2023年11月15日
習近平国家主席 バイデン大統領 台湾 中国 アメリカ 中国・台湾 注目の人物

米中対立どうなる?台湾 経済安保… 首脳会談の焦点は

アメリカと中国の首脳会談が、日本時間の16日、アメリカ・サンフランシスコ近郊で行われます。
習近平国家主席がアメリカを訪問するのは、APEC=アジア太平洋経済協力会議の機会にあわせたものとはいえ、2017年以来、実に6年ぶりです。

それなのに、「成果は多くは望めない」という厳しい見方も・・・。

米中の対立の焦点と今後を特派員が両国の専門家へのインタビューも交えて解説します。

米中関係の対立点は?

ことしの夏以降、アメリカと中国は対話を加速させ、関係安定化を目指してきました。

しかし、現実には軍事・安全保障・経済安全保障など幅広い分野で対立は深まりつつあります。

現在、アメリカと中国の間には、具体的にはどのような対立点があるのでしょうか。

それぞれ具体的にみていきます。

台湾をめぐる立場

アメリカと中国の関係で避けて通れないのが台湾情勢です。

米中関係が一段と冷え込んだ1つのきっかけも、去年(2022年)8月、当時下院議長だった民主党のペロシ氏が台湾を訪問したことでした。

台湾を訪問した当時の下院議長ペロシ氏(左・2022年)

中国軍は対抗措置として、台湾周辺で軍事演習を行うなど、強く反発しました。

あらためて、台湾をめぐる中国とアメリカの立場について、みてみます。

中国の立場

台湾をめぐって、中国は▼世界で中国はただ1つ、▼台湾は中国の不可分の一部、▼中華人民共和国が中国を代表する唯一の合法政府 という「1つの中国」の原則を主張しています。そして、台湾に関する問題については主権に関わり、一切譲歩することができない「核心的利益」だとしていて、将来的には台湾の統一を目指しています。

習主席は去年開かれた5年に1度の共産党大会で「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置をとるという選択肢は残す」と述べ、統一のためには武力行使も辞さない姿勢を示しています。

共産党大会で演説する習近平国家主席(2022年)

ことし9月、中国の建国記念日にあたる国慶節を祝う行事でも「祖国の完全な統一を実現することは時代の流れと歴史の必然であり、いかなる勢力も阻止することはできない」と演説し、改めて統一に向けた意欲を強調しています。

アメリカの立場

アメリカは、台湾海峡の平和と安定は世界の利益だとして、中国による武力を背景にした台湾の統一にも台湾の独立にも反対し、どちらかによる現状の一方的な変更は容認できないとしています。

「台湾は中国の一部だ」という中国の立場を認識する「1つの中国」政策を掲げる一方、台湾関係法に基づき、台湾が十分な自衛の能力を維持できるよう支援しており、台湾の防衛への関与を続けています。

台湾の部隊が参加したアメリカでの多国間の共同軍事訓練(2023年8月)

また、アメリカは、中国が軍事力を用いて台湾統一を図ろうとした際の対応をあらかじめ明確にしないことで中国の行動を抑止する「あいまい戦略」とも呼ばれる戦略をとってきました。

ただ、バイデン大統領はこれまで、台湾防衛のために軍事的に関与する用意があるかと記者から問われ「ある。それがわれわれの決意だ」と応じるなど、「あいまい戦略」から逸脱したとも受け止められる発言もしていて、ホワイトハウスが「アメリカの政策は変わっていない」と火消しに追われたこともありました。

国力の変化とパワーバランス

アメリカと中国、それぞれの国力の変化につれてパワーバランスも大きく変化してきました。

ちょうど10年前の2013年、習主席が就任後、初めてアメリカを訪問、くしくも今回と同じカリフォルニア州で当時のオバマ大統領と会談しました。

当時は軍事力も経済力も、アメリカが優位な立場にありましたが、果たして2023年の現在は。

この10年間の変化をみてみます。

軍事力

まず、中国軍の海軍力の変化です。

アメリカ議会調査局によりますと、中国軍の弾道ミサイル潜水艦はこの10年で倍増して6隻。攻撃型原子力潜水艦は5隻から1隻増えて6隻に増加しました。空母は1隻から2隻に増加。

