インド刺しゅうをビジネスで守る ベンチャー企業の模索

インドの伝統工芸「インド刺しゅう」。手がける職人が経済成長に伴ってより賃金水準の高い仕事などに流出し、担い手の減少が進んでいます

このインド刺しゅうを販売して伝統を守ろうと取り組んでいるベンチャー企業が日本にあります。

担い手が減少するインド刺しゅう

広島県中央部にある東広島市志和町。山あいの古民家を借りて、月3日だけ営業する店があります。

主力商品はインド刺しゅうをあしらった服です。刺しゅうは、植物の複雑な模様を縫い上げたものや、家族の幸福と繁栄の祈りが込められたものなど、インドの地域ごとの特徴があります。

植物の模様が刺しゅうに

店を運営するベンチャー企業「イトバナシ」の社長、伊達文香さん(31)は、広島と奈良の2か所で月3日の店を開いています。

伊達文香社長

伊達さんは学生時代にインド刺しゅうに出会いました。技術の高さに感銘を受けた一方、担い手が給料の低さなどを理由に短期間で稼げる仕事に流出していくさまを目の当たりにしました。

ベンチャー企業 伊達文香 社長
「きのうまで職人さんとして働いていた人が、きょうから辞めてドライバーになっている。こうやって文化ってちょっとずつ衰退してしまうんだ、自分が関われるなら関わっていきたい」

現地で生産 日本で販売

現地で生産されるインド刺しゅう

伊達さんは現地の職人に刺しゅうの生産を依頼し、日本で服の販売を始めました。当初は百貨店などに出店していましたがコロナ禍で多くが休止になり、地方での月3日の営業に方向転換しました。

これが功を奏し、足を運んでくれた客と向き合い、刺しゅうに込められた意味や技術などをしっかり伝えられるようになりました。店にはリピーターが増え、そのクチコミで新規の客も来てくれる好循環ができたといいます。

客とのコミュニケーションを大切にしている伊達さん(左)

女性客の一人は「ひとつひとつの製品が丁寧で作り手の愛情が伝わってくる」と話し、別の女性客は「伊達さんの思いも話してもらい、物語がある感じがすごくいいなと思った」と話しました。

チョコから服へ 興味を喚起

伊達さんは2022年から事業を拡大。生産者の労働環境などに配慮した「フェアトレード」の考え方に基づいてインドなどから仕入れたカカオ豆でチョコレートを作り販売しています。

チョコレートのパッケージにはインド刺しゅうの柄などをデザインし、チョコをきっかけにインド刺しゅうの服にも興味を持ってもらおうとしています。

今の売り上げは年間3500万円ほど。今後も同じ販売スタイルで出店する場所を増やしていく計画です。

伊達さん
「すごく非効率なやり方だけど、これからの世の中に大切なことを大切にしながらトライしていけたらいい」

「どんな人がどんな思いで作ったか」消費者の関心高まる

社会課題と経済の関係について研究する立教大学の河口眞理子特任教授は、次のように話しています。

立教大学 河口眞理子 特任教授
「ものがすぐ手に入る時代だからこそ、商品をどんな人がどんな思いで作ったか、知ったうえで購入したいという人が増えている」

消費者の価値観とビジネスをうまくマッチさせて伝統の技を守れるか、期待されます。
(経済番組 岩永奈々恵)
【2023年6月6日放送】

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