2022年12月23日
世界の食 ブータン アジア

ブータン産の松茸の味は?ヒマラヤの幸せな国の外貨獲得戦略

日本の秋の味覚、マツタケ。

輸入物といえば中国産や韓国産などが有名ですが、実はあの「幸せの国」として知られる国からも輸入されています。
ヒマラヤの王国、ブータンです。

もともとブータンでは食べられていなかったマツタケが今や貴重な外貨獲得の手段となっています。

ブータンのマツタケ事情を探ろうと現場を訪ねました。

(ニューデリー支局カメラマン 森下晶)

ブータンのマツタケの里を訪ねて

ブータンの首都ティンプーから車で山道を行くことおよそ1時間。マツタケ産地のひとつ、ゲネカ郡に着きました。

収穫は早朝から始まるため、村人の家に宿泊させてもらい、日の出とともに出発しました。

同行してくれたのはサンゲイ・ダワさん(50)。
30年ほど毎年収穫をしているベテランの“マツタケハンター”です。

マツタケ探しも楽じゃない!

サンゲイさんとともにマツタケ探しへ

マツタケが自生しているのは標高2900~3100メートル。足場の悪い山道にも関わらず、サンゲイさんは長靴でどんどん上っていきます。一方の私は、トレッキングブーツを履いていてもすぐに息が切れてしまい、ついて行くのが精いっぱいでした。

サンゲイさんは、ときどき立ち止まっては、真剣な目で山の斜面を探していきます。木の根元や、草に覆われ、こけが生えている場所がポイントだと言いますが…。初めての私は全く見つけられません。

1日中歩いても、1つも見つからないこともよくあると言います。

ようやく発見!マツタケ

マツタケを探して歩くこと40分。果たして、きょう採れるのか?不安になり始めた矢先、サンゲイさんが笑顔で斜面を指さしました。

カメラを向けてみると…。長さが10センチほどのマツタケが土から顔を出していました。まず木の棒でマツタケの根元を掘り起こし、最後は優しく手で引き抜いて収穫します。

「朝からこんな上物が見つかるなんてついてます。きょうはたくさん採れそうです」。

サンゲイさんは、満面の笑みを浮かべていました。 

その後も、次々とマツタケを見つけては採り続け、3時間ほどで8本を収穫しました。

長年放置されてきたブータンのマツタケ

ヒマラヤ山脈のふもとにあるブータン。多くの種類のキノコが採れますが、ブータンの人々は、マツタケの独特の香りを好まず、山で見つけても、わざわざ採ることも無かったそうです。

しかし30年ほど前、マツタケが、実は日本で高級食材だということが知られるようになり、その後、輸出が本格化したのでした。

この時期限定のマツタケ取引所

さて、私たちが収穫したマツタケ。その日のうちに売りに行くと言うので、同行することにしました。

サンゲイさんの家から5分ほど歩いたところに人が集まる場所がありました。ここは収穫の時期にだけ現れる、マツタケの“取引所”。バイヤーがマツタケの重さをはかり、大きさや形、傷や虫食いが無いかなどを確かめていました。

年によって価格は変わりますが、状態が良いものは、1キロあたりおよそ2700円で買い取られていました。なかには、自分の収穫したものを少しでも高く買い取ってもらおうと、バイヤーと交渉する村人も。

サンゲイさんのこの日の売り上げはおよそ3000円。収穫シーズン終盤にしては十分だと満足そうな笑顔でした。

いまではマツタケの収穫が年収の3割以上を占めるまでになっているそうです。

ブータンのマツタケの食べ方とは?

もともとマツタケを食べることがなかったブータンの人々も、いまでは売り物にならなかったものを食べるまでになったそうです。

この日、サンゲイさんの家ではブータンの伝統料理に欠かせない、チーズと唐辛子とともに、マツタケを煮込んだ料理を作っていました。

見た目はクリームシチューのようなこの料理。初めて食べる味でしたが、チーズの濃厚な香りとマツタケの風味がしっかりと残っていて、とてもおいしかったです。

持続可能な収穫を目指して

人口70万人あまりで生活必需品などの多くを輸入に頼るブータンにとって、外貨の獲得は重要です。マツタケの輸出は外貨を稼ぐ貴重な手段となっていて、ブータン政府は、マツタケを今後も持続的に収穫して輸出できるよう、さまざまな取り組みを行っています。

7.5センチ以下の小さなものは収穫しないことや、採ったあとは土をかぶせ、マツタケが育ちやすい環境をつくることなど、現地での指導を定期的に行っています。

国立きのこセンター ダワ・ペンジョーさん
「マツタケはブータンにとって重要ですし、国の貧しい地域の人たちの貴重な収入源にもなっています。日本人とブータン人の関係を維持するためにも大切な輸出品です」

ブータンから例年7月から9月にかけて日本に届くマツタケ。
コロナ禍で航空便が減ったため、輸出量も一時、減りましたが、徐々に回復しつつあると言います。

2022年9月23日 外国からの旅行者受け入れ再開のイベント

さらに、ブータンはことし9月、外国からの旅行者の受け入れを正式に再開しました。

取材の最後、マツタケハンターのサンゲイさんは、来年には、日本からの観光客にマツタケを直接販売できるようにしたいと夢を話してくれました。

サンゲイ・ダワさん
「私はマツタケの収穫の仕事が大好きです。来年の収穫シーズンには、多くの日本の人たちにブータンを訪れて欲しいです」

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