被災地の避難生活を助けたい

海外で大きな地震が起きています。9月に入り北アフリカのモロッコで地震があり、ことし2月には5万6000人以上が犠牲になったトルコ・シリア大地震がありました。

今も厳しい避難生活を余儀なくされている人々を助けようと、日本で開発した簡易住宅がトルコの被災地に送られました1人でも速やかに作ることができるのが特徴で、日本の震災の経験から生まれた技術が、海外の被災地のために役立てられています。

トルコ被災地に日本の簡易住宅

トルコ・シリア大地震で大きな被害が出た、トルコ南部のアンタキヤ。震災の2か月後、日本からテント型の簡易住宅が現地に送られました。

この簡易住宅は高さ4.3メートル、広さ20平方メートルで、断熱性にすぐれ、大人3~4人が寝起きすることができます。年内には新たに100棟が現地に送られる予定です。

トルコに送られた簡易住宅
簡易住宅の内部

トルコ政府機関の関係者
「(被災地の)テントは空気が入らないので暑いが、この簡易住宅なら夜も涼しい。より安全に過ごすことができる」

「仮設住宅なんで3~6か月かかるの」東日本大震災後に問われ研究

この簡易住宅を考案したのは、名古屋工業大学の北川啓介教授です。

トルコの被災地を訪れた北川啓介教授(右)

名古屋工業大学 北川啓介 教授
「クーラーとかつけなくても、中がすごく木陰な感じで涼しく過ごせるので、いっぱい活用してもらえたらうれしい」

北川さんが簡易住宅を作ろうと考えたきっかけは、東日本大震災後の避難所で聞いた子どもたちのことばでした。

北川教授
「小学校3年生と4年生の男の子が私の指を引っ張って、グラウンドを指さして『仮設住宅が建つのになんで3~6か月かかるの』『大学の先生だったら来週建ててよ』と」

宮城県石巻市の避難所の映像を見ながら語る北川さん

「1人で作る」「4時間で完成する」

北川さんは企業と協力して9年前から研究を続けてきました。この簡易住宅の特徴は、1人でも作ることができるという点です。

まず、地面と接する部分をビスで固定する
次にポンプで空気を送り膨らませる

そして、ウレタンの断熱材を吹きつけて完成です。すべて完成させるまでにかかる時間は約4時間だといいます。強度実験では、風速80メートルの風に耐えることも証明されたそうです。

被災地にある材料で作る研究も

北川さんは、その土地にある材料を使って簡易住宅を作るための研究も続けています。今、注目しているのが、イモ類から作られる「でんぷんのり」です。

でんぷんのり

このでんぷんのりに水を混ぜて、ほかの紙とか古着などと混ぜていくと、「断熱材」ができると説明してくれました。

出来上がった断熱材

断熱材には、でんぷんのりの代わりにトウモロコシや米なども使うことができて、今は1棟260万円ほどかかっている簡易住宅の価格を安く抑えることができるといいます。

北川教授
「ものを提供するだけじゃなくて、技術を私たちから現地の人に伝えていく。もっとローコストで、だけどそこにはいっぱい私たちの知見を入れていく」

この簡易住宅は日本ではすでに販売されていて、キャンプ地などで宿泊施設としての利用が進んでいるということです。
(経済番組 佐野嘉紀)
【2023年9月12日放送】
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