2020年04月30日
(聞き手:伊藤七海 井山大我 西澤沙奈)
“温暖化が進むと国の消滅や、紛争が起きる”。こんな最悪なシナリオも指摘されている地球温暖化。温暖化は止められるの?そもそものギモンを環境問題などを担当する土屋解説委員に1から聞きます。
(新型コロナウイルスの感染拡大前に取材しました)
「地球温暖化」という言葉自体はいろんなところで聞きますが、漠然としていて…。どういう現象で、どんなメカニズムなんですか?
地球の気温ですが、歴史的にみると暖かくなったり寒くなったりという変化がいろいろな理由で起きてきました。
何千年何万年以上のスパンの中での揺るやかな変化だったんですね。
いまは違う?
いま問題になっている温暖化は産業革命以降の話。
人間の活動によって大量の温室効果ガス、主に二酸化炭素が排出されるようになった結果、数十年のスパンで急激に気温が変化していることから、まずいんじゃないかと。
いま現在、「温暖化対策」で使われる「地球温暖化」は「温室効果ガスの増加による気温の上昇」という意味で認識してもらえばよいと思います。
なぜ温室効果ガスが増えると気温が上がるのですか?
地球が温まる要因は基本的には太陽からの光のエネルギーです。
でも太陽からの光のエネルギーは地球の海や陸に当たって温めたあと、ずっと地球にこもっているわけではないんです。
いったん当たった光のエネルギーは赤外線という僕らには見えない波長に変わって地球から宇宙に放出されます。
地球の表面から出ていく赤外線を、空気中の酸素や窒素は素通しします。
しかし、二酸化炭素やメタンなどの一部の気体(温室効果ガス)は赤外線を吸収してしまい、地球に布団をかぶせているように熱をこもらせる働きがあることがわかっています。
「温室効果」というのはその赤外線を吸収する気体が空気中に増えて、熱がこもりやすくなって温まる現象のことです。
温室効果ガスは困った気体なんですね…
でも、適度にないと困るんです。もし地球の空気中に温室効果ガスがまったく無かったら地球の平均気温はマイナス19度になるといわれています。
そんなに寒くなっちゃうんですか!
こちらからご覧ください。
▼「パリ協定と京都議定書、何が違うの?」1からわかる!地球温暖化(2)
▼「世界各国の対策、進んでる?」1からわかる!地球温暖化(4)
温暖化について、「でっちあげだ」という意見を聞いたことがあります。僕の実感として暑くなってるとは思うんですが、本当に地球は温暖化しているのですか?
「温暖化」は明確に起きています。この100年あまりの間に世界の平均気温は1.1度上がっています。
ただ、温暖化が指摘され始めた30年ほど前には、平均気温はなんとなく上がったり下がったりで、まだ温暖化の傾向は曖昧ではないかと言われていました。
しかし、その後のデータを組み合わせると、温暖化の傾向は間違いないといわれています。
なるほど。それと、「温暖化の原因は温室効果ガスではない」という説を唱える人もいると聞いたことがありますが、どうなんでしょう?
太陽活動の活発化や宇宙から降り注ぐ放射線の減少が温暖化の原因だとする説ですね。
どちらも地球の気温に影響を与える可能性はあります。温暖化の傾向があいまいだった30年前にはどちらの説も可能性はあったことは確かです。
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)も当時は「人間活動の影響が気候に表れていると考えられる」といった慎重な言い方でした。
そうなんですね。
ただ、どちらもいま起きている100年余りに1.1℃という急激な気温上昇を説明できないんです。
温暖化の傾向が明確になり、太陽の活動も宇宙の放射線量も観測できる現在、温室効果ガス以外が原因と考えるのは無理があると思っています。
最近、日本で台風や大雨の被害が相次いでいるのは温暖化が原因なのでしょうか?
「この台風は温暖化の影響で発生した」というような特定は難しいんだけど、温暖化が影響している可能性は十分あります。
2019年は平年の倍近い5つの台風が日本に上陸し、このうち15号と19号は関東付近に上陸した台風としては統計の残る約30年間で最も強いクラスだった。「台風が強くなっている背景には地球温暖化があると考えられる」と指摘する専門家も。
温暖化は、温度が上がる現象だけだと思われがちですが、ざっくりいうと地球上にある水の循環が激しくなる現象なんです。
例えば温暖化で気温が上がると、陸や海から水がどんどん蒸発するようになります。
そうすると、それが雲になるので、これまで以上に雨の量が増えて激しく降ることになります。
なるほど。
で、さらに問題があるんです。
なんですか?
