支援したりしてきた」と述べ、あらゆる軍事作戦で衛星網の防衛は死活的に重要になっていると強調しました。

そのうえで自衛隊との連携について「日本の宇宙監視用のレーダーの情報を交換できる可能性がある」と述べ、衛星網への攻撃やその影響を最小限に抑えるため日本をはじめ同盟国との協力が重要だと訴えました。

宇宙空間での軍拡加速に懸念の声も

アメリカが中国やロシアに対抗して宇宙での軍事力の強化に乗り出すことで、宇宙空間での軍拡競争が加速し、平和利用に深刻な影響を与えるとして、国際的な議論を求める声も上がっています。

トランプ政権が宇宙軍の創設を打ち出したことに対し、アメリカの団体、「憂慮する科学者同盟」は声明を発表し、「各国が宇宙兵器の開発を進めれば軍事衝突の可能性が高まる」として、宇宙の平和利用が脅かされると懸念を示しました。

そのうえで「宇宙空間の安全保障は軍事的手段だけでは達成できず外交を通じたよりよい方法がある」として、宇宙での軍拡競争を防ぐための国際的な行動規範の策定や国連の場での議論の提起を求めていて、今後、国際的な議論を求める声も高まりそうです。

アメリカ 来年までに「宇宙軍」創設目指す

アメリカのトランプ政権は中国やロシアによる衛星破壊兵器の開発を受けて、宇宙をサイバー空間とともに「新たな戦闘領域」と位置づけ、来年までに新たに「宇宙軍」の創設を目指すとしています。

アメリカ軍はGPSや通信からミサイルへの警戒など活動の基盤を衛星網に大きく依存しているため、これが打撃を受ければ軍の行動全体に深刻な影響を及ぼす危険性が指摘されています。

このためアメリカ軍では宇宙軍の創設で宇宙空間の監視能力を高めるとともに、新たな兵器の開発など防衛力の強化に取り組むとしています。

さらにアメリカ軍は同盟国との「宇宙同盟」の構築を目指していて、西部カリフォルニア州バンデンバーグ空軍基地にある「連合宇宙運用センター」をその基盤に位置づけ、同盟国からの連絡官の受け入れを進めています。

アメリカ空軍はことし4月には、西部コロラド州で航空自衛隊のほか11か国の軍の宇宙担当の幹部と初めての会議を開き、宇宙空間の監視などで協力を進めることでも一致しています。

アメリカ軍としては宇宙空間での同盟国との連携を強化することで、中国とロシアに対抗する態勢づくりを進めるねらいです。

宇宙での中ロの脅威 米政府が分析

アメリカ国防総省の国家航空宇宙情報センターはことし1月に発表した「宇宙での競争」と題した報告書で、「中国は複数の部隊で対衛星ミサイルの訓練を開始した」と指摘し、中国軍が対衛星ミサイルの配備に向け訓練を活発化させているとの分析を初めて示しました。

またアメリカの情報機関を統括するコーツ国家情報長官がことし1月に議会に提出した報告書では「中国は低軌道衛星を撃ち落とすことをねらった運用可能なミサイルを保有している」として、衛星破壊能力の急速な進展に強い危機感を示しています。

さらに国防総省の情報機関、国防情報局はことし2月に取りまとめた宇宙空間の脅威に関する報告書で、来年までに中国が低軌道の人工衛星をねらったレーザー兵器を配備する可能性が高いと指摘しました。

またロシアについては、すでに去年7月の時点でレーザー兵器の配備を開始し、人工衛星をねらった兵器である可能性が高いと分析しています。

専門家「中ロがキラー衛星開発も」

宇宙空間の安全保障問題を研究するアメリカのシンクタンク、「セキュア・ワールド・ファウンデーション」のブライアン・ウィーデン氏は、中国が衛星攻撃能力を高めアメリカへの大きな脅威になっていると指摘しました。

このなかでウィーデン氏は「中国はアメリカがこの20年近くイラクとアフガニスタンでの戦闘でいかに軍事衛星を活用してきたか、分析を進めてきた」として、中国が軍事衛星に依存するアメリカ軍の特性をねらって、衛星攻撃兵器の開発を進めているという分析を示しました。

ウィーデン氏によりますと中国は2007年以降、四川省と新疆ウイグル自治区にある施設で地上から発射したミサイルで衛星を破壊する「対衛星ミサイル」の発射実験を繰り返し、移動式のミサイルを格納する建物も建設しているとしています。

そのうえで「おそらく低軌道の人工衛星を破壊できる能力はかなり成熟しており、ミサイルの運用に向け配備を進めているとみられる」と述べ、中国が対衛星ミサイルの配備を進めているとの見方を示しました。

またウィーデン氏は中国が2016年に打ち上げた人工衛星の軌道に注目し、「一定期間、別の衛星の近くにとどまったあとに他の衛星に近づいている」と指摘しました。

これについてウィーデン氏は、衛星自体から攻撃を仕掛ける「キラー衛星」の開発に向けた実験ではないかと分析しています。

さらにウィーデン氏はロシアについても、「低軌道と静止軌道の両方で数多くの実験を実施してきた」と指摘し、「キラー衛星」の開発をかなり進展させていると指摘しました。

そのうえで「ロシアは電子戦能力にも多くの資源を投じ、実際にシリアやウクライナでの紛争で使用している」と述べ、衛星との通信を妨害するロシア軍の能力は実戦段階に入っているという分析を示しました。

ウィーデン氏はこうした中国やロシアの脅威への対抗策として「衛星を多数保有することで1つの衛星が攻撃されても影響を抑えることができる」として、安価で簡易な衛星を多数、打ち上げるとともに、同盟国との連携を強化する必要があるとしています。

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