2021年03月04日
(聞き手:石川将也 白賀エチエンヌ)
学生ならきっと一度は利用したことがあるファストフード。外食業界が新型コロナウイルスの影響を受ける中、幅広い客層から利用されました。多種多様な顧客のニーズに応え続けるとはどういうことなのか。マストなニュース3本から探りました。
よろしくお願いします。私はヘビーユーザーなんですが、店舗の数はどのくらいあるんですか?
いま国内には約2900店舗あるんですけど、世界では約100の国と地域で展開していて、約3万9000店舗あるんです。
3万9000店もあるんですか!
学生でも食べられる手ごろな価格設定だと思うんですが、どんな工夫をしているんですか?
ビジネスの規模が大きいところに起因していると思います。
国ごとに法人があって別会社ではあるんですが、世界のマクドナルドで基本的には経営に必要な資源、原材料や経営ノウハウ、教育システムなどを全部共有しています。
原材料をたくさん発注すれば抑えた価格で商品を提供できますよね。
規模がカギなんですね。マクドナルドはフランチャイズチェーンだと思いますが、そもそもどんな仕組みなんでしょう?
経営権を委譲するやり方です。フランチャイズ契約を結んだ相手(フランチャイジー)に、売上に応じて何%かの料金(ロイヤリティ)を私たち(フランチャイザー)に納めてもらう仕組みです。
レストランビジネスでは、この形態を取っているところがすごく多いです。他の業態だとコンビニなどもそうですね。
なるほど。
国内約2900店舗のうち約7割がフランチャイズ法人が運営する店舗で、残りが直営店です。全国で200近くのフランチャイズ法人があります。
フランチャイズ店が多いんですね。
私たち日本マクドナルドも、アメリカの会社から日本国内の経営権を委託されている立場で、さらに国内のフランチャイズ法人さんに経営権を委託する形で運営しているんです。
コロナ禍の外食業界
去年1年間の売り上げ(前年比)
▼パブ・居酒屋・・マイナス49.5%
▼ファミレス・・マイナス22.4%
▼洋風ファストフード・・プラス5.5%
※日本フードサービス協会まとめ
ワタミが約120店の居酒屋を焼き肉店に転換すると発表したほか、すかいらーくホールディングスが約200店舗を閉店すると表明するなど、新型コロナの影響が広がっている。一方、ハンバーガーチェーンなど洋食のファストフードは持ち帰り需要が好調で、日本マクドナルドホールディングスの2020年12月期の決算は、本業のもうけを示す営業利益が312億円と過去最高だった。
1つ目のニュースですが、東京などで出ている緊急事態宣言をあげて頂きました。
緊急事態宣言で私たちの生活スタイルは激変しました。
移動も自粛しないといけないですし、緊急事態宣言が転換点になったのかなということで選びました。
外食業界にも影響が出ていますよね。
外食業界全体として大きな打撃を受けています。
飲食店に対する制限がかなりあり、先が見通せないような状況の中、我々は誰のために何を提供すべきなのかを改めて問い直されたと思います。
このような状況でも、マクドナルドが大切にしている「いつでも最高のお食事体験を提供する」を実現するにはどうしたらいいかを、日々自分たちに問いかけています。
問い直した結果、ファストフードのあり方ってどういうものですか?
ファストフード業界は幅広い層のお客様が大勢いらっしゃるビジネスです。
多様なお客様一人ひとりのニーズをしっかりとくみ取って、それに対して何ができるのかを考えて応えていくことが重要だとすごく感じました。
緊急事態宣言による影響はどんなものがありますか?
お客様の店内利用が圧倒的に少なくなりました。
マクドナルドには、客席を利用して食べるイートイン、テイクアウト、ドライブスルー、それにデリバリーサービスやモバイルオーダーなど、さまざまな販売チャネルがあります。
モバイルオーダーは、スマホで事前に注文して、あとでお店に取りに行く仕組みで、去年から全国で導入していました。
緊急事態宣言下では、人との接触を極力抑えられるドライブスルーとデリバリー、モバイルオーダーがすごく伸びました。
ファストフード業界全体を見ても、デリバリーなどは増えたんですか?
もちろんです。販売チャネルの多様化がこの状況下における業績の別れ目になりました。
ファストフードはテイクアウトを実施されているところが多く、テイクアウトの需要がググっと伸びています。
外食業界をみますと客席利用だけのビジネスもありますが、そういうところは打撃が大きかったと伺っています。
緊急事態宣言や新型コロナによって変わったことはありますか?
コロナ禍ではお客様の安全・安心や衛生に関する意識がすごく高まったと思います。
私たちは食を提供する会社ですので、安全・安心でおいしい商品の提供は絶対に外せません。
従来行ってきた衛生管理に加えて、いまお客様が求めている基準にあわせて、アルコール消毒剤を置く場所も増やすなど対策を強化しています。
次のニュースはニューノーマルな働き方ですが、緊急事態宣言で働き方にも影響があったんですよね?
はい。店舗のスタッフは、働き方は大きくは変わりませんが、一般的に本社と言われるところで働くオフィススタッフは、移動の自粛で在宅勤務を推進していく必要がありました。
そもそもですが、ファストフード業界の本社のスタッフって、具体的にどんな仕事をしているんですか?
各専門分野に分かれて店舗運営をサポートしています。例えば、マーケティングやサプライチェーン、それから私のような人事などがオフィススタッフの仕事です。
ファストフードのマーケティングって、どんなことをしているんですか?