また、10年前は巡洋艦は保有していませんでしたが、現在は8隻。駆逐艦は23隻から42隻に増加しました。海洋進出を加速させている様子が浮き彫りとなっています。

中国の空母

続いて、中国とアメリカの軍事力の比較です。

現役の兵士数は中国が200万人あまりで、アメリカを65万人以上、上回っています。また、弾道ミサイル潜水艦は、アメリカが14隻に対し、中国は6隻。空母は、アメリカが11隻に対し、中国は2隻。駆逐艦はアメリカが70隻に対し、中国は42隻。フリゲート艦は、アメリカが22隻に対し、中国が41隻となっています。

ただ、アメリカ軍は世界各地に展開しており、アジア太平洋地域に戦力を集中できているわけではありません。

また、海軍力を測るには艦船の数だけでなく、その能力にも着目することが必要で、単純な比較はできないという指摘もあります。

巨大な軍事力を保有する米中両国にとっては、意図しない出来事が衝突に陥るのを防ぐためのメカニズムの構築が差し迫った課題となっていますが、軍のトップどうしの対面での会談は去年11月以降、行われていないうえ、軍どうしがやりとりする連絡ルートも遮断されたままです。

アメリカ オースティン国防長官(左)と中国 魏鳳和 元国防相による会談(2022年6月)

今回の首脳会談で、軍どうしの対話を活性化できるかどうかが、ひとつの焦点となっています。

経済力

次に中国と米国の経済力の対比です。

GDP=国内総生産は、2013年、ドルベースでアメリカが16兆8400億ドル余り、中国は9兆6200億ドル余りでした。

2023年にはアメリカがおよそ60%増加して26兆9400億ドルに、中国は80%余り増加して、17兆7000億ドルに達して、少しずつその差を縮めています。

さらに、アメリカの研究機関、ピーターソン国際経済研究所の分析によりますと、中国はアメリカや日本などが参加する、IPEF=インド太平洋経済枠組みの参加国との貿易を急速に増やしています。そのシェアは平均で輸入で40%以上、輸出で45%近く増加するなど、インド太平洋地域での存在が急速に高まっています。

一方で、中国では、不動産市場の低迷が長期化し、厳しい雇用情勢も続いています。これに対し、アメリカ経済は堅調で、IMF=国際通貨基金が、主要国の中でコロナ禍から最も力強く回復していると指摘するなど、景気の現状は米中で明暗が分かれています。

経済安全保障戦略

先端技術分野をめぐるアメリカと中国の主導権争いも激しさを増し、両国はそれぞれの経済安全保障戦略を展開しています。

アメリカ

バイデン政権は国家安全保障戦略で、中国を「国際秩序を変える意思と能力を兼ね備えた唯一の競合国」と位置づけています。経済安保では、半導体・蓄電池・重要鉱物・医薬品の4つの特定分野に焦点を当て、軍事転用のおそれのある製品などの、中国の製造能力を抑え込むため、去年10月以降、先端半導体などの輸出規制を強化しています。

アメリカの半導体工場

またEV=電気自動車などに不可欠で脱炭素社会の鍵を握る蓄電池では、サプライチェーン全体で高いシェアを誇る中国への対抗を鮮明にしています。北米地域で組み立てられたEVのみを税制優遇の対象とすることを盛り込んだ異例の法律を成立させるなど、露骨な中国外しを進めています。

こうした戦略の根底には、「Small Yard, High Fence(小さな庭に高いフェンスを設ける)」というバイデン政権の政策があります。

中国と覇権争いにおいて重要な分野を“小さな庭”の範囲に特定したうえで、その分野の技術については中国を締め出すため“高いフェンス”を設けて厳格に管理するというものです。

バイデン政権は、中国との関係について、経済的な結びつきを切り離す「デカップリング」ではなく、経済関係を維持しながら、中国との間で抱えるリスクを減らしていく「デリスキング」を目指す方針を強調していますが、専門家からは、どこまでが“小さな庭”の範囲なのか、その境界線が示されていないという指摘も出ています。

