教えて先輩!「ReBit」代表理事 藥師実芳さん

LGBTの就活を変えたい!

2021年06月11日
(聞き手:白賀 エチエンヌ・本間 遥)

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「トランスジェンダーは帰れ」。就職活動で直面したのは、無理解によるハラスメントでした。LGBTのキャリアを支援する団体「ReBit」を立ち上げた藥師実芳さんの活動の原点です。

面接でハラスメント、無意識の決めつけ

学生
白賀

はじめに、藥師さんの就活の時のお話を伺いさせてください。

当時、私のまわりに、トランスジェンダーだとオープンにして企業で働いている人はまだ少なくて。

ReBit
藥師さん

だから、ロールモデルが少なかったし、相談できる場所もなかったんです。

当時は就活を支援してくれるところがなかったので。

《藥師実芳さん プロフィール》
1989年生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科卒。認定NPO法人ReBit代表理事。学校・企業などで研修やLGBTのキャリア支援を行う。トランスジェンダー男性。

男性もののスーツを着て就活をしていたんですが、戸籍上は女性なので、内定をもらった後に住民票などを提出すると、戸籍上の性別がわかってしまう。

当時、私の周りで内定が決まってからトランスジェンダーであることを伝えたら、内定切りをされたっていうケースもあったんです。

許されることじゃないですけど。

学生
本間

えー!

なので、言わないこともリスクだと感じました。

だから私の就活の時は、全ての企業でトランスジェンダーであることをカミングアウトしていました。

その中では「トランスジェンダーの人は帰ってくれ」って言われて面接開始2分で帰されたこともありました。

ほかにも最終面接で「子ども産めるんですか」って質問されたことや「LGBTって何ですか」って質問で30分の面接時間が終わったこともありました。

そうだったんですね。

面接官に差別しようという気持ちはなかったとは思います。

でも、無理解からハラスメントが生じてしまう場面にたくさん直面しました。

オンラインで取材しました

一方で、約50社を受けた中には「別に性別で選んでいるわけじゃないので大丈夫ですよ」と言ってくださる企業もありました。

結局、内定をもらった企業のうち「なんか困ったらいつでも言ってね」と人事部長が気にかけてくださった広告代理店に入社を決めました。

なるほど。

でも、入社してから「本当にこの仕事をしたかったのかな」と疑問に思うことが増えました。

就活の軸として「男性として働けること」が最優先になってしまっていて。

仕事を選ぶうえで何をして働くのか、どう生きていきたいのかということをじっくり考えることが大事なんだなって気付きました。

本当に自分がやりたいことを考えていくうちに、会社を辞めて学生団体として取り組んでいたReBitをNPO法人にすることにしたんです。

すべての子どもがありのまま大人になれる社会を

キャリア支援は具体的にどういう事をしていらっしゃるんですか?

当事者と企業と支援者の三方を対象にしています。

国内最大級のダイバーシティに関するキャリアフォーラム RAINBOW CROSSING

当事者の人たちには、個別の相談や企業との交流の場を提供しています。

LGBTに関する研修や、職場環境を変えていくコンサルテーションを提供しています。

職場がLGBTに関する理解があることが働きやすさにつながると思っているので。

小学校への普及啓発活動

あと就労支援者、キャリアセンターやハローワークにおけるキャリア支援者の育成も非常に大事です。

なので、そういったところに対する研修や育成プログラムの提供もしています。

当時藥師さんが就活してらっしゃった10年前と今では理解度にどのくらい差があるんですか?

LGBTという言葉に注釈をつけなくても、企業の人事の人たちが当たり前に知っているということが大きく変わったなと思うんです。

でも10年前はほとんどの人事の方がLGBTって言葉は知らなかった。この10年は大きい変化だと思っています。

多くの就活生がハラスメントを経験

現在でもLGBTの学生さんの就活の困りごとは何か耳にしますか?

