“日本一のいちごのまち”でいちごの盗難が相次いでいる。
どれくらいの被害が出ているのか、実は警察も把握できていないというのです。
なぜなのでしょうか。
取材してみると、いちご農家の事情があることがわかってきました。
(宇都宮局記者 宝満智之)
2021年4月15日事件
“日本一のいちごのまち”でいちごの盗難が相次いでいる。
どれくらいの被害が出ているのか、実は警察も把握できていないというのです。
なぜなのでしょうか。
取材してみると、いちご農家の事情があることがわかってきました。
(宇都宮局記者 宝満智之)
栃木県は半世紀にわたっていちごの生産量が日本一です。
中でも南東部の真岡市は年間およそ70億円の産出額を誇り、全国で1位。
(真岡市まとめ)
“日本一のいちごのまち”としてPRしています。
そのいちごのまちで盗難が相次いでいる。
どれくらい起きているのか聞いてみようと地元の真岡警察署を訪ねましたが、課長からは意外な言葉が返ってきました。
「いちごが盗まれたという話が聞こえてきても、どのくらいの規模で盗難が起きているのか実態がなかなか見えてこないんです…」
警察に聞けば色々と分かるだろうと甘く考えていたため、すぐに取材が行き詰まってしまいました。
それならば自分たちで実態をつかむことはできないか。
デスクに相談して農家にアンケートをとることにしました。
アンケート用紙は次のようにしました。
地元のJAによると真岡市内にいちご農家は400軒あまりあります。
アンケート用紙の配布には市内に数か所あるいちごの集積場を使わせてもらいました。
農家がいちごを届けに来る場所で、各農家のレターボックスがあるそうです。
これならアンケートが農家の皆さんの目に触れやすいということで、JAの担当者にお願いして配ってもらいました。
アンケ-トは10日間ほどの期間で実施し、123軒の農家が回答を寄せてくれました。
アンケートの結果はこうでした。
➀過去に盗難被害にあった 24%(29軒)
➁盗難被害の頻度(29軒のうち)
・「めったに被害にあわない」52%(15軒)
・「年複数回」24%(7軒)
・「2~3年に1回」21%(6軒)
・「年1回程度」3%(1軒)
警察も把握できていなかったいちご盗難の全容。
およそ4軒に1軒が過去に被害にあっていたことがわかりました。
自由記述には農家からの悲痛な声が寄せられました。
「いちご狩り感覚で罪悪感は無いと思われる。おやつ感覚か」
「いちごだけでなく、ハウスのビニールや資材の被害も大きい」
「苗づくりから1年以上かけてやっと収穫という時に盗難。ガックリくる。(犯人には)自分がやられたときのことを考えて、1歩踏みとどまって欲しい」
中にはおよそ50万円の被害にあったという農家もいました。
皆川康宏さんです。
皆川さん
「全長100メートルのハウス4棟から収穫目前のいちごがひとつ残らず無くなっていました。手塩にかけたいちごを盗まれるのは精神的にもきついです」
何か盗難対策は取れないのか聞くと「限界がある」と教えてくれました。
いちごは日光を受けながら、温度管理が可能な農業用ハウスの中で栽培されます。
このため施錠してもビニールを破れば簡単に中に入られてしまいます。
そうなると温度管理がうまくいかなくなり、いちご全体がだめになってしまうのだそうです。
皆川さん
「防犯カメラを設置して見回りもしていますが、25棟のハウスを個人の力だけで守るのは難しいです」
アンケートをとって一番驚いたのは次の数字でした。
盗まれたが警察に相談したことも、被害届を提出したこともない。
そう答えた農家が41%(29軒中12軒)にのぼったのです。
「警察沙汰が面倒」とか「繁忙期で忙しい」という理由が目立ちました。
「警察を呼びましたが、犯人は見つからず半日くらいつぶれました」
「捜査で作業時間が取られてしまうのは嫌」
警察に届けてもいちごは戻ってこない。
忙しい収穫期に盗まれるため、被害届の提出などが煩わしい。
そうした農家が少なくありませんでした。
さらにもう1つ気になる声がありました。
「1回目の被害の時に面倒でも届け出ていればと後悔した」
いちごは1つの苗が何度も実をつけ、盗られても1週間たてば新しい実がなるそうです。
忙しくて最初の盗難を⾒過ごしていたら、また被害にあってしまった。
そうした農家の声が聞かれました。
このままでは被害を食い止められない。
警察・JA・市役所は危機感を共有して対策に乗り出し、去年12月「いちご守り隊」を発足させました。
JAのネットワークを活用し、警察が日ごろから農家を回ってパトロールします。
農家とコミュニケーションを増やし、相談しやすい関係をつくるのがねらいです。
警察は市の協力を得て、情報発信の仕組みづくりも進めています。
市のホームぺージに特設コーナーを設け、最新の盗難被害の情報を公表します。
金重生活安全課長
「被害額の大小はありますがいちごは農家にとって大切な財産で盗難は犯罪です。
いちご盗難という犯罪を“日本一のいちごのまち”から必ず無くすために、これから一層守り隊の取り組みを強化していきます」
生活安全課
・身近なところで発生する犯罪を担当する。通称「セイアン」。記者になって1年。
事件取材をしていると、凶悪犯罪や被害額の大きな事件にばかり目が行きがちになります。
いちご盗難の被害額は、ふだんニュースで取り上げられるような事件と比べると、決して大きくありません。
でも農家の人たちにとって手塩にかけた作物を盗まれてしまうことは、その額にかかわらずとても悔しくつらいことなのだと思い知りました。
人々の暮らしに身近な犯罪や地域の取り組みについて、今後取材をもっと深めていきたいと思います。
宇都宮局記者
宝満智之 2020年入局 警察・司法を担当
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