2022年10月12日
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アメリカ中間選挙 保守派重鎮に聞く 最新情勢は? トランプ氏は?

「上院は候補者選びがうまくいっていない」

NHKの単独インタビューでそう漏らしたのは、共和党に多大な影響力を持つ保守系ロビー団体の代表、グローバー・ノーキスト氏。

11月8日のアメリカ中間選挙に向けて、共和党の中で何が起きているのか。2024年の大統領選挙にトランプ氏は立候補するのか。保守派の重鎮に聞きました。

(国際部・岡野杏有子)

グローバー・ノーキスト氏とは?

グローバー・ノーキスト氏

ハーバード大学を卒業後、1978年から首都・ワシントンで、全米納税者連盟の幹部や商工会議所でエコノミストなどとして活躍し、キャリアを築いたノーキスト氏。

レーガン政権では税制改革のプロジェクトに携わり、1985年に徹底した減税と小さな政府を目指す全米税制改革協議会を設立。ワシントンでは税制に精通している存在としても知られています。あまたある保守系の団体をまとめ上げていき、強力なネットワークを構築していきました。

共和党政権下では「大統領の影に、この男あり」とまで言われるノーキスト氏。

中間選挙直前で連日、全米各地を飛び回る中、9月29日にインタビューしました。

この2年間のバイデン政権の評価は?

左派にとっては、バイデン政権は大成功です。

代替エネルギーに多額の資金を投じ、これが、政府管理のエネルギー産業を産んでいます。これによって政府に依存する人が増えました。経済には非常によくありません。お金を使いすぎです。負債が大きくなりすぎです。

インフレ、金利(の上昇)、経済成長の低迷、株式市場はバイデン大統領が出てきて7兆ドル下落しました。すべてが悪化しているのです。

インフレが昇給率よりも高いため、去年、人々の実質賃金は減りました。昇給率は5.5%、インフレ率は8.5%。貧しくなるに決まっています。

老後のための貯蓄、企業年金、個人年金、株、アメリカ人の60%がこうした形でお金を貯めていますが、国内では7兆ドルの資産が消失しました。これは良くありません。7兆ドルもの価値がなくなったのです。

民主党にとって良いことでも、国にとっては悪いことです。

上院・下院奪還のための戦略は?

共和党は、インフレ、雇用率低下、経済成長の低さなどの、民主党の経済政策の失敗に焦点を当てたいと考えています。そして今は、犯罪率の上昇についてです。民主党は、犯罪を罰することに重きを置いていません。そのため、犯罪が増えているのです。

犯罪、そしてお粗末な経済に焦点を当てるべきです。バイデン大統領は所得が40万ドル以下の人には増税しないと言いましたが、それはうそです。民主党は、そのことから目をそらさせたいのです。

そしてことしは教育委員会の地方選挙があります。

アメリカには地方選出の教育委員が8万8000人います。新型コロナによる休校、教員組合が依然として多額の金を取っていること、親が知らないことを子供に教えていること、こうしたすべてに関して、親たちは非常に不満をもっています。

民主党はなぜ“中絶”を焦点に?

経済についての議論はバイデン大統領のためにならないからです。

インフレについての議論、財政赤字や政府支出、バイデン大統領や彼の息子の腐敗の問題についての議論も、すべて、大統領や民主党のためにならないからです。だから、彼らは、それ以外ならなんでも良いと思っているのです。中絶も人々の気をそらすためです。その他の問題については話ができませんから。

しかし、ほとんどの人が日々、目にするのは、ガソリンの価格、食料品の価格、失業問題、住宅価格や老後のための蓄えの価値が上がったか下がったかという問題です。

ニューヨーク・タイムズ紙が1面に、きょうは1日、中絶について考えろと掲載することはできますが、読者は、実際に生活していくなかで、ガソリンが高いとか、食べ物が高いといったさまざまなことを目にします。経済が、バイデン大統領と民主党の失敗を、毎日、思い出させるのです。

上院・下院両方取り戻す自信があるか?

上院は、共和党の候補者選びがうまくいっていません。

トランプ氏は、自分のことが好きだというだけで候補者を選んでいます。他にも考慮すべきことはあります。立候補の経験はあるか、選挙運動が得意かといったことも重要です。しかし、トランプ氏はそうしたことは考慮していません。このため上院の多くの選挙区で基準に満たない人が候補者となってしまっているのです。

ただ、(多数派の獲得のためには)上院全体で1議席増やせば良いのです。ネバダ州で1議席、ジョージア州で1議席獲得できる可能性が高いので、これで2議席です。ペンシルベニア州では議席を取れないおそれもありますが、(上院全体では)共和党は大丈夫だと思います。

ウィスコンシン州は厳しい戦いになると思いますが、アリゾナ州も共和党が勝利する可能性があります。共和党が上院で多数派を勝ち取る可能性は非常に高いと思います。

トランプ氏の支持表明が投票に影響するか?

