地場産業の技術で“売れる商品”を 豊岡かばんメーカーの挑戦

日本各地の地場産業で磨かれてきたさまざまな技術が今、暮らしや産業構造の変化にさらされています。そうした技術を現代の生活に合わせて生まれ変わらせようという取り組みが行われています。

工芸品を「今の暮らしに添うものに」

全国のさまざまな工芸品の産地で作られた生活雑貨などを集めた店。運営する奈良市の「中川政七商店」は、高い技術を持つ地場産業のメーカーや職人と連携して、今の暮らしに役立つ新しい商品を開発、販売しています。

信楽焼の窯元が作った電子レンジで調理ができる器や400年以上の歴史があるお香の老舗がブレンドしたアロマグッズなど、年間60億円以上を売り上げています。

店の運営企業 千石あや社長
「時代が進むにつれて少し生活に合わなくなったり、使いづらくなったりする部分がどうしても出てくる。今の暮らしに添うように作り変える」

「強みは何か?」を追求 新たな主力商品

この企業とタッグを組むことで、新たな主力商品を生み出した地場産業のメーカーもあります。

明治時代から続くかばんの産地、兵庫県豊岡市で68年前に創業したメーカー「バッグワークス」です。長年、銀行員などが使う業務用のかばんを専門に作っていましたが、安い海外製品に押されて売り上げが落ち込んでいたといいます。

かばんメーカー 高島茂広社長
「(取引先の)会社の予算が削られて発注も少なくなってきて、非常に困った」

そこでこのメーカーは、奈良市の企業のアドバイスを受けて新たな商品開発に乗り出しました。求められたのは「会社の強みは何か?」を突き詰めることです。

このメーカーは自社の強みを、業務用かばんに求められる耐久性を生み出す、厚みのあるレザーや硬い帆布を縫い合わせる技術だと考えました。

メーカーから消費者へ 「コミュニケーション」がカギに

その技術を生かして、丈夫さや機能性を売りにした一般向けのかばんを開発。商品名は「BANKMAN(銀行員)」など職業に関連づけたものにして、特長を打ち出しました。

例えばかつて電気工事士向けに作っていたかばんをイメージした商品は、底の部分に2枚の帆布を縫い合わせて強度を高めています。アウトドアでキャンプ道具などを運ぶのに重宝されているそうです。

また帆布製のリュックは農家が作物の収穫に使う袋をイメージして作り、側面のファスナーからも中身を取り出せる機能を取り入れました。

このシリーズは累計10万個以上を販売し、会社の売り上げの9割を占めるまでになったということです。

高島社長
「いいものさえ作れば売れるとか、ものづくりのことばかりしか考えていなかったけれど、お客さんとのコミュニケーション、メーカーの伝えたいことがきっちり伝わっているかどうかをよく見なさいよと」

このメーカーは第三者の視点で自分たちの商品の強みは「丈夫さ」だと気づき、その強みを消費者にアピールできるよう商品を刷新しました。時間をかけて磨いた技術を今の時代にどう使うのか。各地の地場産業で新たな取り組みが生まれることが期待されます。
【2022年5月23日放送】