2022年5月31日
バイデン大統領 台湾 中国 アメリカ 中国・台湾 注目の人物

【詳しく】「台湾有事」そのときアメリカ・日本は?

日米首脳会談などのために日本を訪れたアメリカのバイデン大統領。
滞在中、最も注目された発言の1つが「台湾有事」をめぐる発言です。
記者から「台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるか」と質問された際、「ある。それがわれわれの決意だ」と答えたのです。これまでの方針よりも一歩踏み込んだ発言だという受け止めが広がりました。
中国が武力で台湾統一を試みる可能性はどれくらいあるのか?
日米はそれを止めるためにいま、何をするべきか?
東アジアの安全保障に詳しいアメリカの2人の専門家に聞きました。
(ワシントン支局長 高木優)

①ハーバート・マクマスター氏(トランプ前政権・安全保障担当大統領補佐官)

ロシアのウクライナ侵攻を受けて台湾有事の可能性は高まっている?

中国が、ウクライナから何を学んだかはわからない。習近平国家主席が、台湾を侵略し、屈服させるのは容易ではないと悟ったと信じたい。

しかし私は、習氏は、台湾について、ますます必死になるかもしれないとみている。中国は経済成長の目標を達成できていないし、経済戦略を転換できずに成長率が低迷するいわゆる「中所得国のわな」から抜け出すこともできていない。このため、習氏は国をうまく統治できるチャンスが日に日に小さくなっていると感じているのではないか。また、習氏は、中国共産党による支配が脅かされていると見て、さまざまな業界を取り締まることで、みずから問題を作り出している。こうした積み重ねた失敗が、習氏を台湾統一の道へと駆り立てていると私は考えている。

習近平主席 天安門広場 2019年10月

そして、それはことし秋の中国共産党大会のあと、おそらくすぐにも起こりうる。中国共産党大会は、最も危険な時期の始まりだ。なぜなら2026年ごろまでは日本の自衛隊、台湾の部隊、そしてアメリカ軍の戦力の増強は具体化しないからだ。自衛隊とアメリカ軍は、紛争を抑止するための能力を獲得しなければならない。これは台湾をめぐる競争なのだ。

台湾有事が起きたらアメリカは軍事力で応じるのか?

アメリカは、中国が軍事力で台湾統一を図ろうとした際の対応を、あらかじめ明確にしないことで、中国の行動を抑止する「あいまい戦略(戦略的あいまいさ)」という台湾政策を維持している。しかし、どちらに賭けるか?と聞かれたら、私は台湾防衛にアメリカは軍事力で応じる、という方に賭ける。

ウクライナ危機を教訓にアメリカや日本はどうすべき?

私たちが今、より力を入れなければならないのは、一段と攻撃的になっている中国の人民解放軍を抑止するため、自衛隊とアメリカ軍の能力の向上を加速させ、インド太平洋地域の安全保障環境を改善することだ。

中国に対応していくため日米はこれからどう行動すべきか?

日米海軍による共同訓練

ともに手を携えて歩むことだ。日本とアメリカは計り知れない可能性と能力を持っている。私たちは、自由な市場経済システムから恩恵を得ているが、日米が行動をさらにともにすれば、連携はさらに力強くなる。

また、日本は日本の文化などを発信する、いわゆるソフトパワー外交で、世界の人をひきつけている。日本はインド太平洋地域にある国として、地域の安全は「ワシントン」対「北京」の問題ではなく、「自由主義」対「専制主義」の問題なのだということをはっきりと伝えられるはずだ。さらに私たちにできることは、民主主義の土台を強化することだ。それが抑圧や隠蔽といった中国のやり方に対抗する最善の道だ。

(マクマスター氏へのインタビューは2022年5月17日に行われました)

②ジェフリー・ホーナン上級研究員(ランド研究所 日米の安全保障問題に詳しい)

ロシアのウクライナ侵攻でアメリカの台湾有事の際の方針に変化は?

アメリカでは、「あいまい戦略(戦略的あいまいさ)」を維持するべきか、それとも「明確戦略(戦略的明確さ)」へと移行するべきかという活発な議論が起きている。この議論は、ウクライナ危機が始まる前からあったが、危機が始まって以降はもっと活発になっている。しかし、今のところアメリカの戦略に変化はなく、「あいまい戦略」が公式に維持されている。「あいまい戦略」には2つの狙いがあることを忘れてはならない。1つは、アメリカの考えを明確にしないことで中国の行動を思いとどまらせることであり、もう1つは、台湾に一方的な独立宣言を思いとどまらせることだ。

中国が軍事力で台湾統一しようとしたらアメリカは軍事的に介入するのか?