候補者が、自分たちの言葉を伝えるのに十分なお金と時間とエネルギーを持っていれば、トランプ氏が支持を表明するかどうかは、さほど重要なことではありません。

しかし、候補者に資金がないとしたら、トランプ氏が(候補者の応援のために)飛行機で飛んできて1日、注目を集めれば、数百万ドルの宣伝効果があります。トランプ氏が、その人は良い保守派の候補者だといえば、その人が勝利する可能性があります。

有名人や現職の候補者は、トランプ氏に嫌われていても問題ではありません。

トランプ氏が大嫌いな州知事がいるジョージア州にトランプ氏が入り、州知事を攻撃しました。しかし、ジョージア州の人たちは州知事のことを知っていました。彼は非常に良い選挙運動をしていました。

彼は(共和党の候補者を選ぶ予備選挙で)トランプ氏が望んでいた人物に圧勝し、ジョージア州知事選挙では圧倒的に優位な立場にあります。

一方、ディック・チェイニー元副大統領の娘、リズ・チェイニー氏は共和党下院のリーダー的立場の議員でしたが、彼女は何度もトランプ氏を批判していました。

共和党 リズ・チェイニー下院議員

最初は、彼女は指導部の一員に再度選ばれました。親に支援を頼んだからです。しかし、その次は共和党下院の指導部に残ろうとはしませんでした。

彼女は穏健派になろうとしていました。しかし、彼女は指導部を追われました。そしてワイオミング州(の共和党の予備選挙)で敗北しました。誰もが彼女のことを知っていました。彼女には潤沢な資金がありました。彼女の問題はトランプ氏だけだったわけではないのです。

彼女はさまざまなことに関して保守的な立場を放棄したのです。彼女は自分のことだけを考えて、他のことを考えませんでした。それで彼女は敗北したのです。

トランプ氏はなぜ今も人気があるのか?

トランプ氏が人気なのは、彼が減税を行った時に強い経済成長があったからです。

パンデミックで成長は損なわれましたが、彼は非常に力強い成長を実現して2019年だけで賃金を増加させました。一世帯あたりの平均的な賃金上昇の中央値は6.8%です。1年で、オバマ政権の8年間よりも、大きな賃金上昇を実現したのです。非常に大きな成長です。

エネルギー価格も低かった。エネルギーをもっと見つけて掘っていた。うまくいっていたのです。世界にも停滞の兆しはなく危機的状況もありませんでした。

そしてもちろん、左派が誰かを攻撃すると、共和党員は攻撃された人を支持する傾向があります。

リベラル派がレーガン元大統領を攻撃した時も、レーガン氏の名声は高まり、共和党支持者の間の人気は高まりました。43代大統領のブッシュ氏がマスコミの攻撃を受けた時にも、みんなが、リベラルなマスコミと自分は考えが違う、彼らがブッシュ氏を嫌うならば、ブッシュ氏は私の友達だ、ということで、彼の人気が高まりました。

トランプ氏が2016年に立候補した時も、メディアが彼について良いことを言わず、ヒラリー・クリントン氏に大統領になってほしいとずっと思っていても、それでもトランプ氏は勝利しました。

トランプ氏が今も注目集めることをどう思うか?

“ユニーク”だと思います。

彼ほど政治的に活発であり続けた大統領を知りません。レーガン氏は引退し、自伝を書きました。ブッシュ親子も引退してからは政治の話はほとんどせず、他の候補者の応援でたまに顔を出す程度でした。

大統領になった人なら、共和党候補のために応援にかけつけるのは義務だと思います。 

ですから、トランプ氏が他の候補者を応援したり助けたりし続けているのはうれしいです。

しかし彼が選ぶ人にすべて賛成というわけではないです。なぜなら彼の説明は、(この候補者は)税金を低くするとか、小さな政府を目指すとか、良い判事だとか退役軍人だとか。リベラルだって退役軍人の場合があります。退役軍人だからと言って連邦議会議員としてどうなのかがわかるわけではないのです。

それに彼は自分が好きな人を応援します。政治の場合、原則に基づいて党を運営しているのですから、その人がしっかりとした共和党の人間なのかが大事です。その上で友達だからというなら分かります。

トランプ氏が2024年の大統領候補になる可能性は?

