2021年03月12日
(聞き手:西澤沙奈 小野口愛梨 本間遥)
ハンドソープや歯みがきなど、私たちの生活習慣を支える製品を世の中に送り出す生活用品メーカー。いま、業界全体の課題になっているのが、製品の製造に欠かせないプラスチック削減です。“脱プラ”をめぐる最新動向は?「ライオン」の人事担当者に聞きました。
よろしくお願いします。洗剤などを作っているイメージがあるんですが、具体的にどんなお仕事をされているんですか?
ハミガキ・ハブラシ、ハンドソープ、衣料用洗剤を中心とした日用品の製造販売を主な事業内容としています。
ただ単に商品をつくるだけでなく、より良い生活習慣をつくっていく仕事と理解していただけるといいと思います。
売り上げに特徴はあるんですか?
オーラルケア製品に関しては国内トップシェアです。
そうなんですね。
そういった生活習慣を作る製品はリピート購入が多いイメージがあります。消費者に愛用してもらえる秘訣はなんですか?
オーラルケアは、昔からただ売るのではなく「習慣」を提案をしています。その取り組みの1つが「全国小学生歯みがき大会」です。
歯みがき大会ですか?
70年以上の歴史のある大会で、大きな会場に小学生を集めてブラッシングを指導しながら歯みがきの習慣を作っていくようなイベントです。
近年はDVD教材を各学校で視聴する形式に変更し、国内の小学校はもちろん海外からも参加ができる大会になっています。
海外事業も多いんですか?
海外はアジアを中心に展開をしています。
海外でも身近なところに製品があるんですね。
地域ごとにお客様のニーズや趣向に合わせた製品を展開しています。衣料用洗剤では、日本や韓国は液体洗剤が主流です。
東南アジアは水温が高く粉の洗剤でも溶け残りの心配がありません。一方で汚れの質が日本とは異なるので、それに合わせた製品を開発しています。
スコールが多い地域では、日本で開発した部屋干し洗剤の開発技術も生かされています。
国や地域によってニーズが違うんですね。
日本では洗剤などであまり強い香りを好まないのですが、東南アジアでは香りの好みも違うので、地域ごとに工夫をしています。
香りって大事なんですね・・・。
1つめのニュースにSDGsを選んでいただきました。
ライオンはオーラルケアのテーマに「いつでもどこでも誰でも適切なオーラルケアが実現できること」を掲げていますが、身近な研究以外にもいろいろやっています。
JAXA=宇宙航空研究開発機構が国際宇宙ステーションに持っていく生活用品を募集していて、私たちは「すすぎのいらないハミガキ」を研究中です。
へー!
水不足の地域でも使えるように開発していたのですが、宇宙ステーションも水の節約が不可欠な環境なので必要とされるんだと思います。
むし歯を予防するために、フッ素が口の中に滞留するような技術を使うなど、ハミガキの口残り感が少なくなる組成を開発しています。
宇宙につながる研究もあるんですね、意外です。
水不足で悩んでいるような地域のみなさんも、すすぎをしなくていいのなら使うことができますよね。
災害も多く発生しています。
災害時は水は貴重ですし、避難所での生活を余儀なくされる場面でもすすぎをせずに歯が磨けることは、非常に有用だと感じています。
プラスチックをどう削減するかも課題になっています。
海洋プラスチックごみの問題は皆さんご存じだと思いますが、ライオンの製品にも多くのプラスチックが使われていますので、削減に取り組んでいます。
プラスチックごみ問題
世界では毎年約800万トンのプラスチックがごみとして海に流れ出ていると推計されている。生態系を含めた海洋環境の悪化が懸念されていて、業界全体でプラスチック使用量をいかに削減するかが課題になっている。
具体的にどんなことをしているんですか?
取り組みの1つが歯ブラシのリサイクルです。小学校や役場でハブラシを回収してもらい、集めた歯ブラシを植木鉢に再生しています。
2015年の開始から2021年1月末までに約78万5千本を回収しました。
だいぶ多いんですね。
また、洗剤などのつめかえ製品のフィルム容器は同業他社と協働し、もう一度フィルム容器として再生できないかと研究を進めています。
プラスチックごみ削減
ライオンは日用品大手の花王と詰め替え容器を回収し、同じ容器を再生産するリサイクル技術の開発に共同で乗り出している。2025年をめどに、使用済みの容器を回収してリサイクルする仕組み作りを目指す。
ライバル関係だと思っていました。
SDGsは単一企業どころかその一業界だけでも解決できるような課題ではなく、社会全体を巻き込んだ活動にしていく必要があると思います。
技術のお話がありましたが、フィルム容器のリサイクルは難しいんでしょうか?
