2023年1月16日
中国 中国・台湾

どうなる混乱中国 経済失速の要因“不動産不況”の深刻度

「ゼロコロナ」政策の突然の終了が混乱を広げている中国。政策変更の背景にあるとみられるのが深刻な経済の停滞です。

1月17日に発表される2022年のGDP=国内総生産の伸び率は、中国政府が掲げたプラス5.5%前後という目標を下回ることが確実視される異例の状況です。

習近平指導部は経済の立て直しを急ぐ方針ですが、「ゼロコロナ」と並んで中国経済の失速を招いたのが不動産市場の低迷です。

ことしの世界経済のリスクともされる中国経済。その不動産市場で何が起きているのか解説します。

(中国総局 伊賀亮人 / 上海支局 道下航)

プレハブ住宅で過ごす冬…

「誰も工事をしていません」

こう話してくれた男性が暮らすのは、内陸部・河南省の鄭州にあるプレハブ住宅。

入居予定のマンションの建設が1年以上前から中断しているといいます。

人口1200万余りの鄭州は、中国の東西南北を結ぶ交通や物流の要衝ですが、国内でも不動産の問題が最も深刻な状況だと言われています。

男性はもともとマンションの建設予定地に住んでいました。部屋の提供を受けることを条件に立ち退きに応じたのに、入居のめどは立っていません。やむをえず建設現場の前に仮設の家を建てて暮らしています。

入居予定のマンションを背に話す男性

「不動産業者は工事をするお金がなく給料が払えないと聞いています。早く解決してほしい」

なぜ住宅建設は進まない?

住宅ローンを借りて買ったマイホームに住めない。中国ではそういう信じられない事態が社会を揺るがす問題に発展しています。

では、なぜマンション建設は止まったのか。大きな要因は不動産デベロッパーの資金繰りの悪化です。

中国のデベロッパーは、これまで金融機関からの借金や物件の購入者が完成前に支払った頭金を元手に次々と物件を開発して急速に事業を拡大してきました。

新型コロナウイルスの感染が最初に広まった2020年初めは打撃を受け、中国では景気を立て直すために金融緩和が実施されました。このため、大量のマネーが不動産市場に流入し、不動産の販売額は急回復。それに伴って住宅価格も高騰しました。

中国政府はこのバブルとも言える事態に断固とした対応を取りました。

同じ2020年半ばごろから「住宅は住むもので、投機のためのものではない」というかけ声のもと、不動産企業への融資や住宅ローンの融資を規制。

このため、巨額債務を抱え注目を浴びた不動産大手「恒大グループ」をはじめとして、資金不足からデフォルト=債務不履行に陥る企業が相次いだのです。

恒大グループの拠点のビル(中国 広州・2022年1月)

「ゼロコロナ」でも打撃

こうした状況に追い打ちをかけたのが、「ゼロコロナ」政策です。厳しい行動制限でモデルルームに足を運ぶ人が減り、先行きに不安が広がったことで買い控えが進みました。

そして建設中の物件の工事は次々と停止に追い込まれたのです。

話を聞かせてくれたデベロッパーもいます。

デベロッパーの販売担当の男性

閑散としたモデルルームで取材に応じた販売担当の男性は「販売状況は本当に苦しいです。工事が遅れて契約違反だと怒る購入者もいて大変です」と意気消沈した面持ちで話していました。

さらに買ったのに住宅に住めないため、2022年半ばには住宅ローンの支払い拒否運動も各地で起きました。住宅を買っても手に入らないという不安で販売がさらに落ちるという悪循環につながったのです。

全国の不動産販売額は2022年1月から11月までの累計では前年同期比で実にマイナス26.6%。

中国の不動産は、関連産業も含めるとGDP全体の2割から3割程度を占めると試算されるだけに景気全体の足を大きく引っ張る形になっています。

ゼロコロナによる消費の低迷なども響き、17日に発表される2022年のGDPは、政府目標のプラス5.5%前後を大きく下回る3%前後に落ち込むという異例の事態が予想されています。

