小平奈緒 Story
小平奈緒 Story

スピードスケート女子の小平奈緒選手(35)。オリンピックの個人種目でのメダル獲得を目指し、オランダに武者修行をするなどしてスケートを磨いてきた日本のエースは、前回2018年ピョンチャンオリンピックで500mの金メダルを獲得し、幼いころからの夢を叶えました。その後の不調を乗り越え、自身4大会目となる北京オリンピックへ歩みを進めています。

(スポーツニュース部 記者 猿渡連太郎)

目次

    小平奈緒のストーリー
    小平奈緒のストーリー

    憧れの五輪へ「いつかあの景色を見たい」

    「ビデオがすり切れるほど、当時の映像は何度も繰り返し見た」

    小平選手がオリンピックを強く意識するきっかけになったのが、地元長野で行われた1998年のオリンピックでした。小学5年生だった小平選手は、会場で見ることはかなわなかったものの、録画したビデオを繰り返し再生し、男子500mで清水宏保さんが金メダル、女子500mで岡崎朋美さんが銅メダルを手にする姿を目に焼き付けました。

    「いつか自分もあの景色を見てみたい」

    その思いを力に3歳から始めたスケートにのめり込んでいきました。中学2年生の時には女子500mの中学記録を更新。高校3年生の時のインターハイでは、500mと1000mルの2冠を達成しました。

    そして、いまも師事する結城匡啓コーチの指導を受けるために信州大学に進学。大学時代は学業中心ながら国内大会で優勝、ワールドカップにも参戦し表彰台に上るなど着実に力をつけ、社会人になった2009年にその才能が一気に開花します。

    練習に専念できる環境が整ったこともあり、シーズンの国内開幕戦で女子500m、1000m、1500mを制して3冠を達成。その勢いのまま、憧れのオリンピックの切符を手にしました。

    「応援してくれる人たちに感謝の気持ちを持って夢や感動を伝えたい」

    初めてのオリンピックとなった2010年バンクーバー大会。小平選手は500mで12位、1000mと1500mでは5位入賞を果たします。

    さらに女子団体パシュートで日本勢初のメダルとなる銀メダルを獲得しました。

    しかし、小平選手はこの結果に満足することはありませんでした。

    「個人でメダルを逃し、悔しさの残るオリンピックだった。ここから一つ一つ階段を上っていきたい」

    「個人種目でメダル獲得」という新たな目標のため、小平選手はバンクーバー大会のあと筋力アップに取り組みます。男子のトップ選手とほとんど変わらない最大150キロのバーベルで鍛えるなど自分自身を限界まで追い込むトレーニングを重ねました。

    そうした積み重ねが結果につながります。
    国内大会で圧倒的な強さを発揮し、2年連続で3冠を達成するなど、トップスケーターとしての地位を揺るぎないものにしました。

    日本の女子のエースとして、メダルを期待する周囲からの声を背に受けながら臨んだ2014年ソチオリンピック。

    小平選手は500mで高地での記録を除けば自己ベストのタイムをマーク。しかし、メダルには届かず5位。1000mも13位に終わりました。レースのあと、あふれ出る悔し涙を拭いながら小平選手は取材に応じました。

    「ここまできついトレーニングをやってきてベストを尽くしたが、実力の差を感じた。世界の進化のスピードについて行けず悔しい、世界の壁は厚かった」

    オランダでの武者修行 そして開花

    ソチ大会のあと、小平選手は思い切った行動に出ます。オランダへの武者修行を敢行したのです。
    それはソチ大会で金メダル8個を含む23個のメダルを獲得したスピードスケート大国の練習方法や技術を吸収するためでした。そこで過ごしたおよそ2年の間に小平選手は、世界のトップ選手たちと一緒に練習することで技術だけでなく、世界で戦うための精神面の大切さを学んだと言います。

    そして、2016年に帰国した小平選手が、取りかかったのがフォームの改造でした。結城コーチとともに、最新のスポーツ科学の知見を取り入れながら、これまでよりも上体を起こし、腰の位置を低くしたスピードの出るフォームの習得に力を入れました。

