目指せ!時事問題マスター

1からわかる!地球温暖化(5)日本の対策、どうなってる!?

2020年05月20日
(聞き手:伊藤七海 井山大我 西澤沙奈)

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「日本が化石賞を受賞」。これはうれしい話ではありません。「温暖化対策に消極的」として国際NGOから贈られた皮肉たっぷりの賞です。日本の温暖化対策はそんなに遅れているの?環境問題などを担当する土屋敏之解説委員に1から聞きました。

(新型コロナウイルスの感染拡大前に取材しました)

なぜ批判される?日本の温暖化対策

学生
西澤

日本の温暖化対策が国際的に批判されているというニュースを目にしました。何を批判されたのでしょうか?

去年12月、温暖化対策をめぐる国際会議、COP25が開かれたんですが、そこで日本の姿勢に批判が集まりました。

土屋
解説委員

COPとは
Conference of the Parties=締約国会議の頭文字。「気候変動枠組条約」の締約国会議を指す言葉として使われる。1995年にドイツのベルリンで1回目の会議=COP1が開かれて以降、毎年開催されている。

学生
伊藤

どういうことですか?

COP25の開会式で国連のグテーレス事務総長は、「世界のいくつかの地域では、石炭火力発電所が今でも多く計画、建設されている」と指摘しました。

そして「この炭素中毒をやめなければ、私たちの気候変動対策は間違いなく無駄になる」と脱石炭への行動を各国に求めました。

しかし、小泉環境大臣が「石炭火力発電に関する新たな政策をこの場で共有することは残念ながらできない」と演説した。

それに対して、どんな反応があったんですか?

これについては、NGOだけでなく、ほかの国の政府関係者も「日本のそういった立ち位置は残念だ」と発言しています。

小泉環境大臣は去年12月の「COP25」で演説。批判が高まっている石炭火力発電の利用について「新たな政策をこの場で共有することは残念ながらできない」と述べ、石炭火力発電を今後どうしていくのか、具体的に言及することはなかった。

ちなみにCOP25の会期中に、NGOから日本が「化石賞」を2回もらったのを知っていますか?

化石賞?

石炭火力発電についての日本のスタンスを受けて、NGOが温暖化対策に消極的だと判断して皮肉を込めて贈った賞です。

化石賞
世界各地の約1300の環境NGOでつくるグループがCOPの会期中、温暖化対策に消極的だと判断した国や地域をほぼ毎日選び、皮肉を込めて贈る賞。

NGOの賞をどのぐらい公式なものとしてみるかというのはありますが、少なくとも今の日本のスタンスについて国際機関や外国から好意的には見られていないというのは確かだと思います。

批判集める「石炭火力発電」とは?

学生
井山

先ほどから石炭火力発電が批判の的となっていますが、どのようなものなんですか?

電力会社が発電するために使っているエネルギー別でいうと、いまは天然ガスが一番多い。

でも、CO2の排出量でいうと石炭から出ている分が一番多いんです。

発電効率がよい方式の石炭火力発電でさえ、天然ガスの倍近い二酸化炭素を出します。

そんなに違うんですか。

だから排出ゼロを目指すためには、石油や天然ガスより、石炭による発電を止めることが優先順位として高いんです。

日本では、石炭火力発電が減っていないんですか。

減っているとはいいがたい状況です。いまも石炭火力発電所を新設する計画が多いです。

日本の石炭火力発電所

さらに、国際的に批判されているのが、日本がG7=主要7か国の中で唯一「途上国への石炭火力発電所の輸出を公的に支援していること」なんです。

外国に輸出しているんですか?

そう。自分の国で使うだけでも批判されるのに、よその国にも輸出している。その国は新たに作られた石炭火力発電所を何十年も使う間、CO2排出ゼロが実現できなくなりますよね。

せっかく新しくつくったなら使い続けますよね。

そう。日本は、ほかの国が脱炭素社会に向かおうとしている足を引っ張っているようにもみられるわけです。

日本はなぜ石炭火力発電をやめられないのですか?

よく言われるのは「エネルギー安全保障」の観点です。みなさんオイルショックって知ってる?

授業で習ったことがあります。

オイルショック

1973年10月に起きた第4次中東戦争に端を発して原油価格が急騰。パニックが起き、トイレットペーパーの買い占めに発展。

もともと日本のエネルギー源としては石油が圧倒的に多い時代がありました。石油は中東から多く来ます。しかし、中東は歴史的に政情不安で石油の供給が不安定になり、値段がものすごく変動します。

一方、石炭は世界的に埋蔵量が多いので安く手に入ります。そのため、日本では特に東日本大震災の影響で各地の原発が止まったあと、その分を埋め合わせようと価格が安定していた石炭火力発電が一気に増えたんです。

震災後に増えたんですね。

そう。産業界としては「いま石炭火力発電所を減らすと電気代が高くなることにつながる」として、石炭火力発電所の削減を強く反対しているんです。こうしたことからなかなか減らせなくなっている状況にあるんです。

海外での石炭火力発電所建設に対する日本からの支援について小泉環境大臣は2月25日、「脱炭素に向けた新たな一歩になる」として支援の要件をより厳しい内容に見直すことを明らかにした。

日本の目標は?

では、日本はパリ協定でどんな目標を掲げているんですか?

短期と長期の目標があって、短期だと「2030年度までに温室効果ガスの排出量を26%削減する」としています。

いつと比べて26%削減するんですか?

いい指摘ですね。これは2013年度と比べてです。

なぜ2013年度なんですか?

各国が出している目標って基準とする年がまちまちなんです。それはどの国も自分に都合のいい年を基準にするからです。

なるほど(笑)

日本の場合は、東日本大震災のあとに原発の代わりに火力発電の割合を増やしたので排出量が一気に増えました。その増えた後を基準にしています。

石炭火力発電所

そうなんですね。

国際的には1990年を基準の年にしようという考えもあるんですが、1990年と比べると実はそんなに減らないんです。

えー!

だから日本の目標は不十分だという指摘が国際的にもあります。

長期の目標はどうなんですか?

長期目標は去年策定され、この中では火力発電への依存度を可能なかぎり引き下げ、再生可能エネルギーの「主力電源化」を目指すことや、2050年までに温室効果ガスを80%削減するとしています。

ドイツやフランスは将来的に排出量ゼロを目指していましたけど、日本は目指していないんですか?

排出量ゼロについて日本は「今世紀後半のなるべく早い時期に実現を目指す」としているんです。

すごくあいまいですね…

世界的には2050年に排出量実質ゼロを目指すことが求められているんだけど、日本は微妙な表現だよね。

だから、時期を明確にした方がいいのではないかという議論はありますね。

あいまいな目標にしてしまうのはどうしてですか?

日本はすごくまじめに削減目標をつくっているんですよ。産業界の中で、具体的にどこがどれだけ削減できるかというのを積み上げて目標をつくっている。

2030年の26%削減という短期目標はこの方法でできました。でも、長期目標については、今世紀後半にどんな技術革新が起きているか、日本の経済や人口がどうなっているかもわからない。

つまり、不確定要素が多いため、積み上げて目標をつくることが難しいんです。

でも、時期をはっきり出している国もありますよね。

そう。具体的に積み上げた目標を設定するのではなく、「これだけやりましょう」という目標を先に掲げて、それを達成するためにいろんな政策をうっていくという考え方が先進国の中では主流になっています。

編集 水上貴裕

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