中国

一方、中国は対抗姿勢を強めています。

「国際的なサプライチェーンの中国への依存度を高めることで、外国による供給網の遮断に対し、強力な反撃と抑止力を形成する」

習主席が示した方針です。アメリカなどを念頭に、各国が中国に依存する資源などをいわば「武器」として用いる狙いとみられます。

3年前(2020年)には、安全保障に関わる製品などの輸出規制を強化する「輸出管理法」を施行。

そして、ことし8月に実際にこの法律に基づいて、希少金属のガリウムとゲルマニウムの関連品目の輸出規制に踏み切りました。ガリウムとゲルマニウムは、半導体の材料などに使われる物質で、中国が世界的に高いシェアを占めていて、アメリカや日本などをけん制する狙いがあるとみられています。

中国が輸出規制に踏み切った希少金属 ガリウム

さらに10月にはアメリカが半導体の輸出規制の強化を発表した直後に、リチウムイオン電池の材料に使われる黒鉛の関連品目の輸出規制を実施すると発表しました。

一方、中国は、半導体や電気自動車の部品など、外国への依存度が高い製品の国産化を進める方針も同時に示しています。

狙いは、アメリカなどが進める「脱中国」の動きに左右されない産業構造の構築。「科学技術の自立自強」を掲げて、強じんなサプライチェーンをつくりあげ、自国内で開発から生産までを完結させることを目指すとしています。

他国を巻き込む外交戦略は?

アメリカのインド太平洋戦略

アメリカのバイデン政権が外交政策の柱として去年2月、発表したのが、「インド太平洋戦略」です。

「自由で開かれたインド太平洋地域の推進」を掲げ、同盟国や友好国と連携し、中国を念頭に、経済的な威圧に立ち向かうとともに、東シナ海や南シナ海などこの地域の空や海が国際法のもとで利用できるように取り組むとしています。具体的には、日米豪印の4か国でつくる枠組み「クアッド」を通じて先端技術やサイバーの分野で連携を深め、米英豪の3か国でつくる安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を強化するとしています。

そこには、同盟国や友好国と連携することで、経済力や技術力で中国に対する優位性を確保するとともに、中国の軍事的な行動を抑え込む狙いがあります。

オーストラリアに原子力潜水艦を配備することで合意した「AUKUS」首脳会談(2023年3月)

アメリカはオバマ政権の時代に軍事的な重点をインド太平洋地域に移す方向性を明確に示し、その後のトランプ政権、バイデン政権がイラクとアフガニスタンでの長期にわたる「テロとの戦い」からの脱却を急いだのも、限られた軍事力や外交力をインド太平洋地域に振り向けるという超党派の一致した認識があったためです。

しかし、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻とイスラエル・パレスチナ情勢の緊迫の度合いが増す中、アメリカはこのまま思うように対中国シフトを加速できるのかが焦点となっています。

中国の「一帯一路」とグローバル・サウスとの関係強化

一方、中国は、冷戦時代に「第三世界」と呼ばれていたアジアやアフリカなどの国々とともに、「対中国包囲網」を主導するアメリカなどとの対抗軸を築くことを目指してきました。

2013年に打ち出した巨大経済圏構想「一帯一路」では、特に「グローバル・サウス」と呼ばれる途上国や新興国で、インフラ整備などを進め、みずからの影響力の拡大を図ってきました。

また、中国、ロシア、インドなど新興5か国で始まったBRICS加盟国を11か国に拡大する方針を主導してきたほか、ロシアとともにけん引してきた上海協力機構では、ことし、アメリカなどと対立するイランの正式加盟を承認。

オンラインで開催された 上海協力機構首脳会談(2023年7月)

さらに、ことし10月に北京で開かれた「一帯一路」の国際フォーラムでは、ウクライナ侵攻で国際的に孤立しているロシアのプーチン大統領を主賓のように歓待し、協力関係をアピールしました。

長期的には、中国はロシアとの戦略上の関係を重要視するとともに、グローバル・サウスの国々との関係を強化し、いまの国際秩序をみずからが主導する形に作りかえていくねらいがあるとみられます。

米中それぞれの専門家の見方は

アメリカと中国、それぞれの専門家に、米中関係の今後の展望を聞きました。

アメリカ国務省元次官補代理 リック・ウォーターズ氏

アメリカ国務省元次官補代理(中国・台湾担当)/ ユーラシアグループ・中国部長 リック・ウォーターズ氏

米中首脳会談への期待は?

