宇野昌磨 Story
宇野昌磨 Story

フィギュアスケート男子シングルの宇野昌磨選手。初出場となった前回2018年ピョンチャンオリンピックで銀メダルを獲得しました。北京オリンピックに向けたシーズンでは、フリーで4種類の4回転ジャンプ5本を跳ぶ高難度の構成に挑戦するなど「世界トップを目指す」と強い覚悟で臨んでいます。

(スポーツニュース部 記者 今野朋寿)

目次

    宇野昌磨のストーリー
    宇野昌磨のストーリー

    浅田真央さんに声をかけられて始まったスケート人生

    (撮影:2009年1月)

    宇野選手がスケートを始めたのは5歳のときです。

    地元、名古屋のスケートリンクで、後にバンクーバーオリンピックの女子シングルで銀メダルを獲得する浅田真央さんに声をかけられたことがきっかけでした。

    16歳で出場した2014年のジュニアのグランプリファイナルでは4回転トーループを決めて優勝を果たし、2015年の世界ジュニア選手権も制しました。

    いずれの大会も日本選手の優勝は羽生結弦選手以来となる快挙でした。この時、NHKのインタビューに対して次のように話していました。

    「将来の夢はオリンピックに出て金メダルを取ること。いつかは果たしたいと思っています」

    2015-16シーズンからは本格的にシニア参戦します。

    グランプリシリーズは2大会で表彰台に上がり、初出場のグランプリファイナルでは3位。シニアでもその実力がトップクラスであることを示しました。

    さらに、このシーズンの最終戦では世界で初めて4回転フリップに成功。

    その後は4回転ループやサルコーも成功させました。

    そしてオリンピック初出場となった2018年ピョンチャンオリンピック。
    ショートプログラムで3位。フリーでは3つの4回転ジャンプを着氷して、金メダルの羽生選手に次ぐ銀メダルを手にしました。

    「自分のやってきたことが間違ってはいなかったと証明できた。ただし、羽生選手の演技を見て自分に足りないものに気づかされたし、いつか超えたい存在だと思っている」

    2019-20年シーズンに転機が訪れます。
    これまで指導を受けてきた山田満知子コーチと樋口美穂子コーチのもとを離れたのです。

    コーチ不在の状況で臨んだグランプリシリーズのフランス大会はジャンプでミスを連発。シニア5年目で初めてグランプリシリーズの表彰台を逃しました。

    それでもこのあと、宇野選手はトリノオリンピック男子シングルの銀メダリスト、ステファン・ランビエールコーチのもとで練習を積み、徐々に調子を取り戻します。

    全日本選手権は4年ぶりの出場となった羽生選手に初めて勝って、4連覇を果たしました。

    そして2020-21年シーズン。宇野選手はランビエールコーチのもとスイスを練習拠点とします。
    しかし、新型コロナウイルスの影響は深刻でした。満足に練習ができず、大会に出場することもできませんでした。

    シーズンの初戦となった全日本選手権は羽生選手に続く2位になったものの、2021年3月の世界選手権はアメリカのネイサン・チェン選手、若手の鍵山優真選手、羽生選手に続く4位にとどまりました。

    “過去最高難度”に挑む理由

    北京オリンピックを控えた2021-22年シーズン、宇野選手はフリーで自身にとって過去最高難度となる4種類の4回転ジャンプを5本跳ぶ構成に挑みます。

    あえてなぜ、みずからに高いハードルを課したのか。その理由は“世界のトップで戦いたい”という覚悟でした。

    「僕は1位を争う選手ではなかった、ずっと。ゆづ君(羽生結弦選手)の後ろにいて、ネイサン(・チェン選手)の後ろに今はいて…。世界で見るとネイサンが一歩抜けて1人だけひとつ高いレベルの構成をやっていて、しかも誰よりも安定している。僕もその域に少しでも足を踏み入れたいし、世界のトップで戦いたい」

