教えて先輩! 慶應SFC教授・ヤフーCSO 安宅和人さん(3)

若者はどう生きる?

2021年02月05日
(聞き手:伊藤 七海 西澤 沙奈)

「シン・ニホン」著者の、慶應大学SFC教授でヤフーCSOの安宅和人さん。「データ×AI」の時代に企業に勤める社会人、就活を控えた学生はどうすればいいかを聞いたところ、返ってきた答えは…「就活はしなくていい」。そのことばに込められた安宅さんの想いとは?

今、ここで跳べ

僕、大学のころ道を歩いてて警察によくつかまったんです、「お前怪しい」って、カバンとか全部開けられて。

安宅さん

大学のころもよく「お前は絶対普通の社会人にはなれない」って言われていて、大丈夫なるつもりないからって(笑)

学生
伊藤

えっ?

安宅和人さん

慶應義塾大学 環境情報学部教授/ヤフーCSO(最高戦略責任者)

東京大学で生物化学を専攻。修士号取得後、マッキンゼー入社。イェール大学 脳神経科学PhD。2008年よりヤフー。戦略全般を担当。データサイエンティスト協会創立メンバー、理事。データ×AI時代での変革をテーマにした政府委員を多く務める。

東京に来た時、東京駅の丸の内側に降りた時の風景は一生忘れないと思う。

僕は言ってみれば、古くからの漁村みたいな場所で育ったんですけど、魚市場で並んでいる死んだ魚の眼をしてる人が妙にたくさん歩いてるって思いました。

若かった僕にはけっこう絶望的な風景で、絶対僕はこういう人生は送らないと、18、19歳で思いました。

取材はオンラインで行いました。

こんな風になるために僕は生まれてきたんじゃないってことを確信したんです。

学生
西澤

とはいえ、日本で今大企業を担っている人たちって、安宅さんが今おっしゃったような人たちが大半だと思うんですけれど。

そう思います。今から考えてみれば、それほどひどくなかったのではと思うのですが、当時僕の目にはそのように映ったのは確かです。

僕は現在52歳なんですけど、相手も自分も、僕のほうがずっと若いと思って話していて、気づいたら僕のほうが年上ってことけっこう珍しくないんです。

僕から見るとみんなすごいシニアに見えるわけです。

彼らから見ると僕がずいぶんと若く見えることになるわけですが・・・あれは苦労の量というより、心を殺した量の大きさだと思います。

そういった人たちに対して安宅さんから何かアドバイスあったりしますか。

もう今ここで跳べ

「ここがロドスだ ここで跳べ」っていう有名な言葉があるんですけれども、落合陽一さんと対談した時、「ここが日本だ ここで跳べ」って彼が言ったんです。本当にそのとおりだと思います。

ガタガタ言わずやろうよと思いますね。

おー。

大企業に就職した人は「自らの力で仕掛けて未来を変えよう」というのは自分たちの仕事ではないと思っている人が多いので、彼らに跳べっていうのは一見、無茶がある。

けど大企業や官僚組織、そこで働く人には「聖なる義務」があるというのが僕の見解、「ノーブレスオブリージュ(高貴な者の義務)」です。

恵まれた者たちにはこの社会の未来の卵を生み出す、その役割が期待されていると僕は思うのです。その貢献こそが聖なる義務であると。

貢献ですね。

はい。(大企業にいる)そういう皆さんは大きな社会的信用を持っているわけですから、もっと仕掛ける側に回るべきです。

次世代の事業や企業を生み出せない大企業は、大企業の役割を果たしていない。

でも、何かをやりたいという気持ちがない人は支えようがないんです。

だから、これは本当にやりたいっていうものを持ってるか持ってないかはめちゃくちゃ大事

就活なんてしなくていい

それで就活して、会社に入って自分の仕事にスキルを使っていくことが大事だとお考えですか。

いやそんな熱心に就活なんてしなくていいと思う。

大学の研究室では「就活するな」が教えだから(笑)

へー!

あの、理由は?

もちろん、働く場所を見つけることをやめろという意味ではありませんし、仕事をするなという意味でもありません。

僕は就活に大量に励んでいた人の中から偉大な人が出てきたことを見たことがないです。

就活して何もできなくなる暇があったら独自の価値を磨くべし、ということです。

実際には就活してる学生が大半だと思うんですけど…

だから普通の人で終わっちゃうんじゃないのでしょうか。

もうミニマムでいいよ、そこまでやらなくていい。

誘われたり、頼まれて入るくらいがちょうどいいんですよ会社って。

そんな人材になるには・・・

そんな人材になるために情熱を傾けるべきです。大学っていう貴重な4年間は。

そこでどこまで貫けられるかが人生の未来のポテンシャルを劇的に変えてしまう

それで足りないんだったら大学院でも行って、モラトリアムを若干伸ばしたらいいと思う。

ここで自分らしいとんがりなり自分らしい面白さを育てられなかったら、社会人になっても普通は育たないですよ。会社ってのは巨大なマシーンなので。

逆に会社入ったら環境変わりますよね。

その環境で新しく自分の得意なことが見つかるってことはないんですか?