2019年の私たちの調査では、LGBの42%、トランスジェンダーの87%が就活時にハラスメントを経験しているという結果が出ています。

トランスジェンダーの人が入社するにあたって全社員にカミングアウトしないと駄目だって言われてアウティング(暴露)を強要された人もいました。

他にも面接で「結婚しても仕事を続けますか?」と聞かれたなどの事例も。

誰もが異性愛者であることを前提としたアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が根底の課題だと思います。

LGBTであることを学生側からカミングアウトすべきなんでしょうか。

そうではないと思います。

したいと思ったらできる環境があったらいいし、してもしなくても、心理的に安全な職場であることが大事だと思います。

就活でカミングアウトをしない理由って、言ったら採用に悪い影響があるかもしれないと思っているからなんですね。

カミングアウトしても公正な採用選考が受けられるのであれば選択肢は広がってくるわけです。

一方、LGBTの施策を行っている企業について「まったく知らなかった」という就活生が半数以上いました。

企業側の取り組みが学生に十分に届いていないことも課題となっているんです。

なるほど。

また、入社してから3年以内でLGBTの9割がハラスメントを受けているという調査結果が出ています。

選考時も大変だけど入社してからも大変。職場での理解促進が、働き続けることができるかに影響しています。

「好き」を仕事にする楽しさと苦しさ

藥師さんのように、社会課題の解決を仕事にする上での楽しさと難しさを教えてください。

入社1年目で辞めてNPO法人を立ち上げたんですが、最初は全然収入がなかったですね。

社会課題を解決しながら、収益をあげるということは本当に難しい。

言われてみると、確かにそうなのかもしれないです。

例えば、私たちはLGBTのキャリア支援は無料で提供していて、就活生からお金を頂かないんです。

だからこそ受益者(LGBTの就活生)とは違うところから、収益を得なければいけないわけです。

必ずしも社会課題を解決するためのモデルと収益モデルが同一ではないからこそ、両輪で事業を組み立てなければいけないんです。これが創造的で難しい部分です。

一方で、ただシンプルに本当に好きなことを仕事にできているので、おもしろいと思うし、最高です。

なるほど。好きな事を仕事にすること自体はすごくうれしい事である一方、収益とか実務的な部分を考えるととても大変なんですね。

事業って「人・物・金」って言われたりするじゃないですか。

法人化当初は本当にお金がなかったから、お金があればなんとかなるのにと思うことが多かったんですよね。

でも事業規模が拡大するにつれて、あたりまえですが、人がいなければ何もできないことに気づきました。

なので、人、ソーシャルインパクト、収益の3つをバランスよく捉えることができるようになったのがこの数年かなと思います。

おかげさまで社員15名、ボランティアメンバーが延べ600名以上と、本当に人に恵まれながら事業に取り組めているなと感謝しています。

このチームで数段階大きなインパクトを出していけたらいいなと考えています。

幅広い情報収集が課題

1日のスケジュールをいただきました。
日経新聞を読みたいと思いつつ…。

読めていないっていう…(笑)

情報収集の仕方でこだわっていることや気をつけていることはありますか?

LGBTやダイバーシティなどの話題について、インフルエンサーのFacebookやTwitterを見ておくようにしています。

まとめて発信してくれる人が何人かいて、その人たちの投稿をザーッと見ておくっていうのはすごい重要視しています。

悪い意味でのインフルエンサーもいると思うんですけど、そういった人たちの投稿内容も把握しているんですか?

さまざまな立場で発信しているインフルエンサーがいらっしゃるので、多角的にチェックすることで、情報をつかんでいますね。

一方で、LGBTやダイバーシティなど自分の興味があることばかり詳しくなります。

他のニュースや情報に追いつけていないことが課題です。

もっと世の中のトレンドなんかをチェックしなきゃいけないと思っているということですか?

そうなんですよ、これを機に励みます(笑)

見た目じゃ分からない違いに理解を

職場でLGBTの方にどういうふうに接すればいいとかありますか?

「アライ」であっていただきたいっていうところがあります。

「アライ」とは、LGBTの理解者や応援者を指します。

LGBTも見た目じゃ分からないんですけれども、アライの人も見た目だけじゃ分かりません。

だから、自分がアライであるとうことを発信していただくってこともすごい大事になってきます。

理解者であるということがすごく大切なんですね。

そうです。見た目じゃ分からない、いろんな違いを持っている人がいることを知っているということが、何よりも重要なことだと思っています。

就職活動で直面した自身の経験をもとに支援団体を立ち上げた藥師さん。次回は、当事者を取り巻く実態や、「LGBT」という名称でひとくくりにする理由について考えます。

取材:加藤陽平 編集:鈴木有 カメラ:堤啓太 田嶋瑞貴

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