2023年11月13日
台湾 中国 アメリカ 中国・台湾

台湾有事は最悪事態を想定せよ アメリカ対中強硬派の訴え

「台湾有事はウクライナや中東で起きている衝突とは比べものにならないものになる。最悪のシナリオに基づき計画を立てるべきだ」

こう話し、中国への警戒感を隠さないのは、共和党の対中強硬派の1人で、下院・中国特別委員会の委員長を務めるマイク・ギャラガー議員です。

今週、アメリカ・サンフランシスコで米中首脳会談が行われます。1年ぶりの会談を前に、ギャラガー議員の対中戦略を聞きました。

(ワシントン支局長 高木優)

話を聞いたギャラガー議員とは

アメリカ議会下院が今年1月新設した「中国特別委員会」。

この委員会のトップに抜擢されたのが、共和党のマイク・ギャラガー議員(39歳)です。安全保障に詳しい共和党の若手のホープです。

2017年に連邦下院議員に就任する以前に、海兵隊員としてイラク戦争に2度、派遣された経験もあります。

共和党 マイク・ギャラガー下院議員

「中国特別委員会」は中国の経済力や軍事的な脅威に対抗する必要があるとして設けられました。超党派の24人の議員からなり、経済面での中国依存の見直しやアメリカ国内のサプライチェーン=供給網の強化、それに知的財産の保護などのため、調査や政策提言を行っています。

ギャラガー議員が委員長を務める下院・中国特別委員会の公聴会(2023年2月)

首脳会談の実現のため、バイデン大統領は「対話」を推進し、主要閣僚を北京に次々と送り込んで来ましたが、アメリカ国内では、野党・共和党を中心に「弱腰外交」との批判の声もあがっています。

2024年秋の大統領選挙まで1年を切ったことで、これまで超党派の合意が得られてきた対中強硬姿勢にも亀裂が見え始めている中、ギャラガー議員はアメリカの対中政策の鍵を握る人物として注目されています。

(以下、ギャラガー議員の話。インタビューは10月25日に行いました)

米中首脳会談の成果、期待できる?

私は、バイデン政権が中国共産党との外交的、経済的な関与を復活させようとするがあまり、すべてにおいてこの首脳会談の実現を優先し、本来とるべき自衛のための措置を遅らせてきたことを懸念しています。

中国 習近平国家主席 と アメリカ バイデン大統領

例を挙げれば、HUAWEIのような中国企業に税制上の免除が与えられないよう、抜け穴をふさぐ作業だとか、中国の偵察用気球が飛来した事件に関する情報や、新型コロナウイルスの起源に関する情報の公開です。

アメリカ軍により撃墜された中国の気球(サウスカロライナ州 2023年2月)

これらのことを何もやろうとしてこなかったことこそが私の懸念です。中国側と会談の席に着いて話をすることを優先し、必要な行動を遅らせてきたのです。中国共産党が会談の席で約束したことは信じるに足ると考えてしまっているのです。

したがって、私がバイデン大統領に求めるのは、いくつかの単純なことだけです。

それは、習近平国家主席に対し、

①まず、台湾への脅しをやめるよう言うことと、

②(中毒性が強く、アメリカでは過剰摂取で亡くなる人が急増している)薬物のフェンタニルの製造につながる物質がアメリカに流入しないようもっと行動を起こすよう言うこと、

③また、人権の問題、とりわけ新疆ウイグル自治区で続くジェノサイドの問題も取り上げるべきです。

④そして、これは日本にも関係してくることですが、世界規模で中国によって行われている経済的威圧、特にいま日本を標的としている威圧行為をやめるように言うべきです。

バイデン政権の対中外交をどのように評価するか

薬物のフェンタニルや人権の問題を提起し、台湾海峡問題での何らかの短期的な成果を得るべきであるのに、バイデン政権が中国との対話によって得たものは、私たち議会の行動がもたらした成果に比べれば、たかが知れています。立法府たる連邦議会に託されたもっとも重要な任務は、アメリカのすべての防衛産業を底上げし、インド太平洋地域におけるアメリカ軍の態勢を改善することです。

台湾海峡を航行する米軍の艦船の前を横切る中国軍の艦船(2023年6月)