そうなれば、新型コロナの感染の影響が最初に広がった2020年以来の低い水準です。

規制から景気刺激へ転換も…

規制を強めてきた中国政府は一転して、この「不動産不況」とも言われる状況への対策を進めています。

中央銀行は2022年から住宅ローンの基準となる実質的な政策金利や、住宅を購入する際の頭金の比率を引き下げました。

デベロッパーに対しては資金繰りを支えるため融資の返済期限の延長や社債発行への支援なども打ち出しデベロッパーへの規制を一部修正する姿勢も見せています。

さらに地域によっては、頭金を現金で支払う代わりにニンニクなど農作物でも払えるといったデベロッパーのキャンペーンまで登場。まさにあの手この手で販売を上向かせようと躍起になっているのです。

ニンニクで頭金が支払えるという広告

中でも、政府が力を入れているのがマンション建設の再開です。地方政府の傘下にある国有企業を使って基金を設立して、そこから資金を注入して工事を完了させる対応策などが進められています。

しかし、中国で研究する専門家は肝心の住宅の引き渡しまでには時間を要すると指摘します。

対外経済貿易大学 西村友作教授

西村教授
「地方政府が中心になってデベロッパーの救済に動いてはいるが、今進められているのは国有企業や金融機関からも資金を集める仕組みだ。景気も良くない中で資金も集まりにくく資金が注入されるには相当時間がかかるだろう。人々の不安を鎮めるための一時的な火消し効果はあったと思うが実際にどこまで機能するかはわからない」

不動産低迷の裏で新たなリスク 地方政府の「財政破綻はたん

さらに「不動産不況」の裏で新たなリスクへの懸念も強まっています。

それは、地方政府の財政不安です。中国では都市部の土地は国家が所有するとされています。

地方政府は、その土地を使用して不動産開発を進める権利をデベロッパーに売却し、その収入を重要な財源としてきました。

ところが今、不動産販売が落ち込んでいることで、地方政府が土地の使用権を売って得られる「土地使用権譲渡収入」が急速に悪化しているのです。

2022年1月から11月までの累計で前年同期比で24.4%の大幅な減収です。

そして、この収入は地方政府がインフラ整備などを進める際に発行する債券の返済などに充てられることになっています。

この債券の返済期限は2022年から2024年にかけて相次いで訪れる見込みです。収入が大幅に減った地方政府が債務不履行に陥る恐れが出ているのです。そうなれば、これまでのような公共サービスを提供できなくなるなど地域の人々の生活が混乱する可能性があります。

建設が中断された物件

前出の西村教授の試算によると、2024年にかけて返済期限が訪れる債券の額は全国をあわせると少なくとも1兆4000億人民元以上(27兆円規模 )にも上るということです。

西村教授
「不動産収入が減る中でこのままだと債務の返済にあてる資金が足りなくなるのは明らかで、今後この問題が顕在化するのではないか。中には事実上の財政破綻はたんに陥る地方政府が出てくる懸念もあり、地方政府の財政問題は中国経済の最大のリスクになりうる」

新指導部のアキレスけんに?

中国では長年、地方政府が収入を増やすためにデベロッパーに開発を促し、デベロッパーは巨額の資金を借り入れてリスクを抱えながらも事業を展開。それに伴って関連産業が育ち雇用が生まれるという循環が続いてきました。

しかし今、その「不動産依存」のひずみが表面化しているのです。

中国国内では今のところ銀行がデベロッパーなど融資先の業績悪化に備える「貸倒引当金かしだおれひきあてきん」の規模が十分にあるなどとして、すぐには金融危機につながらないという見方が根強くあります。

ただ、近く人口が減少に転じると予測される中国では不動産需要も減っていくと見込まれており、「依存」は限界を迎えているのは明らかです。リスクが膨らみ続ければ、はじけたときのショックもより大きなものになります。

習近平国家主席

今の不況をソフトランディングさせつつ過熱を防いで業界を健全化していけるか。中国の不動産市場の動向は異例の3期目に入った習近平指導部にとってのアキレスけんになる可能性が指摘されています。

危機が本格化すれば世界経済に与える影響も計り知れません。ことしの中国経済の動向を注視したいと思います。

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