ウォーターズ氏
「今回の米中首脳会談への私の期待は、はっきり言って高くない。米中関係は、かつてのように何日も会談して共同声明を出していたような時からは、ほど遠い状況にある。両首脳は、去年インドネシアのバリ島で議論したことと同じ議題について意見を交わし、関係構築のための土台をどう作るか、互いの政策を明確に理解するための意思疎通のチャンネルをいかに確保するかを話し合うはずだ。大部分の議論は、台湾問題、技術競争、そして中東のガザ地区での衝突やウクライナでの戦闘といった、非常に重要な課題に割かれることになると思う」

中東におけるイスラエルとハマスの衝突が米中関係に与える影響は?

ウォーターズ氏
「現実にはいま、バイデン大統領とその国家安全保障チームの力はガザ地区に集中的に向けられている。そのことが、アメリカの対中国政策を変えるわけではない。しかし必然的に、片方で起きた危機に相当な注意を振り向けなければならないときには、もう片方で混乱が生じて欲しくないと考えるのは当然なことだ。中国はアメリカのそうした状況を見て、東アジア地域やフィリピン周辺でアメリカやその同盟国の航空機に対して危険な妨害行為をあえてしているのだと思う」

南シナ海上空でアメリカの偵察機の前を横切る中国の戦闘機(2023年5月)

今後の米中関係の焦点は?

ウォーターズ氏
「まず、技術競争だ。アメリカが新たな行動に踏み切ることは確実で、中国はそれに対抗する必要性を感じることになると思う。もう1つは2024年1月の台湾総統選挙の結果だ。中国が新しい台湾総統に対してどのような行動をとるか。もっとも深刻で差し迫った問題は、先端技術と台湾をめぐる問題だ」

中国の対米外交に詳しい 中国人民大学国際関係学院 王義桅 教授

中国人民大学国際関係学院 王義桅 教授

米中首脳会談の注目点は?

王教授
「まずは中国とアメリカが一定の対話のメカニズムを取り戻せるかどうかだ。なぜなら、中国とアメリカの間には、100近い対話のメカニズムがあるが、バイデン政権下では5つにとどまっているからだ。気候変動や人工知能などは中国とアメリカの新たな成長分野となり、ともに取り組むべき分野だ。中国とアメリカが協力しなければ、この世界では何も解決できない」

中国のねらいは?

王教授
「中国自身も経済発展を加速させなければならない。新型コロナウイルスの3年は地方政府の債務増加を招き、経済成長が鈍化して失業率が高くなっている。中国はアメリカとの関係の安定を望んでいる」

今後の米中関係の行方は?

王教授
「中国とアメリカの関係はしばらくの間、局地的で断続的に安定した関係になる。しかし、中国とアメリカが正しい付き合い方を見つけ、そのメカニズムを確立するには、長いプロセスが必要になるだろう」

米中関係 今後の焦点は?

2024年は、1月に台湾で総統選挙が行われ、11月にはアメリカで大統領選挙が行われます。

台湾は、蔡英文政権のもとでアメリカとの関係が緊密になる一方で、中国との緊張が高まりました。台湾総統選挙では、頼清徳副総統が蔡総統の後継として与党・民進党から立候補する予定で、中国との関係を争点の1つとして激しい選挙戦が繰り広げられる見込みです。

総統選挙の結果を受けて中国がどう出るのかが、米中関係や東アジア情勢にとり、まずは大きな焦点となります。

これにともなって中国との間で経済安全保障分野での競争も激化する可能性があります。 こうした状況が予想されるからこそ、今回のサンフランシスコ会談では首脳同士が互いの戦略の方向性を理解し合い、関係の安定化をはかることに力点が置かれます。

両国の対立の根深さから、今後少なくとも数年間は「下降線をたどる」と指摘される米中関係を、両首脳が会談を通じて少しでもコントロールすることはできるのか。2つの大国の動きを私たちも注視していく必要があります。

サンフランシスコの空港に到着したバイデン大統領と出迎えたカリフォルニア州知事夫人(2023年11月14日)

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