EVに欠かせぬ希少金属「ニッケル」争奪戦 主役は中国? インドネシアで投資拡大

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希少金属・ニッケルはEV=電気自動車の製造に欠かせません。その埋蔵量が世界最大とされるインドネシアで今、中国が急速に投資を拡大しています。

スラウェシの「中国市場」

ニッケル加工会社の港では、いたるところに中国語表記が。

インドネシアのスラウェシ。首都ジャカルタから約1600キロ離れた島の南東部を訪ねました。ニッケル加工会社の港に行くと、消火器や掲示板など、いたるところに中国語の表記が見られます。

この会社は、中国企業の子会社として現地で採れるニッケルの加工を行っています。

中国の労働者が住む寮の建設も進んでいます。周辺は「中国市場」と呼ばれ、仕事を終えた中国の人たちでにぎわいます。

建設中の中国人労働者の寮
「中国市場」の様子

中国企業が相次ぎ投資 ニッケル製品輸出額が急拡大

インドネシア政府は9年前、国内産業の発展のため、ニッケル鉱石を加工しないまま輸出することを禁止する政策を打ち出し、2020年からは全面的に禁輸しました。

そこで、現地でのニッケルの加工にいち早く乗り出したのが中国企業でした。建材などに使われるニッケル製品をつくる製錬所に相次いで投資。23年2月10日には、現地の採掘会社と中国企業が手がける、新しい製錬所の起工式が行われました。

起工式の様子

起工式で中国企業の会長は「経済的にも社会的にも利益をもたらすウィンウィンの関係を実現する」と述べました。

製錬所の増加で、インドネシアから海外へのニッケル製品の輸出額は2022年に約7億5000万ドルに上り、20年の約5700万ドルの約13倍に増加しました。中国は最大の輸出先になっています。

EVバッテリー用に供給網の強化ねらう

さらに中国企業が目指すのは、EVのバッテリー用のニッケル加工です。中国がEVの世界最大の市場となる中、原材料を確保するため供給網を強化しようというのです。

“雇用が奪われる” 反発も

中国からの投資はインドネシアに利益をもたらす一方で、中国人の労働者に雇用が奪われるなどとして反発も起きています。

23年1月には、中国企業の傘下の製錬所で、インドネシア人の従業員約500人が賃金や安全対策の改善を求めて抗議活動を行い、インドネシア人と中国人の双方に死者が出る事態にもなりました。

抗議活動の様子を伝える画像

インドネシア国内への投資や供給網を中国だけに依存するべきではないという声も出ています。

インドネシアの国営資源会社 ニコラス・カンタル社長
「1か国が独占したり支配したりすることは望ましくない。(さまざまな国と)協力体制を築くことが、成功と継続のカギになると思う」

現地に素早く投資し大勢の中国人労働者を投入するのは、中国企業の海外進出の特徴で、アフリカなどでも同様の不満が出ていると伝えられています。

インドネシア政府は、投資は中国以外にも開かれていると強調していて、アメリカの自動車メーカー「テスラ」にも工場を建設するよう働きかけています。EVシフトが進む中、ニッケルの調達を巡る各国の動きがますます激しくなりそうです。
(ジャカルタ支局 伊藤麗)
【2023年2月16日放送】
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