「水素」をオーストラリアから日本へ 脱炭素社会へ日豪の連携①

次世代のエネルギーとして期待されている「水素」。地球上に大量に存在し、燃料として使う際に二酸化炭素(CO2)が出ないという特徴があります。

その水素を巡って日本とオーストラリアの企業との連携が進んでいます。神子田章博キャスターが現地を取材しました。

世界初・液化水素運搬船 日豪が期待

オーストラリア・ビクトリア州のメルボルン近郊の港に停泊していたのは、オーストラリアでつくった水素を日本へ運ぶ実証試験に成功した運搬船です。液化した水素を船で運ぶことに成功したのは世界で初めてです。

この船は全長116メートル。日本の大手重工業「川崎重工業」が製造しました。将来、大量の水素を運ぶために、長さが3倍、タンク容量が130倍近くに上る、より大きな船をつくる予定です。

大量の水素を運ぶために必要なのが水素の液化です。水素はマイナス253度に冷却することで液体に変わり、体積が800分の1になります。これを「液化水素」と言います。

液化水素を海の上でなるべく気化させず長距離にわたって運ぶために、この運搬船には、製造した大手重工業が長年培ってきた特殊なノウハウが生かされています。ロケットの燃料となる液化水素の貯蔵タンクや、LNG運搬船を製造してきた技術の蓄積です。

日本が誇る技術の粋を集めたこの液化水素運搬船を、オーストラリアのマデレン・キング資源相が、日本の西村康稔経済産業相とともに8日に視察し、強い期待を示しました。

マデレン・キング資源相(左)

マデレン・キング資源相
「世界が脱炭素化に向かっているので、日豪が水素サプライチェーンのあらゆる部分で協力することが大切で、最も重要なのは世界中に運搬できるようにすることだ」

運搬船を製造した大手重工業 金花芳則 取締役会長
「(日本は)液化水素に関しては世界を一歩リードしている。このリードを保って世界で初めて大量の液化水素を運ぶ。そういうプロジェクトをぜひとも実現したい」

オーストラリアの石炭から日本の技術で高純度水素を

オーストラリアの広大な炭鉱

日本企業がオーストラリアで水素をつくろうという動きもあります。ビクトリア州では、広大な炭鉱から生み出される石炭を使って、大量の水素をつくることが検討されています。

日本の電気事業大手「電源開発」は2021年、「褐炭(かったん)」と呼ばれる低品位な石炭から、高純度の水素をつくり出すことに成功しました。褐炭は水分や不純物を多く含み、重くかさばるわりに発熱量も低い石炭で、輸送に困難を伴うため、これまでは現地での利用に限られてきました。

「褐炭」を手にすると「湿った感じ」がした

どのように高純度の水素をつくり出すのか。褐炭を細かい粉にしたあと蒸し焼きにして、水素と一酸化炭素などが混ざったガスをつくります。

さらにこのガスを触媒に通しながら水蒸気と反応させると、高純度の水素ができます。

課題は二酸化炭素も同時に発生してしまうことです。この電気事業大手は二酸化炭素の排出を抑えるために、地下に埋める技術などを活用していきたいとしています

電気事業大手 技術開発部 小谷十創 部長補佐
「水素が脱炭素のために非常に求められている中で、さまざまなチャレンジがあるので、やりがいはある」

近隣のまちには、石炭産業に支えられた人が多く住んでいます。脱炭素へのシフトをどう受け止めているのか、聞いてみました。

ある女性は「何らかの変化が生まれることを願っている。石炭産業に携わる人たちがほかの産業に移れるように」と話しました。

また、ある男性は次のように話しました。

石炭産業に支えられてきた近隣のまちに住む男性
「石炭関連の雇用が失われるのは悲しいが、より安価な電力とエネルギーを生み出すのであれば賛同する」

石炭から水素をつくる際に出る二酸化炭素の課題をクリアできれば、石炭産業に変わる雇用を生み出すことにもつながります。

日本で進む水素エネルギー「イーメタン」の取り組みとは

一方、こうした水素プロジェクトを事業として成り立たせるためには、日本で安定した需要を生み出す必要があります。そこで、大量の水素を使って新たなエネルギーをつくり出そうという動きが進んでいます。

大手ガス会社「東京ガス」の横浜市鶴見区にある施設では、水素を使って「e-methane(イーメタン)」というガスをつくっています。

都市ガスの燃料は、今は化石燃料の天然ガスですが、これをイーメタンに置き換えていこうとしているのです。

イーメタンをつくる工程を見てみましょう。原料となる水素は再生可能エネルギーによってつくられたものとします。その水素と、工場や発電所などから回収した二酸化炭素を合成してイーメタンをつくります。

イーメタンを燃やすと二酸化炭素が排出されますが、つくる時に二酸化炭素を回収していることから相殺されるため、大気中の二酸化炭素は実質増えないとしています

このイーメタンは、ガスコンロやガス管など既存の都市ガスのインフラを使えるメリットがあるということです。

大手ガス会社 水素・カーボンマネジメント技術戦略部 小笠原慶さん
「大容量のイーメタンを製造するには、再生可能エネルギーの価格が安価な海外で大量につくって日本に輸入することを今計画している」

今後は、水素をつくる過程で出る二酸化炭素をどうコントロールするか、また二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーをどう確保するかが課題となります。
【2023年10月19日放送】

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