
19日、国葬が行われたイギリスのエリザベス女王。
洋服や帽子を鮮やかな原色で統一したスタイルなど、ファッションでも世界の注目を集めてきました。
強いこだわりがあったとされるそのファッションには、エリザベス女王のどんな思いが込められていたのでしょうか。
(国際部記者 大石真由)
即位50年の帽子 デザイナーは
まず話を聞いたのは、2002年、即位50年を祝う「ゴールデン・ジュビリー」でエリザベス女王が身につけていた帽子をデザインしたイギリス在住の帽子デザイナー 原田美砂さんです。

1994年にイギリスの王立芸術大学院を卒業し、王室御用達の帽子ブランドで日本人初のデザイナーとして勤務した原田さん。
「ゴールデン・ジュビリー」の式典用に採用された帽子について「左右非対称、アシンメトリックな型でなめらかなつばの曲線が特徴で、上品で優雅なデザインを気に入っていただけたのではないか」と話してくれました。
原田美砂さん
「流れの曲線が顔立ちを美しく見せるとか、お顔を見やすくできるといった帽子だったと思います。
エリザベス女王はとても小柄な方なので、どこから誰が見てもすぐに女王様とわかるように、いつも“トップ”の部分の高いデザインの帽子を選ばれていました」

エリザベス女王 ファッションのこだわりとは
これまで100以上のデザインをエリザベス女王のために考案してきたという原田さん。
女王が試着して気に入ったものが、王室の行事や海外への訪問などで実際に女王が身につける帽子となりました。
その中で原田さんが女王の強いこだわりを感じたのは“色”だったと言います。
原田美砂さん
「エリザベス女王には70年間の在位中に築き上げたスタイルが存在していて、いつも本当に鮮やかな色をお好みで選ばれていました。
帽子、お洋服、手袋すべて完璧にコーディネートされたスタイルがおありになったと思います。
その中でも大前提だったのが、“帽子とお洋服が全く同色である”ということでした。
素材を染めたり、お花や羽のかざりもすべて同色に合わせたり、何度も何度も完璧な同色になるまでやり直すという過程があって、それはエリザベス女王の帽子をつくる上で大きな課題でした」
“色”を通じたエリザベス女王の配慮も
女王が身につける洋服や帽子に鮮やかな色が多い理由として、イギリス王室のファッション史に詳しい中野香織さんも、女王がどこにいるか一目でわかるようにしていたと指摘します。
そして、その“色”の選択にはさまざまな配慮があったとも話します。

中野香織さん
「2012年のロンドンオリンピックの開会式でエリザベス女王はピンクの服を着ていました。
どこかの国の色につながるとその国をひいきしていると見られかねない中で、どの国の国旗にも使われていない色としてピンクの服を選ばれたのだと思います。
また、1975年に日本を訪問された際には赤を基調とした服を着て日本への敬意を示されたほか、新型コロナの感染が拡大していた時期には、健康や癒やし、平和といった意味を込めて緑の服をよく着ていらっしゃったと思います」

ファッションで変わらぬイギリスを体現
訪問する国や行事にあわせてさまざまな色の服を身につけていたエリザベス女王。
そのスタイルは一貫していて「変わらぬイギリスを表現し、安定感を国民に与えていた」と言います。
中野香織さん
「エリザベス女王は常に一貫した服装、立ち振る舞い、表情というもので“変わらぬイギリス”というものを表現していたのだと思います。
その安定感がイギリス国民に与えた影響はとても大きく、晩年はイギリス、連合王国の象徴を超えて“世界の母”のような立ち位置になっていました。
それを可能としたのが、女王の“ワンスタイル・マルチカラー”での表現だと思います」
ファッションに込められたメッセージとは
さらに中野さんは、さまざまな場面で身につけていたアクセサリーなどの小物にも女王のメッセージや感情が込められていたのではないかと指摘しています。
中野香織さん
「エリザベス女王はネックレスはいつも3連のパールで一貫性を表現していましたが、ブローチは多数持っていて、その1つ1つに物語がありました。
例えば、ウィリアム皇太子とキャサリン妃の結婚式では“Lover’s Knot”、愛を結ぶという意味のブローチを身につけていて、孫の結婚を心から祝福する女王のメッセージが読み取れます」


政治的な問題には中立を保っているイギリスの王室。
アクセサリーや服装に込めた意味について女王自身が説明することはありませんが、女王がそこに何かメッセージを込めているのではないかと話題になるケースもあったといいます。
中野香織さん
「2017年、EUからの離脱をめぐる混乱が続く中、エリザベス女王が議会で演説を行いました。
そのときに身につけていた帽子がEUの旗に似ていたことから、
『女王はEUを支持しているのではないか』
『偶然なわけがない』など、
国民やメディアはエリザベス女王の意図をさまざまな形で読み取ろうとしたのです」

偉大なファッションアイコンとして
身につける服の色や帽子、アクセサリー、すべてが注目の的だったエリザベス女王。
「1人の女性としての女王は、実は“控えめファッション”を好んでいたのではないか」
女王の帽子を手がけてきた帽子デザイナーの原田さんはそう話した上で、イギリスの代表としての思いが女王のファッションに表れていたのだと言います。

原田美砂さん
「エリザベス女王は、私の知る限りではジャファケーキというイギリスの庶民的なビスケットが大好きだとか、実は庶民的なテイストをお持ちの方です。
普段は本当にいわゆる田舎の生活を愛されるような、どちらかというと地味な格好、トラディショナルな格好がお好きな方だったと思います。
それでもやはり公式の場では、女王だとすぐわかるような鮮やかな色を選びつつ、訪問先の国にあわせたり、そこにいらっしゃる人たちを気遣ったりするようなものを選ばれていました。
そうしたエリザベス女王のスタイルは誰もまねできないもの、イギリスにおける偉大なファッションアイコンだったと思います」