アメリカは依然、「あいまい戦略」を維持しているので、最も簡単な回答は、「アメリカがどう対応するかはわからない」というものだろう。ただ、アメリカがこの数十年、台湾に武器を提供していること、台湾が民主的統治を維持し、友好関係にあること、そして台湾が国際社会で活躍できるようアメリカが努力してきたことなどすべてを考慮すれば、中国が一方的に台湾を攻撃した場合、アメリカは台湾を防衛するという見方がアメリカでは一般的だ。

アメリカのウクライナ危機への対応は対中国戦略にどんな影響を与えるか?

アメリカはいま、同時に2つの課題に直面している。1つはウクライナをめぐり、いかに同盟国を対ロシアで結束させるか。そしてもう1つは、ウクライナに関与するために、インド太平洋への関与を犠牲にしてはならないということを同盟国のあいだで再確認することだ。バイデン政権はこれらを両立できると説明している。たしかに、アメリカの同盟国・友好国による努力が維持される限りは両立できる。しかし、これが中長期になってくるとインド太平洋地域に悪影響が出てくる。

もっとも顕著なのは、軍事的資源だ。アメリカは今、ウクライナでロシアに対抗するために軍事的資源をヨーロッパに投入し続けている。

アメリカがウクライナに供与している対戦車ミサイル・ジャベリン

例えば、スティンガーやジャベリンと呼ばれるミサイルだ。このことで、アメリカのこれらのミサイルの備蓄が3分の1減ったとも伝えられている。これを補充するには何年もかかる。兵器の備蓄が完全でない状態で、近い将来、中国が台湾を攻撃したら、厳しい状況になる。

台湾有事に備えてアメリカは日本に何を期待するのか?

ウクライナでの戦争は、より強大な軍を持つ国と戦う鍵は、「準備」であることを知らしめた。日本とアメリカのあいだでの台湾有事に備えた議論を始めるのは、早ければ早いほどよい。解決すべき多くの課題に取り組むには時間がかかるからだ。

日本はいま、国家安全保障戦略などの策定を進めている。それは、この先5年から10年で、どんな能力を集中して獲得するかを決めるものだ。ただ、台湾有事のために本当に役立つのは、政府ではなく民間の関係者が、さまざまなシナリオについて議論を進めることだ。

例えば、中国が台湾だけを攻撃して日本を攻撃しない場合でも、アメリカが沖縄に配備している戦闘機を台湾の防衛のために投入したいとなった場合、それを日本は受け入れるのか。もしくは、中国が日本を含む広範囲に攻撃を仕掛けてきたときに、アメリカは日本に自国の防衛だけに専念することを求めるのか、それとも東シナ海で広く活動することを求めるのか、といったことだ。こうした議論を平時にしておけば、いざ有事となった際に何をすればいいのか、すぐにわかるため、負担は少なくなる。

今後、対中国でアメリカの日本への期待は増すのか?

ウクライナ危機により、アメリカは、日本が国を防衛すると言うことの根本的な意味をより真剣にとらえ始めることへの期待を強めている。日本が防衛費の増額を発表したことをアメリカは歓迎するが、増額分をどこに使うのかという疑問がある。本当に必要な分野に投入することが必須だからだ。

さらにウクライナ危機が、日本が台湾有事の際に何をみずから行うのかといった率直な議論を呼び起こすことへの期待もある。それは有事の際の法的な枠組みの問題にとどまらず、日本自身が何を進んで受け持つのかという議論だ。

自民党が岸田首相に提言した「反撃能力」をどう見るか?

アメリカは日本自身の決定であれば、どんな決定でも支持する。しかし、日本では、反撃能力を獲得したら、抑止力に関する懸念をすべて解決できてしまうというような、過度に単純化された議論がされがちだという見方がアメリカ国内にはあるのも確かだ。

日本は何のためにその能力を持つのか?アメリカ軍とのあいだでどう統合的に運用するのか?どのような指揮命令系統の下でどう連携するのか?反撃能力はとても高価な買い物になる。日本は反撃能力の獲得に資金を投入するのであれば、ほかのどの能力の獲得をやめるのか。これらのことをアメリカはもっと日本から聞きたい。

台湾有事の際には事態はとても早く展開する。その場合、アメリカは戦線から遠く離れており、迅速に部隊を投入するのは困難だ。ヨーロッパのように地続きではないので列車やトラックが使えず、艦艇か航空機でやって来るしかない。いざ戦闘が始まるという時になって兵力を移動させるのは非常に難しい。日米の首脳レベルでの意見交換を経て、将官レベルが有事の際の計画立案をスタートさせる。それがいまできることだ。

(ホーナン氏へのインタビューは2022年5月12日に行われました)

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