    プログラム成功のカギが、冒頭に跳ぶ4回転ループと続く4回転サルコーです。ループはこの4シーズンは試合で跳ぶことができず、サルコーはミスが続いていたジャンプでした。

    「ループを失敗するときは踏み切りの左足が右足より大きめに開いてしまっている。サルコーを跳べているときは踏み込みの時間が長くとれている」

    宇野選手の4回転サルコー(連続写真 撮影2017年)

    豊富な練習量から失敗する理由も成功するポイントも具体的にイメージできるところまでたどりつきましたが、練習での成功率はまだ半々だといいます。

    それでも世界のトップに立つため、この構成に挑戦することに迷いはありませんでした。

    2021年11月に開催されたグランプリシリーズ第4戦のNHK杯。
    全体トップで迎えたフリーで会場全体に緊張感が漂うなか、宇野選手は「ボレロ」の音楽にあわせて演技を始め、ぐっとスピードを上げると、冒頭の4回転ループを高い出来栄え点を獲得するきれいな着氷で決めました。
    そして続く4回転サルコーもしっかり着氷し、ショートプログラムとの合計で3シーズンぶりとなる自己ベスト更新につなげました。

    「氷の感触、靴の感触、体の動き、精神状態もすべて練習どおり。すべての出来事が偶然ではなく、必然とできている実感があった」

    観客席から勝者をたたえる拍手が送られるなか、宇野選手は自分自身のことばをかみしめるように宣言しました。

    「世界のトップで競い合う存在に戻ってこられた」

    今シーズン、男子シングルでは羽生選手が前人未踏の4回転半ジャンプ(=4回転アクセル)に取り組み、チェン選手は宇野選手を上回る5種類の4回転ジャンプを6本跳ぶ構成に挑戦するなど、新たな時代の扉が開かれる予感に満ちています。

    そのシーズンに世界のトップを狙える位置に立つことができた宇野選手、さらなる高みを目指す道のりは続きます。

    羽生結弦選手への思い

    2020年12月に長野県で開催された全日本選手権。新型コロナウイルスの影響で久々の試合となったこの大会で、宇野選手は羽生選手に大差をつけられて2位となりました。
    自分の想像以上の差があることを痛感しました。

    「今回の演技が羽生選手にとって“どちらかというとうまくいった演技”だったら、僕はすごいなで終わっていたと思う。そうではなく羽生選手にとって“いつもどおりやった演技”があの演技だったと僕は思った。1歩ではなく2歩、離れているなと実感した」

    その一方で、ピョンチャンオリンピックのあとは忘れていたというある感情を思い出したと笑顔で語りました。

    「羽生選手の本来の実力を目の当たりにしたとき、すごくうれしかった。こんなにも大きな目標を追いかけていたのに、どうして忘れていたんだろう」

    オリンピックの後、羽生選手と競う機会が減ったり、新型コロナの影響で大会がなくなったりしたこともあって、宇野選手は目標や練習へのモチベーションを見失いかけたと明かしました。それでも全日本選手権をへて再び沸き起こった“羽生選手がいる舞台で勝ちたい”という思いが大きな活力となっています。

    「もっともっと上の自分を目指して練習しなければ絶対に届かない力の差がある。それを痛感できて改めて良かった。羽生選手と一緒に出ていい戦いをして、3回戦って1回は僕が上に行けるぐらいの実力をつけたい。世界大会で優勝できればもちろんうれしいとは思うけど、やはりそこには羽生選手がいて欲しい」

    ランビエールコーチとの絆

    宇野選手が、今シーズン、これまでにない高いモチベーションを保ち続けられている理由のひとつに、ステファン・ランビエールコーチの存在があります。ランビエールコーチは前のシーズンの世界選手権で4位に終わった宇野選手にある言葉を投げかけました。

