2022年12月8日
韓国 タイ

韓国の音楽「K-POP」に熱狂するタイの若者たち 今なぜ?

「BTSが大好き。韓国に行きたい!」。

この夏、バンコク中心部の繁華街にお目見えした、韓国の人気グループ、BTSの大型広告。

平日にもかかわらず、写真を撮りに訪れる若者の姿が絶えません。

なぜ、いまタイでK-POPが熱いのでしょうか。

(アジア総局 田路良一郎)

気になる!タイのKーPOPブーム

バンコク市内の広告にもK-POPアイドルが・・・

私(筆者)がタイに赴任してから2年。仲良くなった同僚のタイ人スタッフがうれしそうに話してくれた『推しグループ』も、K-POPグループでした。

確かに、街中にはほかにも韓流アーティストたちの広告があふれているし、K-POPに合わせて踊るタイの若者たちもちらほら見かけます。

ソーシャルメディアを分析したデータでも、タイはK-POPに関するツイート量が世界で最も多いと報告されていました。

そんなにブームなのかー。

20年ほど前、日本で韓流ブームが始まったころ、韓国のドラマや映画を数多く見て、その魅力にひかれたことを思い出しました。今や50代になった私は、大学生の娘からK-POPと言われても、ピンと来ていませんでした。

再び韓流の魅力を探ってみたい。

昔の記憶がよみがえった私は、ブームの実態に迫るべく取材を始めました。

タイ出身アーティストたちの活躍

見えてきたのが、タイ出身のアーティストたちの活躍ぶりです。

NICHKHUNさん(画面左)、LISAさん(右) 

男性アイドルグループ「2PM」のNICHKHUN(ニックン)さんや、アメリカの音楽チャート「ビルボード」で連続ランクインしている人気の女性グループ「BLACKPINK」のLISAさんなどがよく知られています。

中でもLISAさんは、タイでは国民的なスター。去年発表したソロデビュー曲は、動画投稿サイトで5億5000万回以上の再生回数を記録。タイのメディアも注目して大きく取り上げていました。

若者たちの“カリスマ”的存在に

いったいLISAさんはどのくらい人気なのか?

ブリラムの駅前の屋台 LISAさんの写真が飾られている

私はLISAさんの出身地、タイ東北部のブリラムを訪ねました。バンコクから300キロほどのカンボジアとの国境に近い地方都市です。

街の中心部に行くと、鉄道の駅の前には、ルークチンと呼ばれる、魚や豚肉などの肉団子などを販売する屋台が並んでいます。去年、LISAさんが「ふるさとのルークチンを食べたい」と発言したところ、これを買い求める人が急増したそうです。屋台にはLISAさんの写真が数多く飾られていました。

ブリラムの学校でダンスに励む生徒

次に訪れたのは、この町にある学校。去年11月、韓国政府が韓国の芸能プロダクションの協力を得て、ダンスの練習に使う教室を整備しました。ここで週に2回、ダンスの授業が行われ、LISAさんに憧れる生徒たちが集まってきます。

ここでダンスに打ち込む1人の少女に話を聞きました。14歳のパニダ・パニョさん。

始めは物静かな雰囲気でしたが、LISAさんの大ファンだといい、質問すると目を輝かせて答えてくれました。

パニダ・パニョさん
「K-POPスターになりたいという夢に一歩でも近づけるよう、ダンスの練習を続けていきたいです!」

国立大学にエンターテインメント専攻まで!?

シラパコーン大学のエンタメ専攻の授業

こうした若者の関心を意識してか、バンコクにある国立シラパコーン大学が、音楽学部に今年初めて、エンターテインメントの専攻を新設しました。この新しい専攻では、ダンスやコーラス、それに効果的なSNSの発信なども含め、幅広く学べるということです。

K-POPに強い関心を持つ若者が数多く入学し、7月から授業を受けています。

タンサポーン・サクンペットさん
「私の夢は、アイドルになることです。タイには私と同じ夢を共有する若者がたくさんいます」

シラパコーン大学 ナリン・ペッティン音楽学部学部長
「BLACKPINKや韓国で活躍できる若者たちが生まれ、タイは成功を収めています。タイ発のK-POPは右肩上がりと言えるでしょう」