そして、私たち議員の多くが、いま日本がやろうとしていることを注視しています。私たちは、日本がみずからの防衛産業、そして非対称兵器システムの構築のために長期的な投資を行う決定をしたことにとても感謝しています。強固な同盟国である日本に対する感謝の気持ちはことばでは言い表せません。

中国に対し、私たちが決定的に優位なのは、同盟国や友好国とのネットワークがあることです。アメリカが日本だけでなく、オーストラリアや地域内のほかの主要な同盟国と統合を強めれば強めるほど、短期的には戦争を抑止し、長期的には冷戦に勝利できる可能性が増すのです。

オーストラリアのアルバニージー首相(左)と会談するバイデン大統領(2023年10月)

中国に対抗する上で優先すべきことは

防衛産業を再構築させることと合わせて、もっとも重要なのは、先端技術分野での中国への依存を減らすための方法を考え出すことです。

 ここでも私たちは日本の経験に着目してきました。日本は、自国で重要製品を生産できるよう投資することで、経済的威圧行為に対する脆弱ぜいじゃく性を改善してきました。先端半導体や先端的な医薬品の成分といった本当にコアとなる技術を用いた製品は、中国に過度に依存することはできません。私たちは自分たちが自国や近隣地域で先端技術製品を生産することができるよう、もっと投資をするべきですし、一段と強い規制をかけるべきです。

 最終的には、中国からの限定的なデカップリング(=切り離し)を追求しながら、同時に日本のようなもっとも緊密な同盟国と、経済的にも技術的にも連携を深めなければなりません。中国に対抗するだけの戦略では成功しません。私たちは同時に、先を見据えて、関係国どうしで貿易や経済面でのパートナーシップの構築や技術の共有を進めるべきです。

 ほとんどのアメリカ人は、中国共産党がアメリカ国内で私たちの制度や主権に害を与えるために何をしているのかにまったく気づいていません。それはすなわち、ニューヨークのマンハッタンに(アメリカに住む中国の反体制派の監視などを行う)違法な警察署を設置したり、知的財産を盗んだり、(ハッカー集団がアメリカの)電力網を危険にさらしたりしていることを指します。

 私たちは注意を喚起し、中国共産党による侵略行為から私たちを守る必要があるのです。

「アメリカの知的財産と個人情報を保護するため」としてアメリカ政府が閉鎖を命じた ヒューストンの中国総領事館(2020年)

バイデン政権の経済安全保障政策をどう評価するか

 去年(2022年)10月にバイデン政権が発表した半導体をめぐる対中輸出規制を私は強く支持してきました。鍵を握る同盟国を枠組みのなかに取り込むことができたことは大切なことでした。政権がことし10月に発表した追加の輸出規制措置については、その有効性を調べているところです。

私の懸念は、スーパーコンピューターにまつわる技術などをめぐって規制が足りず、抜け穴が存在するのではないかということです。私の感覚では、こうした分野においてバイデン政権は正しい方向に踏み出していると思います。ただ、私たち下院中国特別委員会としては、バイデン政権と協議して、どうすればもっとも強力な輸出規制のしくみを作れるかを考えていきたいと思います。

下院・中国特別委員会の公聴会で発言するギャラガー議員(2023年2月)

中国では外相、国防相が更迭された。中国共産党内で何が起きていると考えるか

多くの人物が公的な場所から姿を消しています。そのことは、アメリカが外交的に中国に関与することを一段と難しくしています。数か月後の協議のテーブルに着く相手が誰なのかわからないのですから。

更迭された中国 秦剛 前外相(左)と李尚福 前国防相

私は、中国国内で、深刻化する経済状況などが原因で、相当な混乱が起きているのではないかと見ています。人口動態的な問題が顕在化しているということもあるでしょう。そして、ここにもっとも大きな疑問が生じます。それは、習近平氏が、国内的な逆風、すなわち内部からの挑戦に直面したときに、果たして対外的により攻撃的になるのか、それとも攻撃的ではなくなるのか、という疑問です。

 私は、習氏が対外的に、より攻撃的になるという最悪の想定に基づいて、計画を立てるべきだと考えています。

 ですから、私はバイデン大統領がベトナムを訪問したとき、「中国が経済的に困難な状況に陥ったことで、台湾侵攻の可能性は低まった」と述べたことに同意しません。わたしはまったくその反対の見立ての方が正しいと思います。

