2022年8月31日
アメリカ中間選挙 トランプ前大統領 バイデン大統領 アメリカ

迫るバイデン政権への審判 アメリカ中間選挙 トランプ効果は?

ことし11月に行われるアメリカ議会の“中間選挙”。

大統領選挙と比べると、日本ではあまりなじみがありませんが、アメリカでは、ことし最大の政治イベントです。
今回はこの中間選挙のポイントについて、気になる「あの人」の動きを含めて探っていきます。
(ワシントン支局 根本幸太郎)

そもそもなぜ“中間”選挙?

それは、4年ごとの大統領選挙の「中間」の年に行われるからです。大統領の政権運営に対して、有権者が審判を下す機会と位置づけられています。

アメリカ連邦議会議事堂

現在のアメリカ連邦議会の議席は?

アメリカの連邦議会では8月23日現在、上院は無所属を含む民主党系と、共和党がともに50議席で同数となっています。採決で賛成と反対が同数になった場合は上院の議長を務めるハリス副大統領が最後の1票を投じることになるため、民主党が事実上の多数派となります。

また、下院は民主党が220議席、共和党が211議席で、上下両院で民主党が主導権を握っています。

結果はどうなりそう?

バイデン大統領の支持率は低迷を続けていて、上下両院で主導権を握る与党・民主党の苦戦を予想する見方が広がっています。理由は、ズバリ、「記録的なインフレ」です。

アメリカ バイデン大統領

ウクライナ情勢を受けた原油価格の高止まりや人手不足を背景にした賃金の引き上げなどで物価の高騰が続き、市民生活を直撃しています。

私が中間選挙の情勢取材でアリゾナ州を訪れた際、スーパーで買い物を終えた男性に声をかけると、せきを切ったかのように政権への不満を話し始めました。

支持政党のない男性
「バイデン政権のインフレ対応は極めてお粗末だ。私のような市民のことをまったく気にしていない。1年前と比べて値段が2倍になったものもあり、買い物の量を減らさざるを得ない。ガソリン価格も高く、旅行もできない」

特定の支持政党はないというこの男性は「ことしの中間選挙は間違いなく共和党に投票する。もちろんだ」と断言しました。

民主支持層は?

記録的なインフレは、与党・民主党の支持層も直撃しています。

アリゾナ州フェニックスでパーティーやイベント向けに料理の宅配サービスを行っているリカルド・アギーレさんは食材費やガソリン価格の上昇を受けて、3月以降、2回にわたって料理の値段をおよそ8%ずつ引き上げました。

すると、物価の高騰にあわせるように注文は減り続け、この3か月間の売り上げは4割ほど減少。新型コロナの感染拡大で落ち込んだ売り上げが回復していたやさきのインフレにアギーレさんは肩を落としていました。

民主党を支持する リカルド・アギーレさん
「すべてのものが高くなり、みんなお金をあまり使わなくなった。われわれも価格を調整しなければならないが、客からは『なぜこんなに高いんだ』と言われる」

十分な売り上げがない中、必要経費の支払いのため、アギーレさんは蓄えを取り崩しながら事業を継続しているといいます。ここ数年、民主党を支持してきましたが、今回の中間選挙では共和党を支持することも検討していて、揺れる思いを吐露していました。

リカルド・アギーレさん
「インフレをどうするつもりなのか、どうやって解決するつもりなのかが、一番の関心事だ。まだ決められていないが共和党のほうが少しだけ多くの解決策を持っていると思うので共和党支持に傾いている」

支持率などデータは何を示している?

こうした物価の高騰への国民の不満を背景にバイデン大統領の支持率は8月17日時点の各種調査の平均で、40.2%と低迷を続けています。ABCテレビなどが8月上旬に行った調査では、バイデン大統領のインフレ対応を「支持する」と回答した人はわずか29%でした。

政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめでは、8月17日時点で、議会下院では野党・共和党が優勢で過半数の議席を確保する勢いとなっているほか、上院では激しい接戦となることが予想されています。

民主党は民主党支持層だけでなく、無党派層も取り込まなければ、苦戦は避けられません。今回の選挙で、共和党に多数派を奪われれば、バイデン大統領の政権運営はいっそう厳しくなります。

そこでバイデン大統領は「インフレ対応」に力を入れ続けています。ガソリン価格の高騰を踏まえ、7月には、みずから中東を訪問して原油の増産を働きかけました。

サウジアラビアを訪問する アメリカ バイデン大統領(2022年7月)

ただ、気になるデータがあります。

7月下旬に行われたCNNテレビの世論調査で、民主党支持層の間で2024年の大統領選挙でバイデン大統領以外の候補を望むと回答した人は75%に上り、今年初めから大きく増えていたことがわかりました。

党内の求心力を維持する上でもバイデン大統領は正念場を迎えていると言えます。

あの人はどう出る?