ありえます。

ただ、何か見つかるかもしれないけど、その道でプロになるまで、その仕事や部門に居続けられるかどうかは半ば運です。

どんなに自分で適性が高いと思っても、そう評価されるとは限らない。異動も起きうる。

そこまで自分を伸ばさずにやってきた人が、就活みたいながんじがらめに自分をぶち込んでも、そう簡単に得意なことを軸にした未来は生まれない

会社は大学よりも自由度がゼロに近づく場所です。自由な時間がまずなくなるし、最初の4、5年とかはね。

役に立つ人間として成り立ち、認められるまでに相当の努力が必要なことが普通でしょう。

そうやって必死にもがいている時に「自分が何か」に気付くっていう可能性はもちろんないわけではないですが、気づくとしたら僥倖と言わざるを得ない。

だとすれば、自分のユニークネスだとか、どうやって一人前に、一流になるのかを最初から考え続けなきゃいけない

どうしても小さい時から人と違わないように教育されてきた気がするんです。

いきなり他人と違うように生きようっていう思考になるのはけっこう難しいかなと思ってしまうんですけど・・・

だったら無理しなくていい。諦めるのは自由だから。

人のせいにしてそれで自分自身として生きる道を捨てるのだったら、別にそれもいいと思います。

一見楽な道を歩く事ができるけど、その結果自分を殺す事になっちゃう。

そうですよね・・・。

皆さんあと80年人生あるわけです。

絶対仕掛けていったほうが楽しいよ、人生は。

「〇〇をやれ」って人が言うことをやってる人と、自分がやりたいことやってる人とどっちが楽しいかって、研究するまでもなく明らかに差があると思いますね。

人と比較できない人生を

まだ組織に入る前の大学生にはのメッセージはありますか。

いっぱいある(笑)

聖書に「狭き門から入れ」という有名な言葉があります。

これはほとんどの人に誤解されているのですが、難関の試験を目指せというような教えではありません。

正しくは多くの人が目指す道には進むな、自分なりの命に至る門を見い出せという教えなんです。

つまり、みんなが就活ばかりしてたら、就活ばかりするのはやめろなんです。

何でも人と同じ軸で考え、人がやっている延長でばかり頑張ろうとする「偏差値的発想」が危険なのです。

そうじゃない全く別の軸に飛び移らなければいけない

人と比較できないような人生を送ることが幸せへの道なんですよ。

はい。

ただし、人と口を聞いてもらえる程度の武器を1つは持たないと自由になれない

何かで一人前か一流にならないと自由になる道のかけらもないんで、ガタガタ言わず武器を持つことを強く推奨したいです。

武器を持つことについてはなるべく早く、あまり多くの人がやらない謎めいたものがよくて、なんでもいいんですよ。

例えば日本刀磨きでも、土づくりでもなんでもいいんです。

圧倒的に熱中できて、普通の人が群がってないものを見つけるのはすごく重要

そうなんですね。

はい。まあ人生長いし、あんまり焦らなくていいんで、変に決まったレールに乗ることを避けてください

そうすれば、きっと何かご縁が生まれて道がひらけます。

あとマクロ的に言えば日本は泥船状態であることは否定しづらくて、このままではいつか沈んでしまうという、けっこう強めのトレンドが働いています。

僕はいい歳なんでこの国が泥舟化して沈んでしまうのをくい止めようとしています。

けど、皆さんのような若い人たちはあんまりそういうこと(国全体を主語とした社会変革そのもの)に時間を割かないほうがいい。

皆さんはとにかくいい仕事をして、一流、一人前になることが重大です。

はい。

そうしないと発言力も自由も持てなくなっちゃう。逆に力さえあれば何だってできるんですけど、ないと何もできない

なんとか35歳、遅くとも40歳くらいまでに1つ頭を突き抜けられるように頑張る

40歳くらいまでにですね。

はい。皆さんの世代において終身雇用なるものが消え去るのはほぼ100%確実なので、本物の生命体として強く生きなきゃいけない。

できるかぎり独自性をいかし、競争しなくて幸せに生きれる空間を見つける事が本当に重要です。

若い力を見くびらない

皆さん、若い人たちひとりひとりは驚くほどのポテンシャルがあるんで、本気でやってることは5割くらいできちゃうんです。

そんなに自分の力を見くびらないほうがいいです。

見くびらないって・・・

君たちは血が流れており生きているということを信じよって思います。

会社に行くことをやめろって言ってるんじゃないんだけど、それで人生の全部だと思ったらまずいと思う。

目先の特定の仕事から得られるものは人生で最大3分の1

人生の中では出会いがいっぱいあって、そこから気づいたり、思う事はいっぱいあります。本や映画もいっぱいあるし。

仕事以外もたくさんありますもんね。

若い時に感じたことって一生にわたって影響を与えるという意味で、ほんとプライスレスなんです。

とにかく何かに属したら誰かが自分を守ってくれるっていう感覚を一日でも早く捨てること。

多分これから来る未来はライフアズバリュー(Life as Value)

自分らしく生きていること自体が価値になる社会に今向かっています。

自分の生きていることが価値になる、そんな方向に人生を向かわせたほうがいいんじゃないかなと。

すごく刺激的でした。ありがとうございました!

仕掛けていける人間になりたいと思います。ありがとうございました!

予定時間を大幅にオーバーして熱いお話をしてくださいました。

編集:加藤陽平

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