 中国が今こそが、武力で台湾を統一する最大のチャンスだと結論づけることこそが、短期的な最大のリスクです。そうなれば、地域に戦争が引き起こされ、アメリカや日本、オーストラリアが当然、巻き込まれることになります。その戦争の規模はあまりに大きく、ウクライナや中東で起きている衝突とは比べものにならないものになります。

台湾有事の可能性は

私は、もっとも危険な時期に入ったと見ています。その危険は、2024年1月の台湾総統選挙のあと、さらに増すと見ています。

もし与党・民進党が総統選挙に勝てば、習氏は政治闘争を通じては台湾を征服できないと結論づけて、実際の戦争を通じてそれを果たさなければならないと考えるかもしれません。私はこの10年、危険はどんどん増していくと見ており、だからこそ私たちはもっとも緊密な同盟国と、できる限りの協力をして戦争を抑止しなければならないし、最悪のシナリオを想定して計画を立てなければならないのです。

台湾軍による軍事演習(2022年)

そんな戦争が起きてしまったら、世界経済、人命に計り知れない損害が生じます。だからこそ私たちは、習近平氏が朝、目覚めたときに「きょうこそが台湾統一をはかる日だ」と決断することがないよう、毎日、緊急性を持って取り組まなければなりません。

中国への圧力強化の先に描く究極の目標は

目標には3つのフェーズがあると思います。

① まず、短期的な目標は平和です。台湾をめぐる中国との戦争を抑止することです。そのためにまず重要になるのは軍です。半導体などの技術も、先端兵器システムに使われていることを考えれば重要です。

② 中期的な目標は、アメリカや日本など自由主義陣営が、決定的に重要な先端技術を管理することです。AI=人工知能や量子コンピューター、バイオテクノロジーなどの技術は私たちの生活のためにも、経済のためにも、そしてこれから先の軍事的競争のためにも極めて重要です。この競争に勝つことは、その先の基準を自分たちで規定できるという点で重要です。もしも中国がこの競争に勝てば、先端技術を支配し、それを邪悪な目的のために使うことになるからです。

③ そして長期的な目標は、私たちがこれから議論していかなければならないと考えています。私は中国特別委員会で来年(2024年)議論できることを願っています。旧ソビエトとの東西冷戦における政策の目標が「封じ込め」であったのと同じように、中国に対する政策の最終目標は何なのか、封じ込めなのか、態度を改めさせることにあるのか、それともインド太平洋地域の力の均衡なのか。これらは私たちが依然、議論していかなければならないことです。

ギャラガー議員が考える、理想の中国像とは

最善のシナリオは、中国共産党が対外的に攻撃的な態度をとるのをやめ、専制主義的なプロジェクトを国境を越えて拡大させるのをやめることです。それは、日本に対する経済的威圧においても、台湾の統一においても、インド太平洋地域で支配的な地位に就こうと試みることにおいてもです。

中国軍の空母「遼寧」

中国が、新疆ウイグル自治区を含め、国内の至るところに拡大させている専制主義的プロジェクトは、武漢の研究施設から漏れ出して世界中に影響を与えたウイルスのように、突然、拡大することはあり得ません。だからこそ、専制主義的プロジェクトを中国国内に押し込めておくことが重要なのです。

取材を終えて

ギャラガー議員の主張は今のアメリカの対中強硬派の考えを多くの面で代弁しています。論旨は明快で、多くの保守派を引きつけているのは事実です。ただ、そのギャラガー氏ですら、経済安全保障面で中国を封じ込めることによって、アメリカは究極的に何を得ようとしているのか、少なくとも現時点で答えは見いだせていないことを認めました。

アメリカの経済安保政策は日本や韓国も巻き込んで、地球規模で展開されようとしています。今回のインタビューを通じ、中国封じ込めの狙いをアメリカ自身が定めきれていないということを目の当たりにし、一抹の不安を覚えました。

1年ぶりの米中首脳会談で、バイデン大統領が中国との関係悪化に歯止めをかけ、少しでも改善に向かわせるための糸口をつかめるのか。その成果が注目されます。

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