幅広い層のお客様のニーズに合うものを展開する必要があるので、ファミリー層、ヤング層、アダルト層というようにセグメントを分けて、ニーズを分析して新しい商品を生み出しています。
例えば、ファミリーのお客様だったらお子様向けにおもちゃがついてくるハッピーセットというメニューがありますよね。
あれもマーケティングで生まれたんですね。
在宅勤務に切り替えるのは難しくなかったですか?
実は制度自体はコロナ前からありました。ただ、そんなに浸透していなかったんです。
会議は対面がいいと思っていましたが、オンライン会議の機能が優れているので、あまり不便さを感じなくなっています。
在宅勤務にしてよかったことはありますか?
私たちもやりながら気付いたんですが、在宅勤務にもけっこうメリットがあります。
例えば人材育成のための研修のうち、指定の場所に集合してグループで学ぶ研修はすべてオンラインになりました。移動の負担なく参加できるので、遠方で働いている方にとってはメリットが大きいです。
自分で教材などを使って勉強するセルフスタディー形式は、タブレットやパソコンなど、今のテクノロジーを活用していく方が実は効率的ですよね。
確かに。
だからeラーニングのように、ニューノーマルな働き方で良かったと思えることは、そのまま継続していこうと思っています。
逆に在宅勤務でやりにくくなったことはありますか?
仕事をしながら実践形式で学ぶ「オンザジョブトレーニング」です。
ただ仕事しているだけでは伸びないので、誰かから適宜フィードバックをしてもらわないといけません。
自分の仕事ぶりを実際に見てもらって、コーチとなる方からの「こういうところがよかったよ」というフィードバックは、すぐにあるのが一番いいんですけどオンラインだと難しいですね。
Black Lives Matter 運動
2020年5月にアメリカで黒人男性が白人の警察官に首を押さえつけられ、その後、死亡した事件を受け、全米、そして全世界に広がった人種差別に対する抗議デモ。
なぜBlack Lives Matter運動を選ばれたんですか?
ダイバーシティー・アンド・インクルージョン(diversity and inclusion)をきちんとやらないといけないという思いを強くしたからです。
どういうことでしょう?
ダイバーシティーとは、人口比率的にいろんな人がいる状態です。
インクルージョンは、その多様性を持った人たちのそれぞれの強みを活かしたり、みんながアイデアをぶつけ合ってソリューションを見つけだしたりしていくことです。
これは本当に重要なことで、特にインクルージョンが推進されないとダメなんだと思いました。
なぜそう思われたんですか?
アメリカはダイバーシティーがもともとある印象でした。でも、いるのに差別される、受け入れてもらえないという状況があるのがショックでした。
そうですよね。
アメリカで起きたことが発端ですが、日本はどうなのかと考えさせられました。
ダイバーシティーはさまざまな課題がありますが、なかでもジェンダーダイバーシティーは日本の企業全体の課題だと思います。
店舗に行くとさまざまな人が働いているように感じますが。
はい。店舗で働くスタッフは、性別や年齢、国籍など、非常に多様性に富んでいます。
でも正社員だけを見ると女性の比率は約30%で、外国人は10%に満たないくらいです。なかでも女性の比率は、入社の段階では約50%ですが、職位が上がるにつれて低くなっているのが現状です。
だいぶ、比率が下がるんですね。
その原因は、例えば、結婚や出産をして長く働き続けられる環境ではないことが考えられます。
ただ単に女性の比率が上がればいいとうわけではなく、ちゃんと女性が長く働き続け、活躍し続けられる制度など、よりインクルージョンにフォーカスしていく必要があるということです。
インクルージョンを強化するためにしていることはありますか?
全ての人に門戸を開くという意味の「オープンドア!チーム」というのができました。このチームが中心になって、どんな制度が必要かなどを考えています。
具体的に取り入れた制度はありますか?
テスト段階なんですが、例えば時間を限定して働くような制度を取り入れようとしています。
マクドナルドの店舗は長い時間営業しているので、夜遅くまで働くこともありますが、子育て中だとそこがネックになってしまい、仕事を継続し活躍する上での負担になることもあるんです。
ですから、例えば正社員でも9時から16時など、時間を限定して働けるような制度を取り入れようかと考えています。
ダイバーシティー・アンド・インクルージョンのような社会課題に取り組むことは、やはり企業として大事ですか?
社会課題というより、強い組織をつくり継続的にビジネスを成長させるための経営課題として、ダイバーシティー・アンド・インクルージョンに取り組んでいます。
しかし、企業活動をする場合、CSR、コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティー(企業の社会的責任)を必ず果たさなければいけないと思います。
どんなことをされているんですか?
例えばハッピーセットのおもちゃは大部分がプラスチックですが、集めたけど飽きて捨てることもあると思います。そうすると環境問題になります。
なので、2018年からおもちゃのリサイクルに取り組んでいて、回収したおもちゃから店舗で使うトレイを再生しています。
へぇ~。
こういう取り組みを始めたら、お客様の数が多い分、みんなの環境問題に対する意識が高まる可能性がありますよね。
規模が大きい会社の強みをいかして社会問題にも取り組んでいくという姿勢が大事だと思います。
最後に、就活を控えている学生にメッセージをお願いできますか?
社会人になるということは、お客様を持ち、そのお客様に対して価値を提供することで社会に貢献することだと思っています。
外食業界で働くということは、自分がお客様として受けていた価値を提供する側になるということです。
自己分析とか、あまり難しく考えるのではなく、社会に貢献するためにどういうことをしたいのかを考えて、そのなかで自分に合う会社はどこかを探していくのがいいと思います。
ありがとうございました。
編集:小宮理沙 撮影:伊藤七海
あわせてごらんください
先輩のニュース活用術
教えて先輩! 慶應SFC教授・ヤフーCSO 安宅和人さん(3) 若者はどう生きる?
2021年02月05日