    世界と戦うために変化を恐れない。むしろ変化することを新たな力に昇華させた小平選手は、ワールドカップの500mで連戦連勝、さらに1000mの世界記録も打ちたて、ピョンチャン大会は金メダルの最有力候補として出場しました。

    迎えたピョンチャン大会。小平選手は1500mで6位入賞。1000mで銀メダルを獲得します。

    そして本命の500m。

    「絶対に外せない」

    強い思いが揺らぐことはありませんでした。

    オリンピック新記録での金メダル獲得。
    それは小学生のころに憧れた先輩スケーターたちが見た

    「あの景色を見たい」

    という夢をかなえた瞬間でした。

    もう一度”あの景色”を見るために

    金メダルを獲得したあとも、小平選手の躍進は止まりませんでした。

    500mは、2016年から2019年2月の世界選手権で優勝を逃すまで、国内外の大会で合わせて37連勝。

    国際大会では、男子のレースにも出場して新たな可能性も探りました。

    次の北京大会に向けても死角はないと思われていた小平選手でしたが、2020-21年シーズンは調子を崩します。股関節の違和感を抱えたままレースを続けていたことが滑りに影響したのです。
    しかし、ここでも小平選手は思いきった行動に出ました。シーズン中に1か月近くリンクから離れる決断をし、陸上のトレーニングで回復を図りました。

    「葛藤し思考しながら自分の中で答えを出して、スタートラインにつけたらいい。結果優先ではなく、取り組む姿勢をしっかり示したうえで、皆さんの心に何かが届けば幸せだと思う」

    不調を乗り越えて、再び北京オリンピックに向けた準備を進める小平選手はそう静かに語りました。

    エピソード
    エピソード

    ふるさとへの思い

    ふるさとは長野県茅野市。練習拠点は長野市。所属先は長野県松本市の病院と、これまで長野とともに歩んできた小平選手。2019年10月の台風19号によって県内で大きな被害が出た際には、被災地のボランティアにも参加しました。ピョンチャン大会のあと、どこに行っても「金メダリストの小平奈緒」でいなければいけないことに悩み、家から出たくないと思う時期もあったと振り返りますが、このボランティア活動を通して、改めて地元の温かさを肌で感じたと言います。
    そのときに知り合ったリンゴ農家とは交流が続き、「少しでも元気になってほしい」という思いから、昨シーズンのユニフォームの色はリンゴをイメージした赤で、太ももにはリンゴのマークがあしらわれていました。
    「オリンピックという夢を見させてくれた地元に少しでも恩返しがしたい」
    地元・長野への思いも小平選手の頑張りを支える大切なピースのひとつです。

    プロフィール
    プロフィール

    経歴

    名前 小平奈緒
    出身地 長野県茅野市出身
    生年月日 1986年5月26日生
    趣味 コーヒー

    オリンピックの成績

    2010年 【バンクーバー大会】
    団体パシュート 銀メダル
    1500m 5位
    1000m 5位
    500m 12位
    2014年 【ソチ大会】
    500m 5位
    1000m 13位
    2018年 【ピョンチャン大会】
    500m 金メダル
    1000m 銀メダル
    1500m 6位

    ワールドカップの成績

    2018年
    /19年
    【ハーマル大会】
    500m 優勝
    1000m 2位
    2018年
    /19年
    【ソルトレークシティー大会】
    500m(1)(2) 優勝
    1000m 3位
    2019年
    /20年
    【カルガリー大会】
    500m 優勝
    1000m 優勝

    世界スプリント選手権の成績

    2017年 総合優勝
    2018年 500m(1)(2) 1位
    1000m(1) 4位
    2019年 総合優勝
    2020年 総合2位

    全日本スプリント選手権の成績

    2018年 総合優勝

    世界距離別選手権の成績

    2019年 500m 2位
    1000m 3位
    2020年 500m 優勝

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