一方、攻勢を強めているのが共和党のトランプ前大統領です。全米各地で演説を行うなど、活動を一気に活発化させています。演説では、共和党の支持者を前にインフレの現状に触れながら、選挙での勝利を訴えています。

演説するトランプ前大統領(2022年7月)

トランプ氏
「今、アメリカは衰退し、失敗している。われわれはアメリカを取り戻さなければならない。民主党の急進的な社会主義者たちの過剰な支出をとめ、暴走するインフレを止めなければならない」

このタイミングで活動を加速させるトランプ氏の念頭にあるのは、2年後の大統領選挙です。中間選挙を通じて存在感をアピールし、共和党内で求心力を高める狙いがあります。

トランプ氏は7月、次の大統領選挙への対応について、「私の心の中ではすでに決めている」と明言。

各地での演説でも、前回の大統領選挙で大規模な不正が行われたという主張を繰り返し、再び大統領に返り咲くことに強い意欲をにじませています。

トランプ氏
「選挙は盗まれた。そして今、われわれの国は組織的に破壊されようとしている。私は2回立候補し、2回当選した。私たちはもう一度やらなければならないかもしれない」

共和党内で影響力を拡大するため、トランプ氏は、現在行われている中間選挙の共和党の予備選挙で自身の主張に同調する共和党の候補者への支持を次々と表明しています。

トランプ氏の主張に同調する候補者(左)とトランプ氏(2022年8月)

ワシントン・ポストのまとめによると、その数はすでに220人を超え、対立する現職の共和党の議員に対し“刺客”を擁立するなど、党内をトランプ支持派で固めようとしています。

共和党の予備選挙では、8月17日の時点で、トランプ氏が支持する新人と元職の79.2%が勝利。支持表明を弾みに接戦を制するケースも見られ、党内での根強いトランプ人気を伺わせています。

中間選挙本選もトランプ効果で死角はなし?

11月の選挙となると話は別です。

有利な情勢とされる共和党内からは、トランプ氏の活動の活発化が、逆にマイナスに働くのではないかという警戒感が出ているのです。民主党支持層や無党派層の間では、大統領在任中、さまざまな対立も生み出してきたトランプ氏への反発が根強く残っています。

連邦議会議事堂へ乱入するトランプ氏の支持者ら(2021年1月)

中間選挙で接戦の地域で勝つには、共和党支持層以外にも支持を広げることが欠かせません。

トランプ氏の支持は共和党内の候補者選びではプラスに働いたものの、民主党候補と激突する11月の選挙では、無党派層などの票が離れる要因になりかねないというわけです。

アメリカ国内では、トランプ氏への逆風も続いています。連邦議会では、ことし6月から7月にかけて、与党・民主党が主導する議会下院の特別委員会が、去年、連邦議会議事堂にトランプ氏の支持者らが乱入した事件をめぐって公聴会を開き、アメリカメディアがその様子を中継しました。

乱入事件をめぐる公聴会(2022年6月)

また、8月8日には、FBI=連邦捜査局がトランプ氏の自宅を公文書の取り扱いを定めた法律に違反した疑いなどで捜索し、最高機密を含む複数の機密文書を押収。トランプ氏側は“魔女狩りだ”などと強く反発していますが、大統領経験者を対象とした異例の捜査の行方に注目が集まっています。

共和党関係者は、共和党支持層の間でも“トランプ離れ”の兆候が見られるとしています。

共和党系政治コンサルタント ジョン・フィアリー氏
「トランプ氏は、演説でも2年前の選挙についてばかり語り、将来何をしたいのか語らない。トランプ氏へのうんざりとする感情は、数字では表せないが、多くの共和党支持者の間でもかなり浸透していると思う。中間選挙で共和党の成績が予想以上に悪ければ、トランプ氏にとっては痛手となるだろう。この選挙は2024年に何が起こるのか、その行方に大きな影響を与えることになる」

選挙戦の本格化はいつから?

11月の中間選挙に向けて、民主・共和両党の候補者選びは9月中旬までに終わり、いよいよ本格的な選挙戦が始まります。

アメリカは今、インフレをはじめとした国内の問題だけでなく、ロシアによるウクライナ侵攻や、緊迫化が懸念される台湾情勢など、国内外の山積する課題に直面しています。

民主党が劣勢を跳ね返して主導権を握り続け、バイデン政権に安定をもたらすのか、それとも共和党が多数派を奪還し、バイデン政権は身動きがとりにくくなるのか。中間選挙は、国際社会にも大きな影響を与えるアメリカ政治の今後の進路を決める重要な節目になります。

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