2023年7月14日
ウクライナ ロシア

打倒プーチン政権 志願兵が増加?もう一つのロシア軍幹部語る

「ワグネルの武装反乱のあと、私たちに加わりたいと志願するロシア人が増えている」

こう話すのは、ウクライナ側に立って戦うロシア人の武装組織「自由ロシア軍」の副司令官です。

プーチン政権の打倒を掲げる義勇兵の彼らからみた反乱の影響は?
予想よりもスピードが遅いとも指摘されるウクライナによる反転攻勢の最新状況は?

前線でロシア軍と向き合う「もう一つのロシア軍」の幹部に聞きました。

(国際部記者 野原直路)

話を聞いたのは「自由ロシア軍」の“シーザー”

2023年7月8日、オンラインでつないだパソコンの画面に姿をみせてくれた「自由ロシア軍」の副司令官。「シーザー」というコードネームで活動する幹部です。部隊の顔として、地元メディアなどの取材に応じています。

「自由ロシア軍」“シーザー”副司令官

もともとは前日に取材の約束をしていましたが、急きょ、延期に。作戦行動のまっただ中のため、こうしたことはよくあり、翌日には、今回のインタビューが実現しました。

(以下、副司令官の話)

ワグネルの武装反乱のあと、ロシア軍に変化は?

武装反乱以降、民間軍事会社「ワグネル」の部隊を戦地で見ていません。

移動するワグネルの戦車(2023年6月24日 ロシア ロストフ州)

ワグネルは最も戦闘態勢が整った部隊だと考えられていて、実際、これまで一定の成果をあげてきました。それはロシアにとって、どんなに大きな犠牲を出しても攻撃に使うことができる唯一の道具でした。ほかの部隊ではワグネルのような戦い方はできず、ロシア軍はそれを失ったことになります。

ワグネルの部隊は、ベラルーシなどに移ることになるでしょう。

ワグネルの戦闘員(2023年6月24日 ロシア ロストフ州)

ワグネルの武装反乱は失敗しましたが、反乱によってロシアのプーチン政権のさまざまな問題が明らかになりました。私たち義勇兵組織の支持者は勇気づけられ、反乱のあと「自由ロシア軍」に加わりたいと志願するロシア人が増えています。

ロシア軍やプーチン政権への影響は?

プーチン政権の政治のやり方は、極端な「縦社会」になっていて、見たい情報しかプーチン氏のもとに届かず、不適切な命令がトップダウンで下されるようになっています。しかし、それは社会の実情にはあってはいません。今回のワグネルの武装反乱は、こうした政権の基盤のもろさを見せつけたと思います。

また、今回のような出来事があると、戦地に赴くロシア軍の兵士にとっては否定的な影響があります。いまプーチン政権はとても不安定な状況にあると思います。

プーチン政権は、プリゴジン氏を断罪することを怖がっている様子を見せています。ワグネルの部隊がロシア軍のヘリを撃墜し、パイロットを殺害したとされていることについて、プリゴジン氏は少なくとも公には処罰されていません。プリゴジン氏はこれまでのところ無傷です。このことも、プーチン政権にとっては打撃になるでしょう。

現在の作戦の状況は?いまの役割は?

※ことし5月、自由ロシア軍はロシア西部のベルゴロド州に入り、戦闘を開始したと発表していた。

「自由ロシア軍」(画面左)と「ロシア義勇軍」の旗を持つ戦闘員ら (2023年5月)

ベルゴロド州での作戦はすでに完了しました。ロシアでの作戦にはいくつかの目標がありました。まず、ロシア軍のウクライナとの国境における防衛能力を確かめることです。そして、敵の後方部隊を攻撃し、分散させることです。さらにロシア国民に対して、プーチン政権下であっても、武装反乱は可能であると示すことも重要な任務でした。

私たちは、いまはすでにロシアの領土からウクライナに戻っていて、ウクライナ軍の反転攻勢の作戦に加わっています。もう1つのロシア人の義勇兵組織である「ロシア義勇軍」もウクライナに戻ったとのことです。

ウクライナ側からは非常にシンプルな任務を課されています。それは、ロシア軍の人員と装備を破壊することです。また、私たちは非常に優れた無人機の偵察部隊を擁しています。このため、ロシア軍を正確に、狙ったタイミングで砲撃することができます。

反転攻勢の前線の状況は?

従来から攻撃する側は防御する側の3倍の戦力が必要だといわれてきました。

ウクライナ軍とロシア軍は、車両などの数ではほぼ対等といえますが、航空戦力ではウクライナは苦戦しています。残念ながら、欧米各国などから供与された兵器は、必要な量に達しているとはいえないのです。ですから、いま何よりも必要なのは、「防空システム」や「戦闘機」の充実です。

F16戦闘機

戦闘機があれば、敵の部隊を戦線の奥深くまで攻撃でき、歩兵を援護することができます。しかし、いまのように制空権がない中では、効果的な攻撃は非常に難しいのが実情です。さらにウクライナ軍は、偵察用の無人機も非常に高い頻度で失っていて、反転攻勢においては、膨大な数の無人機の調達が必要となってきます。

対するロシア軍の状況は?

ロシア軍に向けて砲撃を行うウクライナ軍兵士(2023年7月11日 東部ドネツク州バフムト近郊)

ロシア軍は前線で何層もの防衛線を築いている上、多数の地雷を埋めた地雷原を作っていて、それがウクライナ側の反転攻勢における進撃を遅くさせています。いたずらに兵力を消耗するわけにはいかないからです。
また、ウクライナ軍とロシア軍は兵力ではほぼきっ抗していますが、ロシアはさらに大規模な動員を行う余力を残しています。

「特別軍事作戦」後方地域でのロシア人の契約軍人らの訓練(7月13日)

一方で、ロシア軍は、多数の兵士を訓練したり、武器を供給したりすることにおいては、問題に直面しています。というのも、ロシア側はこれまでの戦いで、経験豊富な人材を失ってきたからです。このため現在、指揮官から一般の兵士にいたるまで、ロシア軍のレベルは大きく低下しています。

兵士の士気も落ちていて、特に最近の出来事(ワグネルの武装反乱)に関連して、やがて「お金のため」という理由を除いて、何のために戦っているのかまったく理解できなくなると思います。一方でウクライナ軍は「自分たちの土地を守り、解放しよう」という意欲が高く、訓練も行き届いています。

今後の自由ロシア軍の動きは?

ウクライナの領土の奪還という任務を達成したら、ロシアを権力者の手から武力で解放するために、ロシアに戻ります。プーチン政権は永遠ではありません。私たちは新しい、自由で公正なロシアを作りたいのです。

取材後に驚きのニュースが…

インタビューの2日後、ロシア大統領府が突然、驚くような発表を行いました。ワグネルの武装反乱を激しく非難していたプーチン大統領が、実は反乱後の6月29日に張本人のプリゴジン氏や指揮官と3時間にわたって会談していたというのです。

なぜ、プーチン大統領はこのような対応をとったのか。もしくは、とらざるを得なかったのか。

今回インタビューした「自由ロシア軍」の副司令官は、プーチン氏の一連の対応は、政権に反対するロシア人を勇気づける結果になったという見方を示しました。 圧倒的な権力基盤をもち、時に独裁的とも非難されるプーチン政権。しかし、ロシア国内の義勇兵の存在、そして、今回の武装反乱が、政権の「終わりの始まり」の兆候になることはないのか、注意深く見ていく必要があると感じました。

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