2021年02月22日
(聞き手:佐々木快 西澤沙奈 小野口愛梨)
仕事も大学の講義も自宅からオンラインで。そんな生活が定着し、すっかり化粧をする機会が減ったという人も多いのではないでしょうか。インバウンド需要も途絶える中、市場の変化にどう対応しているのか。化粧品業界の今を「コーセー」の人事担当者に聞きました。
よろしくお願いします。
世界の化粧品市場の規模は約50兆円ぐらいです。日本はその中でどのくらいだと思いますか?
期待感も込めて・・・3位くらいですかね!
おっ!正解!
日本は、アメリカ、中国に次いで第3位。世界市場の8%を占めています。世界の化粧品市場をリードしている国の1つなんです。
いま、だいたい売り上げの4割が海外の売上で、6割が国内の売り上げです。
新型コロナの感染拡大は業界全体に大きなダメージがあったのではないでしょうか?
そうですね。好調だったインバウンド需要は激減しましたし、お化粧をする機会が減ったと思うんです。
マスクをつける機会が多くなったので、リップをしなかったり、人と会う機会も少なくなったり。
大変厳しい状況なのですが、こうした中でお客さまのメイクの楽しみ方が変わってきているように感じます。
どういうことですか?
アイシャドウの売り上げが伸びたり、アイライナーも黒やブラウンが一般的だったのが、カラフルな色の商品が伸びたり。
マスクで口元が隠れているからこそ、普段挑戦できないメイクをしようというお客さまが増えたのかなと。
このミスト、よかったら手にとってみてください。メイクの最後に顔に吹き付けてからマスクをすると、内側にメイクが付きにくくなるんです。
えー!
コロナの前に発売された商品で、累計出荷数は300万本なんですが、このうち200万本がコロナ後の出荷なんです。
この商品のように、トレンドやニーズの変化に柔軟に対応しながらいかにお客さまとの接点を作るのがこの仕事の魅力だと思います。
接点というお話がありましたが、コロナ禍では接点が作りづらいですよね。例えば、店舗での接客とかも。
店頭でお客さまの肌に直接メイクできなくなりましたし、緊急事態宣言の時はお店自体が閉まっていました。
そうした中でもECサイトでの買い物など、お客さまの行動にきちんと応える必要があるということで「デジタルトランスフォーメーション」を選びました。
デジタルトランスフォーメーション
最先端のデジタル技術を使って製品やサービスを変革すること。先端技術を取り込んだり、異業種の企業と組んだりすることで新たなビジネスモデルの創出を目指す。
去年12月に非接触で買い物を楽しんでいただける直営店を表参道にオープンしました。
その店舗でももちろん、デジタルを活用しています。
どんな技術があるんですか?
例えば、オートテスター機能を取り入れています。
手をかざすと自動で美容液が出てくるので、安心して試していただけるようになっています。
なるほど。
ほかにもオートサンプリングサービスといった、気分にあったサンプルを非接触でお渡しできるサービスもあります。
スマートフォンでQRコードを読み取ってもらい、いくつかの質問に答えていただくと香水などのサンプルが出てくるようになっています。
へぇ!
店舗にスタッフはいるんですが、対面での会話に抵抗があるお客さま向けに、メイクシミュレーターも設置しています。
デジタルを活用した店舗が増えると、実店舗で働く人の仕事はなくなっちゃうんですか?
化粧品って、感触や香り、色味など、実際のものを見てみないとどうしても分からない部分があります。
お客さま1人1人の嗜好にあわせてアドバイスをするのはやっぱり店頭に立っている美容部員の仕事です。
デジタル化が進んでもなくならない大事なところだと思います。
2つ目に「スポーツとサステナビリティ(=持続可能性)」を挙げていただきました。スポーツとお化粧ってあまり結びつかなかったんですが・・・。
「キレイ」を叶えられる商品の開発はもちろん、夢や感動を通じて明るく豊かな社会をつくることも化粧品業界の使命だと考えています。
そこで、フィギュアスケートやアーティスティックスイミングといった美に関わりのあるスポーツの支援を通して使命を実現できないかと考えています。
実際にどんな支援をしているんですか?
メイクアップアーティストが、演技の世界観を高めるメイクや競技中崩れにくいメイクなどを選手たちに直接指導します。
紀平梨花選手もその1人です。
サステナビリティというと環境問題をイメージすることが多いのですが。
環境保護にも力を入れています。容器にはCO2排出量を削減するため、バイオマスプラスチックを採用し、インクを使わない印刷加工も取り入れています。
入れ物が段ボールで作られているこの商品も、サステナビリティを意識したものなんですか?
鋭いですね。日本でのリサイクル率が90%以上と言われている段ボール素材を採用しているんです。
人のキレイをかなえることができる商品を作るだけでなく、地球にも貢献できたらいいなと考えこのニュースを選びました。
最後に「働きがいの創出」ですが、そもそも、このことを意識したきっかけというのは?
昔からダイバーシティ&インクルージョンというか、多様な能力を活かしててイキイキと働くという土台はあったような気がします。
また「みんなが活躍できる場所をつくろう」という社会全体の機運の高まりもあったのだと思います。
もともと働く環境に課題があったわけではないんですね。
昔は店舗での販売や接客に携わる美容部員の離職率が高い傾向でした。
そのため、美容部員たちがやりがいをもって長く働いてもらえるように改善に取り組んできたんです。
具体的には?
例えば、以前は美容部員のキャリアが、店頭での接客などをする販売職と美容部員の指導にあたる教育職に限定されていました。
しかし今では、活動領域を広げて営業になっている人もいるし、商品開発をしている人もいるし、海外で活躍をしている人もいます。
おととし10月には、こうしたキャリアパスをしっかりと制度化したんです。
現場の声を取り入れて実現したんですか?
現場からもっといろいろな仕事をしたいという声もありました。
生き生きと長く働き続けるための仕組みを制度化したいという会社の思いと一致したんです。
今は、出産を経験した美容部員のほとんどがが育児休業を取得し、その後、職場に復帰しています。
ちなみに女性ばかりのイメージがあるんですけど、男女比はどのくらいですか?
販売職は99%が女性ですが、総合職に限ってみれば実は半々ぐらいなんです。
驚かれる方も多いんですが、ジェンダーを問わず活躍できる会社だと思います。
化粧品の会社に入る人は、化粧品にすごく詳しいというイメージがあります。
どんな資格や技術がいるのかと聞かれますが、入社前の知識や技術は一切必要ありません。
入社後にイチから学ぶ研修があります。もちろんメイクも。
なるほど。
経験が豊富でないと、いろんな考えを持つお客さまの立場に寄り添って物事を考えることができないと思います。
学生時代は会社に入った後よりも、いろいろなことに挑戦できる機会や時間があると思います。
是非いろいろな人に接したり知らなかった話を聞いたりという経験を積んで、チャレンジしていただきたいです。
ありがとうございました。
編集 高杉北斗
カメラ 石川将也