    「君が世界一のスケーターになるにはどうしたらいいのだろう、何が必要だと思うのか」

    みずからの演技に満足していた宇野選手は、この言葉で改めて自分がスケートをする意味を深く考えたといいます。

    「これまでいろんな経験をしてスケートから離れようと思ったときもありながら、ステファンのもとで再びスケートを楽しむことができた。自分にとってスケートが苦しいものじゃなくなった。ステファンの“僕を世界のトップに立たせたい”という気持ちを強く感じたし、その期待に応えたい」

    “何が必要だと思うのか”
    ランビエールさんの問いに対する宇野選手の答えが“ジャンプ”でした。失敗のリスクを背負ったとしても優勝を目指すため、過去最高難度の構成に挑戦する覚悟を決めたのです。

    今シーズンは国内を中心に練習を積んでいるため、ランビエールコーチからの指導はインターネットを介して行わざるをえませんでした。それでもNHK杯では練習中に何度も宇野選手がリンクサイドにいるコーチに駆け寄る様子からは2人の絆の強さをうかがわせました。

    「僕はもっとうまくなれる」

    NHK杯で自己ベストを更新しながらも現状に満足しない姿は、ランビエールコーチがともした“世界一になるにはどうするべきか”という心の炎が宇野選手の中でさらに大きくなっていることを感じさせるものでした。

    世界一へ ジャンプの伸びしろは…

    宇野選手が2018-19年シーズン以降に主要な試合(フリー)で跳んだジャンプのGOE(出来栄え点)をもとに課題を探りました。
    最も安定しているジャンプは3回転半ジャンプ(=トリプルアクセル)と、4回転トーループです。
    このうちトリプルアクセルは、2018-19年シーズン以降、ほとんどの試合で出来栄え点がプラスとなっていて、過去には3.54と高い評価を得たこともありました。今シーズンはNHK杯の2.40が最高で、さらに高い加点を得られる余地が残っています。

    4回転トーループは、2019年世界選手権で3.26の評価を受けましたが、今シーズンはNHK杯でミスがありマイナス評価となっています。このジャンプも確実性を高めることがポイントです。

    このほか4回転サルコーは、2018-19年シーズン以降のフリーの10試合で跳んでいますが、このうち8試合で出来栄え点がマイナスとなっています。宇野選手にとっていかに難しいジャンプかが分かります。

    4回転ループは2018年の世界選手権後のフリーを最後に、それ以降は試合で跳んだことはありませんでしたが、2021-22年シーズンになって4シーズンぶりに構成に入れ、NHK杯では3.30と高く評価されました。

    4回転フリップはショートプログラムの成功確率が高い一方、フリーでは出来栄え点がマイナスとなるケースも多く、安定感を高めることが課題になりそうです。

    またここ数シーズンは4回転トーループと3回転トーループの連続ジャンプの後半が2回転になるケースが多くなっており、3回転にできるかどうかも課題となっています。

    プロフィール
    プロフィール

    経歴

    名前 宇野昌磨
    出身地 愛知県名古屋市出身
    生年月日 1997年12月17日生
    一口メモ 愛犬はトイプードルで、名前は「バロン」「Emma」「トロ」

    オリンピックの成績

    2018年 【ピョンチャン大会】
    銀メダル

    世界選手権の成績

    2016年
    /17年
    2位
    2017年
    /18年
    2位
    2018年
    /19年
    4位
    2020年
    /21年
    4位

    全日本選手権の成績

    2014年
    /15年
    2位
    2015年
    /16年
    2位
    2016年
    /17年
    1位
    2017年
    /18年
    1位
    2018年
    /19年
    1位
    2019年
    /20年
    1位
    2020年
    /21年
    2位

    グランプリファイナルの成績

    2015年
    /16年
    3位
    2016年
    /17年
    3位
    2017年
    /18年
    2位
    2018年
    /19年
    2位

    その他の注目選手のストーリー
    その他の注目選手のストーリー

    おすすめの記事
    おすすめの記事