世界へ “地域丸ごと”をアピール 宮崎県高千穂町の原木しいたけ

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日本の農林水産物の輸出拡大に期待が高まっていますが、中には、海外ではあまりなじみがなくても着実に輸出を伸ばしているケースがあります。

その一つが宮崎県高千穂町の「原木しいたけ」。世界の人たちの心をつかんだのは、地域と自然、そして生産する人々としいたけ問屋が、支え合って共に栄える“共存共栄のビジネスモデル”でした。

人々の暮らしを支える「原木しいたけ」

干したしいたけを持ちこむ生産者(右)

宮崎県高千穂町のしいたけ問屋「杉本商店」に、地元の生産者が干したしいたけを持って集まってきました。

扱うのは、クヌギの原木から自然栽培された原木しいたけです。厚みがあり、うまみが豊かだとされています。

原木しいたけをとる生産者

このしいたけ問屋は約70年前に創業して以来、持ち込まれたら原則すべて買い取ることを営業方針にしてきました。しいたけは、大切は収入源として地元の人たちの生活を支えてきたのです。

取材した日、生産者の一人に買い取り価格を聞いてみると「8万1000円」でした。別の生産者は「子どもの大学、高校(の教育費)も全部ここで、しいたけでやった」と話します。

「ビーガン」を突破口にアメリカ進出

しいたけ問屋の社長、杉本和英さんは、国内で安価な菌床栽培のしいたけが広く流通し需要が低迷する中で、海外進出を目指すことにしました。

杉本和英社長(左)

しいたけ問屋 杉本和英 社長
「(需要が)少なくなったから少ししか買えないという言い訳は通用しない。そうすると減った分を何かで補わなくてはいけない」

しかし海外で原木しいたけの知名度は低く、最初は手応えを得られませんでした。

突破口になったのが、欧米で増えている、肉や乳製品などを一切口にしない「ビーガン」と呼ばれる人たちです。アメリカ・ラスベガスの試食会では、歯ごたえが肉のような食感だとしてバイヤーが高い関心を示しました。

ラスベガスの試食会。試食した人は「So good!(すばらしい!)」と笑顔

“共存共栄のビジネスモデル”に評価

価格交渉に入るかと思いきや、バイヤーからかけられたのは意外な言葉だったといいます。

しいたけ問屋 杉本社長
「値段がいくらかよりも、『どんなところで誰が作っているんだ』ということを興味を持って聞いてくる」

杉本さんの問屋は、原木を伐採しても15年で元どおりになるなど環境にも配慮した栽培、そして地域でつくりあげた共存共栄のビジネスモデルをアピールしました。地域で大切にしてきたビジネスモデルが、国を越えて価値として伝わりました。

原木は伐採しても15年で元どおりに育つという

原木しいたけは現在、世界21の国と地域で販売され、売り上げは4000万円と全体の1割に達しています。

しいたけ問屋 杉本社長
「高齢化して、中山間地で産業は難しいというところばかりクローズアップされているが、実際は、どこもまねできない資源があって、見方や考え方を変えて、それを価値として売っていけば、おもしろいことになる時代になっている」

次の狙いはインド市場

杉本さんは、次にインド市場を狙っています。インドでは宗教上の理由などで肉を食べない人が3億人を超えるとも言われています。現地の試食会では、カレーに原木しいたけを入れたところ、早速好評だったということです。

原木しいたけの味わいだけでなく、地域に根づいた生産の仕組みや価値が評価され、それによってまた産業が持続する。インドではどのような評価を得るのか、期待されます。
(宮崎局 柳原章人)
【2023年2月22日放送】
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