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“微笑みの国”として知られる東南アジアのタイ。
肉好きの人たちが思わず朝から微笑んでしまうのが「ムーピン」です。
「ムーピン」とはいったい何なのか。
街角に漂うおいしそうな匂いにつられて取材しました。
(アジア総局記者 高橋潤)
朝から焼肉 タイの「ムーピン」とは?
タイのバンコクに赴任して気になったこと。
それは朝早くから、どこからともなく漂ってくる香ばしい匂いです。
匂いのもとをたどっていくと、そこにあったのは串打ちされ炭火で焼かれている肉でした。
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「ムーピン」と呼ばれるこの焼肉。
タイ語で「ムー」は豚、「ピン」が焼くという意味で、豚の首肉などを特製のタレに漬け込み、弱めの炭火でじっくり焼き上げる一品です。
炭の上に落ちる肉汁と混ざったタレが朝から食欲をそそります。
値段は1本40円 庶民の味方
匂いにつられて職場や学校に向かう人たちが次から次へと訪れます。
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店によって多少異なりますが1本40円ほどの「ムーピン」。
タイの人たちにとっても手ごろな値段で若い女性でも3本から5本は買っていきます。
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会社員の女性
「働き始めてから通う常連です。高カロリーという人もいますが、おいしいので気にしないです」
秘伝のタレに24時間
「ムーピン」はどのように仕込まれているのか。
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1987年創業の有名店では特別なルートで仕入れた肉を門外不出のタレに漬け込み、24時間丸1日かけて下味をつけます。
焼き上がった肉に合わせるソースの決め手は、タマリンドの甘酸っぱさとガツンと来る唐辛子の辛さですが、こちらも秘伝だそうです。
できたての「ムーピン」を食べると、口に入れたとたん、焼けたしょうゆとほのかなニンニクの香りが広がり、柔らかい肉からは甘い肉汁が染み出てきました。
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安くてうまい“故郷の味”
店を切り盛りするのは3年前に父親から屋台を引き継いだというパランウィットさん(27歳)です。
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パランウィットさんの父親は1980年代、タイ東北部からバンコクに出てきたものの仕事が見つからず、なんとか収入を得ようと始めたのが、地元で食べられていた「ムーピン」の屋台だったそうです。
高度成長期を迎え高層ビルの建設ラッシュに沸いた1990年代のバンコク。
その現場で、作業員としてビルの建設にあたっていたのが主に東北部から出稼ぎに来た人たちでした。
安くてうまい“故郷の味”「ムーピン」はそうした人たちの胃袋を満たしました。
やがて「ムーピン」は出稼ぎ労働者だけでなく、バンコクの会社員や学生などにも広がり定着していったと言われています。
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パランウィットさん
「東北部から来た人たちは重労働を強いられるためスタミナが必要で、豚肉を焼いたムーピンは手軽なスタミナ源なのです。私たちのムーピンを食べてくれる人は家族のようなものなので、いつも真心を込めて準備しています」
経済成長支えたソウルフード
今も新たなショッピングモールやホテルの建設が相次ぐバンコク。
建設現場近くには必ずといってよいほど「ムーピン」を売る屋台があり、作業員が買い求めています。
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作業員のソムキエットさんも東北部から出稼ぎに来た1人です。
家族への仕送りのため毎日、現場で汗を流す日々。
「ムーピン」を食べるたびに望郷の念にかられるといいます。
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ソムキエットさん
「ムーピンを口に入れると家のことを思い出します。娘にいつも買っていたので娘や妻のことが恋しくなります。家に帰りたくなる」
タイの経済成長を支えてきた労働者のソウルフード「ムーピン」。
その煙の向こうには大都会で懸命に生きる人々のさまざまな思いがありました。
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