揺れが止まらない… 高層ビル・タワマンを襲う「長周期地震動」

東京・名古屋・大阪などの大都市で増え続ける超高層ビル、そしてタワーマンション。
その脅威となるのが「長周期地震動」という、長く大きな揺れだ。南海トラフ巨大地震では、最大の揺れ幅は6メートル、時間は10分以上続くという想定もある。
果たしてそのとき、あなたは何ができるだろうか。
目次
超高層ビルのレストランが
ビルの高層階のレストランで、机から弾き飛ばされる料理の皿やグラス。
部屋を動き回る机と椅子。
キャスター付きの配膳ワゴンはコントロールを失い、スタッフに襲いかかる。
柱や壁にしがみつかないと、人も弾き飛ばされてしまう。


これは、ドラマ「南海トラフ巨大地震」の1シーン。専門家の監修を元に、大阪の超高層ビルを襲う揺れを想定したものだ。
この揺れは、「長周期地震動」と呼ばれている。
建築の専門家の強い危機感
このドラマの監修をしたのが、名古屋大学名誉教授の福和伸夫さん。建物と揺れの関係を、長年研究している。
南海トラフ巨大地震が起きると、この「長周期地震動」による被害は想像を超えるものになると、危機感を強めている。

「高層ビルやタワーマンションは大きく揺れることになるでしょう。家具が飛ばされたり、エレベーターが止まって閉じ込められたりする被害が相次ぎ、建物の中にいる人は、たいへんな恐怖を感じることになると思います」
「長周期地震動」とは
「長周期地震動」は、読んで字のごとく「周期の長い」「地震動(揺れ)」のことを指す。
「周期」は、揺れが1往復するのにかかる時間だ。その「周期」によって、建物の揺れ方は大きく変わってくる。

最もよく経験する地震の揺れ、ガタガタとした揺れは、1秒より短い「短周期」とされる。
さらに、2階建ての木造住宅は、1秒から2秒程度の揺れで大きく揺れる。
これに対し、周期が2秒以上の長いものが「長周期」と呼ばれることが多く、高層の建物を大きく揺らす特徴がある。
「ビルが倒れるかと思った」東日本大震災で起きたこと
この「長周期地震動」による被害が相次いだのが、2011年に発生した東日本大震災だ。
震源から400キロ離れた東京・新宿の超高層ビルが、外にいる人にもわかるように大きく揺れた。
ビルが大きく揺れるという初めて見た映像は、多くの人を驚かせた。
さらに衝撃だったのが、このとき最も大きな揺れが記録されたビルが、震源地から770キロ離れた大阪にあったことだ。
高さ256メートル、大阪府の咲洲庁舎。揺れが10分以上続き、最上階の揺れ幅は最大で3メートル近くに達した。

東京や大阪の超高層ビルでは、建物が損傷し、エレベーターに長時間閉じ込められる人も相次いだ。
長周期地震動を体験した人は「ビルが倒れるかと思った」と恐怖を語っている。
南海トラフ巨大地震で6メートルの揺れも
東日本大震災が発生した際の「長周期地震動」は、確かに日本に大きな衝撃を与えた。
しかし、名古屋大学の福和さんは、この揺れを大きく上回る可能性があるのが、南海トラフ巨大地震だという。
東日本大震災のイメージで、「長周期地震動」の被害を想定するのは危険だというのだ。
福和さんも委員を務めた国の検討会は、2015年、南海トラフでマグニチュード9クラスの巨大地震が起きた場合の「長周期地震動」の想定を公表した。
高層ビルが立ち並ぶ東京・名古屋・大阪の三大都市圏では、沿岸部で揺れ幅は2~4メートルと、最大で東日本大震災のおよそ2倍に。
大阪の埋立地では、最大で6メートルに達するところもあるとしている。

さらに、東京・名古屋・大阪は、いずれも土砂が堆積した堆積層と呼ばれる軟らかい地盤によって揺れが増幅され、揺れが長時間続くおそれがある。
東日本大震災の発生時よりも、さらに大きく、長く揺れるおそれがあるのだ。
「南海トラフ地震は、東北沖の地震よりも、長周期の揺れを多く出すと考えられています。東京のある関東平野は西からの揺れが伝わりやすい特徴もあり、都内では東日本大震災の時よりも高層ビルは大きく揺れるおそれがあります。さらに、大阪は震源域が非常に近いため、より深刻な事態が起きると考えた方が良い」
命を守るために、どうするか?
それでは、長周期地震動から命を守るためには、どうすればいいのか。
福和さんが考える「平時からの対策」と「揺れた時の対策」をまとめた。
<平時からの対策>
✅棚などの家具をしっかり固定/キャスターにはストッパーをかける
✅可能なら壁や廊下に手すりを設置
✅けが人を地上まで運ぶ道具を用意し、搬送の訓練をしておく
<揺れた時の対策>
✅揺れが小さいうちにエレベーターホールや廊下など家具のない場所に逃げる
✅揺れで飛ばされてケガをしないように姿勢を低くし、手すりなどにつかまる
✅家具がぶつかって割れる可能性がある窓から離れる
✅机の下にもぐるときは、脚をしっかりおさえる
✅あわてて非常階段を使わない。人が殺到すると事故が起きる

「大事なことは『けがをしない』ことです。高層ビルではエレベーターが止まる可能性が高く、けがをしてしまうと、1階まで降りるのは非常に困難になる。平時からの備えに加えて、長周期地震動に襲われると、だんだん揺れが強くなることを頭に入れ、冷静に動けるようにしておくことが大切です」
エレベーターの閉じ込め対策を
さらに福和さんは、2023年2月から始まった情報も生かすことができると指摘する。「長周期地震動」が追加された「緊急地震速報」だ。
現在、気象庁は、長周期地震動の揺れの強さを、階級1~4の4段階で評価している。
このうち、立っているのが困難な「階級3」、はわないと移動ができない「階級4」の発生が予想された場合に、緊急地震速報で警戒を呼びかけることになった。

福和さんは、この速報を、身を守る行動だけでなく、エレベーターへの閉じ込めを防ぐことにも生かしてほしいという。
「エレベーターの多くは揺れを感知して止まる仕組みですが、それでは遅いことが多い。ただ、緊急地震速報は揺れる前に出るので、情報を受けてすぐにボタンを押せば、揺れの到達前に最寄りの階で降りられる可能性が高まります。閉じ込めにあえば、長時間助けが来ない可能性があり、情報を受け取ったらとにかくボタンを押すことが大切です。今後は、緊急地震速報が出た時に自動で止まるエレベーターも普及させていく必要があります」
関係ない人は、いない
国土交通省によると、高さ60メートルを超える超高層ビルは全国に数千棟ある。
その数は増え続け、自宅やオフィスが、高層ビルにあるという人も多い。
さらにショッピングや食事、観光などで高層ビルを利用する機会がある人もいるだろう。
「長周期地震動」の被害を減らすためにどうするのか。そして、いざ揺れに遭遇したときに、どう命を守るのか。
今から考えておいてほしい。
社会部記者 津村浩司 / 大阪放送局記者 藤島新也
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