2021年08月27日
(聞き手:小野口愛梨 本間遥)
2025年に約32万人の介護人材が不足すると言われている日本。この課題に向き合おうと、大学卒業と同時に「介護のコンサル」になった秋本さん。カギになるのは若い世代。どう業界を変え、若者を呼び込むのでしょうか。
まず秋本さんの仕事について教えてください。
主な事業は介護事業者の採用活動や、人材育成の支援を行うコンサルタントをしています。
ほかにも、介護に関心を持っている人が情報交換したり、共に学びあったりするコミュニティの運営もしています。
具体的にはどんなことをしているんですか?
皆さんのような意欲的な人をどう採用するか、企業は試行錯誤しています。例えば、採用人数を倍にしたい事業者と一緒に採用戦略を考えます。
皆さんの視点で言うと、説明会がおもしろい企業って選考を受けてみたくなりませんか?
はい。
Blanket 代表 秋本可愛さん
1990年生まれ。大学卒業後に現在のBlanketを設立。介護・福祉事業者に特化した採用・育成支援事業を行い、自治体などとイベントも開催。介護に関心を持つ若者が集まるコミュニティ「KAIGO LEADERS」の発起人。
どんな説明会や選考プロセス、インターン企画にしようかなど、企業と一緒に考えることを介護に特化してやっています。
皆さんも就職活動している中で、会社案内の動画を見たりパンフレットをもらったりすると思います。
こうしたツールも一緒に作らせてもらったりしています。
介護って私たち若い世代にあまり身近な存在じゃないと思うんですが、どうして着目したんですか?
私も最初はあまり興味なかったんです。
きっかけは学生時代に所属していた起業サークルで、一緒のチームになったメンバーのおばあちゃんが認知症で介護が必要だったことなんです。
サークルでは介護にどう携わったんですか?
例えば、認知症の人と一緒に読むフリーペーパーを、美大生とチームを組んで発行しました。企業から協賛をもらって配布したんです。
実際に現場にも行ったんですか?
そうですね。事業所にヒアリングに行くこともありました。
ボランティアでたまに行くぐらいだと分からなかったので、実際にバイトもしました。
介護の現場でアルバイトをやってみてどうでしたか?
人生の大先輩にいろいろな事を教えてもらいました。大学生だったので、恋愛相談したりとか!
えー!
つらいことはなかったんですか?
仕事自体はすごく楽しかったんです。
でも「自分が生きているのが申し訳ない、早く死にたい、死にたい」と言っているおばあちゃんがいたんです。
その姿を見た時に、何かつらいというよりもモヤモヤするというか・・・。
「歳を重ねた先で自分が生きることを否定してしまうなんて嫌だな、なんとかしなきゃいけない」という課題意識が大きくなった感じでしたね。
その時の経験が今のお仕事につながっているんですね。
そうですね。それと、大学生の時に「東日本大震災」があったのも大きく影響を受けています。
当時、復興支援ボランティアや社会のための活動を周りの大学生が始めたんですが、介護に関心を向ける人が少ないことに課題意識を持ちました。
まず若い人が介護業界に関心持つきっかけや、関心を持った人たちが活躍する環境をつくりたいと感じて、卒業後そのまま事業を立ち上げました。
卒業してすぐに起業するなんて、勇気がいる行動だなと思いました。既存の介護会社に入るという選択肢はなかったんですか?