少し難しいのですが、海水は蒸発するときに海の熱を奪います。汗が蒸発するときにスッとするのと同じです。
その奪った熱は、蒸発した水が雲になるときに放出されて、それが大気を動かす運動エネルギーになります。
だから温暖化が進むと、蒸発する水の量も放出される熱の量も増えるので、大気を動かすエネルギーも大きくなるんです。
そうすると、何が起きるんですか?
スーパー台風
中心の気圧が900ヘクトパスカル程度以下で、最大風速が60メートル以上の台風。
台風が強大化します。海水温が上がると台風の中心気圧が下がり、より強い風が吹くようになります。
今後、海水温が上がると、900ヘクトパスカルを切るようないわゆるスーパー台風が増えることが予想されています。
怖いですね。
だよね。また、陸から蒸発する水分の量が増えることで、山火事が増えるといわれている。
オーストラリアの山火事でやけどしたコアラの映像は衝撃的でした。
温暖化が進んだ場合、最悪どのような影響が予想されているんですが?
主にこのようなことでしょうか。
恐ろしい言葉が並んでいますね…。
まず「国土消失」は、温暖化による海面上昇で国土自体が海に沈んで無くなるおそれがあるということです。
島が沈んでしまうという話を聞いたことがあります。
そうだね。モルディブや太平洋にある島国のツバルやなどは1メートル海面が上がると国土の大半が水没する可能性があると言われています。
海面上昇は、南極の氷が解けるからですか?
それもあります。海面上昇は、南極や氷河など陸上にある氷が解けて海に注ぎ込むことで海水の量が増えるのと、さらに、海水の温度が上がることで海水自体が膨張することで起きます。
その結果、今のままだと2100年には海面が1メートル以上、上昇するおそれがあるんです。
2100年には島国が沈んでしまう可能性があるんですね。
今後こうした状況になると、世界で10億人が高潮などで生命の危険にさらされるおそれがあるという予測が出ています。
10億人!?
はい。特に途上国はお金がなくて護岸の対策工事ができていないところもありまし、日本も臨海部の開発が進んでいるので、大きな危険があることは間違いないです。
「食糧危機」というのは?
温暖化で陸上から蒸発する水分の量が増えると、干ばつが起きる地域が増えるといわれています。
これまで以上に水不足や食糧不足が起きることが予想されていて、2050年には世界の穀物価格が最大で23%上昇するという予測もあります。
さらに、魚がとれなくなることも予想されています。
魚がですか?
そう。海面の平均水温が上がり、海の温度の分布が変化したり、海が酸性化したりして、魚が住みづらい環境になるのです。
こうした結果、将来的に漁獲可能な魚の量が20数%減ってしまうおそれがあるという予測があります。
そういえば最近、魚がとれないというニュースをよく目にするようになりました。
そうだよね。温暖化によって海や陸の生態系が壊れてしまうことは、私たち人間の食糧や生活にも影響を与えてしまうんです。
最後の「紛争」というのは?
食糧危機が起きると、食料をめぐる争いが起きる可能性が高まるというわけです。
生きるためには奪うしかなくなる…。
いまあげた影響以外にも、水不足が衛生環境の悪化を招いて、熱帯性の感染症が広がったり、気温が高くなることで熱中症の人が増えたりして死者が急激に増えるということも言われています。
温暖化によるさまざまな影響で命が危険にさらされるんですね…
そうですね。ただ、こうした予測以前に、すでに大雨などの異常気象による被害が世界的に相次いでいるので、温暖化対策はまったなしの状況なんです。
ここまでは、地球温暖化の仕組みや影響について聞きました。
こちらからご覧ください。
▼「パリ協定と京都議定書、何が違うの?」1からわかる!地球温暖化(2)
▼「世界各国の対策、進んでる?」1からわかる!地球温暖化(4)
▼「日本の対策、どうなってる!?」1からわかる!地球温暖化(5)
▼「再生可能エネルギー、可能性は?」1からわかる!地球温暖化(6)
編集 水上貴裕