つめかえ用のフィルム容器は、単一の素材で作られるペットボトルと違って複数の素材が貼り合わせてあるためリサイクルが難しいのです。
そこで、同業他社や大学などの研究機関と協力しながら、リサイクル後も容器の質を保つための研究に乗り出しています。
2つ目に新しい生活様式を選んだ理由を教えてください。
緊急事態宣言以降、在宅勤務が多くなりました、みなさんも大学の授業や就活をオンラインですることが増えたと思います。
これに伴って顧客の消費行動も大きく変化をしてきています。
日用品メーカーでは、どんな変化があるんですか。
例えば「巣ごもり」という言葉がありますよね。
家の中で過ごす時間が増えたことで、生活の中での清潔に対する意識もおそらく以前より高まったと分析しています。
こうした暮らしの変化をとらえながらできるだけ快適に過ごせるように支えるのも、私たちの使命であると思っています。
商品の売り上げにも変化は現れたんでしょうか?
一番需要があったのはハンドソープです。
自宅で食事をつくる機会が増加して、台所用洗剤やクッキングシート、さらにトイレやお風呂など住居用洗剤も好調です。
巣ごもりもあって、やっぱり通販の売り上げって増えているんですか?
そうですね。いま、リアルな店舗とeコマースのマーケットの両方にきちんと商品を提供するのが大事な戦略になっています。
ネット通販の場合は、「指名買い」が多いんです。
指名買いですか?
ネット通販では、リアルの店舗と違って隣の商品と見比べて買うというよりは商品名で検索して買うことが多いのです。
私たちは、商品を気に入っていただき、指名買いをしてもらえるように努力をしています。
コロナは経済的な損失が大きいイメージですが、日用品業界は売り上げが伸びているんでしょうか?
売り上げは好調ですが、世界の状況を見ると手放しで喜べるものではないと思っています。
私たちの使命は「供給責任」を全力で果たし、衛生習慣の定着に向けての情報や製品をお届けし、安心な生活に貢献することだと思っています。
最後のニュースは「副業」ですが、国内の企業はあまり副業を認めているイメージはないんですが・・・。
ライオンでは多彩な能力を最大限発揮できる企業を目指して働き方改革を進めています。その一環として、去年から「副業」を申告制にしたんです。
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きっかけはあったんでしょうか?
自分たちの閉じ籠もった世界の中の発想だけでは、これから変化の大きな時代には太刀打ちできないという発想からスタートしています。
社員が副業を行う事で刺激を受けて、新しいアイデアにつながることを期待しています。
また、外部から副業の受け入れもしているんですよ。
狙いはなんだったんでしょうか?
外部の方に副業先として来てもらうことで、私たちが持っていないノウハウを発揮してもらい、新しいビジネスを生み出してもらうのが狙いです。
実際に8名の方が副業先としてライオンで働いていただいています。
いろいろなメリットがありそうですね。
会社の中にいると内部情報に偏りがちになります。
外部の視点で私たちの仕事のしかたを「こうしたほうがいいんじゃないか」と提案をいただく機会になり、メリットは非常に大きいですね。
副業の制度を導入されてから、実際にどんな新規事業が生まれたんですか?
スタートしたばかりなので、具体的な形としてはまだ皆さんにご紹介できませんが
今後に期待をしていただきたいと思っています。
最後に就活生へのメッセージをお願いします。
いろいろな業界を見たりいろいろな会社の話を直接、聞いたりできるという点では、就職活動を行っている期間は絶好の機会になります。
学生やユーザーの視点から、いろいろな発見ができると思うので、自分の価値観にどれだけ合うかを見極めながら会社選びをして欲しいです。
大学で学んでいる研究や学問が事業と直結しなくてもいいんでしょうか?
学生として勉強していることは、絶対に無駄にならないし、直結しなくても仕事の中で生かせる場面もあると思います。
「この会社だったら自分の専門性がこう生かせそうだな」とか「この会社で仕事をするとこんな可能性が自分には出てくるんじゃないか」
そうやって、キャリアパスをイメージすることは大事だと思います。
ありがとうございました!
編集:高杉北斗
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