「スターの原石」を探せ!韓国側も本腰

ブリラムを訪ねてから1か月ほど経った頃、バンコクで電車に乗っていると、韓国の芸能プロダクションが主催するオーディションの広告を見つけました。

取材を進めてみると、韓国側が、「スターの原石」を発掘しようと、動きを加速させていることがわかりました。コロナ禍で途絶えていたタイでのオーディションが、相次いで再開されていたのです。

芸能プロダクション側は、こうした人材発掘の現場を外部に公開することに慎重でしたが、交渉の末、8月初めのあるオーディションで、ようやく取材が認められました。

オーディションでパフォーマンスを披露

オーディションが行われたのはバンコク中心部の高層ビル。

夢をつかもうと、タイ各地から応募した10代の若者たちが緊張した面持ちで受付に並び、ダンス、ボーカル、ラップなどの部門に分かれて、真剣にパフォーマンスを披露していました。

オーディションを主催した「FNCエンターテインメント」イ・ジュヨンさん

イ・ジュヨン(李周泳)さん
「参加者たちは、基本的に実力も高かった。機会があれば、毎年このように訪問して、タイでオーデションを開催することを考えています」

オーディションの開催を支援しているタイ側の担当者には、こうした協力の申し出が韓国から次々と寄せられているそうです。

タイ側の窓口としてオーディションを支援する「DCT Family」パナパット・ラコンポンさん

パナパット・ラコンポンさん
「今年に入って、7、8社と協力しています。こうして若い人の夢をサポートできてうれしいです」

10月になってあらためて問い合わせてみると、申し出はさらに増えて15社ほどと協力関係を結んでいるということで、韓国側の関心の高さがうかがえました。

なぜ、K-POPは世界に進出?

K-POPが世界に進出している中で、東南アジア、そしてタイはどのような役割を果たしているのか。韓国のエンターテインメント専門家に話を聞きました。

韓国の専門家キム・ジヌ氏

韓国音楽コンテンツ産業協会・音楽チャート「Circle Chart」首席研究委員
キム・ジヌ(金眞友)さん

Q. K-POPはなぜ、世界に進出?
「韓国では、10代や20代の若い世代の人口が減り、国内市場が縮小しているので、海外に出ていくしかなかった。韓国の音楽制作会社が早くから海外市場を継続してノックしており、ようやく光を放っているようだ」

Q. タイでの現在のブームの要因は?
「タイの自由で開放的な雰囲気がK-POP文化を発展させたのではないか。タイの人たちは、他文化を受け入れる“受容性”が高いようだ。タイ出身のアーティストがK-POPグループのメンバーとして活躍することが、世界にK-POPを広めたい韓国にとってもプラスになる側面がある」

Q. 今後のタイで期待することは?
「海外市場に本格的に進出したのが、主に2000年代からで、これをK-POP1.0と呼ぶと、2010年代から、現地の人たちをメンバーに迎え入れる動きが始まったのが2.0。そして、日本でも人気のNiziUのように、韓国のK-POPの制作技術を現地のメンバーと結合させる。これが3.0。
私がタイにアドバイスするのは、この3.0を導入すること。LISAさんが世界的な成功を収めているので、タイの人たちだけでメンバーが構成されたK-POPグループが現れても十分に競争力があると思う」

キムさんはこのほか、これまでも、若者によるカバーダンスなど、タイが東南アジアのさまざまなブームを先導してきたこと、地理的に地域の中心に位置していることなどもK-POPブームの理由に挙げていました。

今後は東南アジア最大の2億人を超える人口を抱えるインドネシアでの浸透など、K-POPの可能性にも期待を寄せていました。

取材を終えて

韓国のエンターテインメント業界の地道な取り組みと、夢を追う若者たちのエネルギーに支えられているK-POPブーム。タイを中心に、東南アジアでの勢いはこれからも続いていきそうだと感じます。

取材を終えたとき、ふと思い出したのは、大学のダンスサークルで活動する、ダンスが大好きな娘のことでした。離れた日本で暮らしていますが、今度帰国するときには、ぐっと距離が縮まるといいなと思います。

国際ニュース

国際ニュースランキング

    特集一覧へ戻る
    トップページへ戻る