介護に関心を持ってもらうきっかけをつくることがまず大事だと思ったんです。
既存の介護会社に入って採用担当になるというアプローチもあったかもしれないんですが、当時の私はそこまで考えてなかったです(笑)
介護業界に若者の関心がないと、やっぱりまずいんですか。
介護業界って、ずっと人材不足だと言われています。
介護業界に迫る「2025年問題」
団塊の世代が全員75歳以上になる2025年度、さらに介護サービスの需要が高まります。一方で、厚生労働省は2025年度に介護人材は2019年年度よりも32万人多く必要になると推計しています。2021年6月時点で介護サービスの有効求人倍率は3.48倍と高く、人手不足は深刻です。
2040年に日本は死亡者数がピークを迎えますが、人口減少と重なり、就業人口の5分の1が医療介護人材にならないと支えられないとも言われてます。
そんなにたくさん必要なんですか。
そうなんです。
私は介護の採用コンサルをしながらも「全体のバランスとして医療介護人材ばかりでいいのか、他の産業はどうなるんだ」と思っています。
だから、介護だけとか医療だけという今の仕組みで支えるのではなく、ゲームチェンジしていかなきゃいけないと思うんですよね。
若い人はなぜ介護に興味が向かないと思いますか?
そもそも触れる機会がないんじゃないかなと思っています。
今って、おじいちゃんおばあちゃんと一緒に暮らすのが当たり前じゃない時代ですよね。
だから、家族の介護がもちろん身近な人もいるけど、なかなか自分ごととして捉えにくい職業かなと。
確かに。
もう1つはイメージの問題。介護業界のイメージってどうですか?
結構肉体的にきついイメージがあります。給与的にも・・・。
いくらぐらいもらえたら、やりたいですか?
うーん。600から700万円くらい・・・でしょうか。
フリーランスで介護職をしている友人は、700万ぐらい、いやもっともらっているかな、私と同い年くらいで。
彼は男性ですが、介護の専門職としてのプロフェッショナリズムを持ち、人を教育することもできるのでそうした働き方を選んでいます。
興味でてきましたか?
イメージ変わりました。すごい。
産業全体でいうと、お給料の面で改善してほしい部分はまだまだありますが、働き方次第では稼げないわけではないんです。
法人によって違いますが、福利厚生がしっかりしている都内の介護施設で働く私の友達は新卒で施設長になり、5~600万円もらっています。
ネガティブな情報が多すぎて、ポジティブな情報が全然知られていないので、正しい情報を届けることも私たちはサポートしています。
イメージってなかなか変えづらいかなって思うんですけど、秋本さんの仕事を通して変えられそうですか?
この仕事ってやっぱりまだまだ誤解されている部分がすごく多いと思っています。「お世話をする重労働で大変」みたいな。
確かに、一時期は肉体労働で腰痛とかで辞めていくみたいな人がすごく多かったんです。
でも、介護技術の浸透や、ITの力でサポートしてくれるものなど新しい製品を駆使しながら介護の現場はどんどん改善されているんです。
介護とITですか?
例えば、睡眠状態を見える化してくれるシステムがあります。
日中に元気がないのは単純に眠れてないのか、それともどこか悪い部分があるのかを睡眠の質から判断する補助をしてくれます。
へえ!
ほかにも排せつを予測してくれるシステムもあるんです。
おなかの所にセンサー当てておくと、「あと10分で排尿です」ってタイミングを教えてくれるんです。
介護×テクノロジー
介護の質の向上、負担の減少につながる技術の導入が進んでいます。
▽においを検知するセンサーがついたマットをベッドに敷くと、排せつのタイミングを教えてくれるシステム。
▽毎日、紙に手書きで記入していた食事、血圧、排せつなどの介護業務記録を音声入力できるアプリ。
▽介助者の腰などへの負担を軽減するロボット。
もちろん、すべて導入してIT化が進んでいる施設もあれば、そうでない施設もあります。
どんどん変化しているときだからこそ、そういったポジティブな情報を伝えて、仕事の価値や魅力を届けたいと思っています。
仕事のやり方もどんどん変わっているんですね。
そうですね。介護業界は発展中なので、自分たちが新しいことを創造できるすごく面白い場所だと思っています。
次回は、コロナ渦で奮闘する全国の介護職の人たちを支援する取り組みについてお伝えします。近日公開です。
編集:高杉北斗 撮影:白賀エチエンヌ
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