トランプ氏が共和党の指名を得ることができるかは、確実ではありません。しかし世論調査では、指名される可能性があるという結果が出ています。彼が大統領選挙に勝つ可能性もあります。ただ、トランプ氏のようなネガティブな要素がない強い候補者が他に大勢います。

フロリダ州のデサンティス知事も世論調査で非常に良い結果が出ています。バージニア州にも非常に強力な知事がいますし、オクラホマ州にも1人、テキサス州にも1人います。いずれも重要な州で、選挙に当選したことがある人たちです。

無党派や民主党支持者の中には、トランプ氏にはこりごりだという人もいます。彼らは、必ずしもトランプ氏の政策に反対しているわけではありません。彼の人間性やふるまいが理由で支持しなくなる人がいます。人間性やふるまいで支持を失う必要はありません。彼の人間性が大好きだという人もいますが、それにうんざりしている人もいます。

それは世論調査の結果にも表れています。トランプ氏の数字は以前ほど良くありません。

しかしバイデン氏の世論調査の結果では、「大統領として良い仕事をしていると思うか」という項目はとても良くない結果が出ています。トランプ氏と比べて他の候補者は強いのでしょうか。長くやっていると傷もできます。傷だらけになります。ネガティブな印象ができます。トランプ氏だけではなく、長くやっている人は誰でもそうです。

私は税制改革の団体を運営しているので、その(税制改革に取り組むと)約束した候補者しか支援しません。トランプ氏が大統領選挙に出た時は、トランプ氏を含むすべての共和党候補が誓約書に署名し、それを強調していました。税金を上げないと約束したのです。それがなければ私たちは応援しません。

トランプ氏の集会、選挙キャンペーンは?

集会などで注目を集めて、候補者を当選させる役には何度か立っていると思います。秋にそれがどうなるか興味深いです。

(上院選挙の)ペンシルベニア州で候補者になったオズ氏を当選させられるかどうか。それができれば、候補者にして、そして当選もさせられたということになります。トランプ氏は彼を最後まで勝てるようにする必要があります。トランプ氏が上院選挙に勝たせたということになれば、かなり感心します。

しかし予備選挙で勝っても、本選で勝てなければ、弱くて欠点のある候補を推薦したということになります。初めての選挙だということは初めからわかっていたのです。トランプ氏(が立候補した時)だって初めてでしたから、初めての選挙だと立候補する資格がないということではありません。落選したらダメだと言うことです。

トランプ氏が推す候補すべて落選したらどうなる?

そうなれば共和党と議員たちは「勝てない人を推すなんて役に立たないな」というでしょう。

いま上院に共和党議員がいる州なのですから、再び当選するべきだからです。ですから、誰かが推薦した人物がダメだったなら、その推薦者の声は次からあまり参考にされなくなるでしょう。

トランプ氏が推薦する人が、彼の資金援助で勝てるなら、皆喜ぶでしょう。しかし資金集めも協力せず、勝つために役立つこともせず、その候補が負けるなら、彼の株は下がるでしょう。

主要メディアはトランプ氏のことを共和党にとってマイナスと考えているので、彼に少なくともいくつかの問題について話を聞きたがります。特に彼がズレていると感じている点について話を聞きたがるのです。

彼らがわかっていないのは、トランプ氏は複数の問題、移民や税金、(最高裁の)判事の問題について、多くのアメリカ人の共感を得ているということです。

しかし同時に、現代の共和党には他にも多くの発信者がいて、彼らは上院と下院の指導的立場なので今後2年間はメディアの注目を集めるでしょう。

そして知事たちも今後2年間テレビや新聞に載るでしょう。大幅な減税をすると言った知事をニュースにしないのは難しいです。バージニア州やアイオワ州、オクラホマ州の知事のように、所得税をゼロにするとか、今後10年の間に所得税をなくしていくと言ったことなどが記事になるのです。そういうことをすれば注目が集まります。「あの人は誰?何をしているの?すごい」と。今後2年間に起きるのはそういうことです。

私は彼らと話をしましたが、彼らは驚くべきことを成し遂げようとしているのです。彼らは注目を集めて、大統領になったらどうかと言われるでしょう。そういう人物が9人ほどいて、大統領を狙うでしょう。その一部は火が消えるでしょうが、一部は炎となって燃え上がるでしょう。

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