ドイツ製造業の試練 ロシアの安価なエネルギーに頼るビジネスモデルが崩壊

ドイツはヨーロッパで「ひとり勝ち」とも言われるほど経済の力強さを誇ってきました。その経済を支えていたのが、ロシアから安く、安定して調達できる天然ガスです。

しかしウクライナ軍事侵攻のあと、ロシアは天然ガスの供給を削減。ドイツ経済の屋台骨を支える製造業が今、揺らいでいます。

ロシアとドイツを結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム」。供給が削減された

「ロシアのガスは使わない」 エネルギー経費1.5倍に

ドイツ西部・ルール工業地帯の大手化学メーカー「Evonik」。この工場は敷地内の発電所で電気をまかない、その燃料の多くはロシアからパイプラインで運ばれる天然ガスでした。

パイプラインが今運ぶのは天然ガスではなく、「LPG」=液化石油ガス

天然ガスを運ぶパイプラインは今、「LPG」=液化石油ガスを工場へと送り出しています。

LPGは近隣の石油精製所から購入し、工場が使うガスの40%を代替することもできるといいます。このメーカーの広報担当を務めるトビアス・レーマーさんは「ロシアのガスはもう使わない。私たちはロシアのガスから解放された」と話します。

広報担当者は「ロシアのガスから解放された」と話すが…

しかし、大半を占めるロシア産以外の天然ガスの価格は、激しい争奪戦で高止まりしたままです。このメーカーの2022年のエネルギー経費は、ウクライナ侵攻前の21年に比べ1.5倍に急増しました。23年は21年の2倍になると懸念されています。

大手化学メーカー クリスティアン・クルマンCEO
「ドイツはエネルギー価格の高騰と、混乱と呼ぶしかないエネルギーインフラに、今後10年間は間違いなく苦しむことになる」

電気代が4倍になった鋳造部品メーカー

ドイツでは電気料金も高い水準が続いています。電気を大量に使う鋳造部品メーカーは苦しい経営を迫られています。

鉄くずを溶かすために4つの電炉を使っていますが、その電気代が22年の4倍に増えました。

電気代が一気に4倍になった鋳造部品メーカー

鋳造部品メーカー クレーメンス・キュッパー社長
「日々5万ユーロ(715万円)の追加コストが発生している。毎日だ。毎日、新しい大きなベンツが買えるほどだ」

メーカーは、製品に電気代を転嫁せざるをえないと顧客にも通告。キュッパー社長によると、燃料調整費は100キログラム当たり約2.5ユーロ(357円)でしたが、「60ユーロ(8580円)に引き上げた」といいます。

このまま電気代の高止まりが続けば、取引先がコスト高のドイツから海外に移転してしまうのではないかと心配しています。

専門家「ドイツ経済は分岐点に」

専門家は、ドイツ経済の状況を次のように指摘します。

ifo経済研究所 クレーメンス・フースト所長
「今、ウクライナ戦争という新たな衝撃が(ドイツの)変化をさらに加速させている。現在は時代の分岐点とも言える」

クレーメンス・フースト所長(左)

中小企業の4社に1社が海外への移転を検討?

天然ガスの価格はひところの急激な上昇に比べて落ち着いたとは言っても、高止まりが続いています。

経済団体の調査ではドイツの中小企業の4社に1社が海外への移転を検討しているということです。産業の空洞化が起きないかどうか重要な分岐点となりかねない事態となっていて、ドイツ国内では経済をロシアに依存しすぎていたという議論も起きています。

ドイツは輸出では中国と深く結びついています。こちらについても今後、一つの国への依存という点で議論となるのか注目されます。
(ヨーロッパ総局 有馬嘉男)
【2023年3月2日放送】
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