再エネやCCS 商機探る日本企業 脱炭素社会へ日豪の連携②

オーストラリアは今、二酸化炭素の排出制限などの厳しい規制が進むなどして脱炭素の動きを加速させています。現地の日本企業は、新しいビジネス拡大の機会を見つけ出そうと動き始めています。

再生可能エネルギーに力を入れる日本企業

南オーストラリア州にある太陽光発電施設。広大な敷地に80万枚を超えるソーラーパネルが敷き詰められています。日本の資源開発会社「INPEX」が運営に携わり、約11万世帯分の年間消費電力に当たる275メガワットを発電しています。

この会社は天然ガスの生産の約8割をオーストラリアで行っていて、再生可能エネルギーの事業に乗り出すことで多角化を図ろうとしています。

日本の資源開発会社 村山徹博 執行役員
「オーストラリアは再生可能エネルギーの資源である風力・太陽光が非常に豊富であるのは間違いない。LNG(液化天然ガス)のみならず再生可能エネルギーにも力を入れて、オーストラリアという地をわれわれのビジネスの中で強化していきたい」

厳しい規制で脱炭素ビジネス加速

日本企業が現地で脱炭素ビジネスに乗り出す背景の一つが、厳しい規制です。オーストラリアでは2023年の制度改正で、一定の量の温室効果ガスを排出する国内事業では、前の年に比べて4.9%以上の削減が毎年求められます

さらに新しいガス田などは、生産過程で出る温室効果ガスを回収するなどして排出をゼロにしなければなりません

CCS実用化目指す日本企業も

こうした規制に対応して、新しいビジネスにつなげる動きも出ています。日本の「東京ガス オーストラリア」は「CCS」という技術の研究を進めています。排出された二酸化炭素を回収して地中深くの地層に注入し貯蔵する技術です。

この会社は、二酸化炭素を1000分の1ミリ単位に小さくすることで効率よく地中に埋められることをこれまでの実験で確認しています。

西オーストラリア州にある大学では今、この技術の現地での実用化に向けた研究が行われています。州内の実験場所の地下2キロから地盤のサンプルを採取し、石の隙間に二酸化炭素がどの程度注入できるか、地盤が割れないかなどを確認しています。

そして2026年までには研究を終え、できるだけ早い段階での実用化を目指すとしています。

日本のガス会社 石和田尚弘さん
「オーストラリアは地質学的にCCSに非常に向いている。どうやって今までにないビジネスモデルを確立し、事業性を成り立たせていくかが今後の課題だと思っている」

資源大国で進む脱炭素 専門家「新たな雇用に期待」

脱炭素に本腰を入れるオーストラリア。ただ、そもそもオーストラリアは世界有数の石炭の産出国です。脱炭素にかじを切ることで経済や雇用にどのような影響があるのか、専門家に話を聞きました。

オーストラリア連邦科学産業研究機構のパトリック・ハートリー博士は、水素の専門家で、脱炭素政策にも関わっています。脱炭素社会の進展で、既存のエネルギー産業で働く労働者に新たな雇用を生み出せるといいます。

パトリック・ハートリー博士
「オーストラリアでは多くの調査を行った結果、脱炭素やエネルギー転換のためにたくさんの新しい技能が必要になることが分かりました。このため、関連する職業再訓練や、とてつもない数の新たな雇用が期待できると思います」

ただ、脱炭素を進めるには相応のコストも必要だと指摘しています。

ハートリー博士
「短期的にはインフラを構築したり再生可能エネルギーを大規模に展開したりするためのコストがかかります。ただ、われわれは再生可能エネルギーを最も安い電力として利用できるようになっているので、いずれコストは下がってくると思います」

脱炭素に向けて日本とオーストラリアの間でどのような協力ができるか質問すると、次のように答えました。

ハートリー博士
「私たちは既存の資源の貿易で長年築いてきた関係をクリーンエネルギーについても築くことができると思います。両国には、それぞれ資源や人材、資金、それに需要があるので、脱炭素実現に向け協調関係をうまく築けるでしょう」

日本にとってもともと結びつきが強いオーストラリア。脱炭素という差し迫った課題の克服に向けてさらに関係が深まっていくことが期待されます。
(シドニー支局 松田伸子、神子田章博解説委員)
【2023年10月20日放送】
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