2020年12月04日
(聞き手:伊藤七海 白賀エチエンヌ)
1か月の半分は東京を離れ、リモートワークをしながら田舎暮らしを楽しむ。最近、こんな働き方がテレビやネットで取り上げられているのを目にします。でも、実際は大変なことも多いのでは?東京と岩手のそれぞれで仕事を持つ「パラレルワーカー」、伊藤美希子さんにコロナ禍での日々の仕事や生活について聞きました。
まずは、伊藤さんのお仕事内容について教えてください。
東京と岩手のそれぞれで仕事をしています。
東京では企業のマーケティング支援の仕事をしています。例えば、商品やサービスを売り出すために広告を出したり、ウェブサイトを作ったりする戦略づくりとか。
今お手伝いさせてもらっているのは化粧品会社や、消費財メーカー、メディアや下着メーカーとかです。
へえ!幅広いんですね。
岩手では?
岩手県の住田町という小さな町で働いています。町の人や行政が「やりたい」と思っているプロジェクトを支援する団体に所属しているんです。
「こんなイベントやりたいんだ」っていうお話をいただいて、その推進をしたり、私たちから「こういう事やってみませんか」なんて提案をしたりしています。
伊藤美希子さん
1979年4月生まれ。東京工業大学大学院卒業後、朝日広告社などを経て、2016年、マーケティング会社「ベストインクラスプロデューサーズ」に入社。岩手県住田町の一般社団法人「邑サポート」にも所属。
今日はどちらにいらっしゃるんですか?
いまは、住田町にいます。窓から山が見えるかな?
見えます!見えます!
ああーいいですね!
住田町の支援に携わるようになったのはどうしてなんですか?
住田町:岩手県南部の山間部にある人口約5000人の町。東日本大震災後には基幹産業の林業を生かして木造の仮設住宅を建設。周辺の自治体から被災者を受け入れた。
東日本大震災の後、大学院時代の先輩が住田町で仮設住宅の支援に携わっていたんです。夏休み使ってお邪魔したのがきっかけで、そこから3か月に1回ぐらいずつ通うようになりました。
どんなことをされていたんですか?
ボランティアに来る方の受け入れ先を調整したり、仮設住宅に住んでいた方々がイベントを開くときのお手伝いをしたりしていました。
通いで支援を続けているなか、どうして住田町に拠点を設けたんですか?
2年ぐらい支援をしているなかで、いつかどこかに行ってしまう人だと思われていると感じたんです。
でも、私たちは住田町がすごく好きになっていたし、仮設だけじゃなくてもっと町自体に関わりたくて、2014年に住田町に法人を作りました。
それは「私たちはこれからも住田町に関わり続けるよ」という意思表明でもありました。
東京と岩手、どのくらい行ったり来たりしているんですか?
実は、新型コロナの感染拡大後は基本的には住田町にいます。2年前に同じく震災がきっかけで住田町に移住した人と結婚したんです。
へえ!
コロナの前は、10日間東京で5日間岩手、10日間東京5日間岩手という感じです。いまはあまり自由に移動できないので、さみしいです。
どちらかに拠点を固めようとは思わなかったんですか?
そうですね…。インプットって多い方がいいと思うんです。
どういうことですか?
2つの地域を行き来するだけでも違う社会や空間に身を置くので、インプットの量も種類も多くなります。自分の中の引き出しが増えていくはずだと思うんです。
私が住田町にどっぷりつかっているよりは、東京の仕事や人とのつながりをこの町に持ち込むことで、もっと貢献できると思ったんです。
中に詳しいけど外からの視点も持てる人、のような?
そうです!どちらかに100%いるよりは、おこがましいですけど、潤滑油みたいな形で2つの地域をつなぐことができればと思っています。
2重生活のデメリットってありますか?
実はあんまり感じていないんです。
そうなんですか!?
費用はもちろん、時間もかかるんです。住田町から大きな山を1つ越えて新幹線の駅まで車で行かなきゃいけないんですよ。
新幹線と合わせて片道5時間かかるんですよね。
でも、その時間が私にとって「これから東京に行くんだな」とか「あ、これから住田に行くんだな」みたいな、大事な時間になっているんです。
いいですね、切り替えの時間があるの。
はい。でも「5時間はかかりすぎだろ!」ってみんなきっと思ってる・・・(笑)
確かに・・・(笑)
今は住田町にいらっしゃるということですが、東京にいる時と働き方に違いはありますか?
今はなんでもオンラインで仕事できるので、あまり変わりません。朝からパソコンの前に座り、オンラインで会議をして夜までバーっと続く感じ。
ただ、仕事で疲れたら10分だけ川をぼ~っと眺めてます・・・。地方で仕事をしているとそういう豊かさを感じますね!
長いワーケーションをもらって岩手にいるみたいな感じかもしれませんね。
コロナの影響が広がる前後では働き方に違いはありますか?
以前のオンライン会議では、画面の向こうには何人か映っていて、私だけリモートだったんです。
でも、コロナの感染が広がって全員リモートになったから、打ち合わせが前よりしやすくなりました。
まわりが時代に乗ってきた・・・?
そうそう!(笑)1人1画面で話すから、誰がどこにいても、今はあんまり気にならないじゃないですか。
確かにそうですね。
そういう面では非常に働きやすくなりました。岩手にいるから引け目に感じるとか「みんなは東京にいるのに・・・」って思う事はなくなったかな。
コロナの影響で、リモートの仕事が広がりましたが、伊藤さんは、今後、働き方はどうなると思いますか?
今の働き方が続くのならば、地方で働くことと都市部で働くことの差は少しずつなくなってくるのかもしれません。
でも、やはり100%オンライン化は難しいのではないかと思っています。
どうしてそう思うんですか?
リモートって目的型ですよね。オンライン上で会うことや、話すことが目的だから、「ながら」ができない。例えば移動しながら何気ない話をするとかがない。
どういうことですか?
この前、友人と空港までドライブしたんですけど、途中に他愛もない会話をするんです。目的はあくまで「空港に行く」ことなんですけどね。
でも、ドライブしながら話したことが本当に楽しくて貴重な時間でした。オンラインだと会話すること自体が目的になるから、その辺りに差があると感じています。
「ながら」はリアルでしか得られないことなんだと思っています。
もう1つ、やっぱり空気が伝わりにくい。
リモートであんまり沈黙しないじゃないですか。対面の時は考えてる時間を待ってくれていたけど、それを許さないような雰囲気を感じます。
確かに、相づちとかも打ちにくい・・・。
リアルでしかできない事はあるし、リアルの価値は上がったと思います!皆さんとだってリアルで会えれば、すごく喜ばしい時間になると思いませんか?
そうですね!
そうやって、「ハレの日」のような形でリアルな対面が仕事の中でも使われていくかもしれないなと思います。
なんて格好つけてみたんですけど、私もやっぱり会いたいんです、みんなに(笑)