2023年5月10日
世界の食 タイ アジア

人気のコースは3万円? 進化するタイの「日本食」とは?

東南アジア・タイの街なかを歩くと、あちこちにあるのが日本食レストラン。

コロナ禍にもかかわらず、この1年でも1000店近く増え、その数は5300店あまりになっています。(JETRO調べ)

カギは「OMAKASE(おまかせ)」? 地産地消??

いったい何が起きているのか。取材しました。

(アジア総局記者 鈴木陽平)

人気は「OMAKASE(おまかせ)」コース!

今、東南アジアでは「OMAKASE」という日本語がそのまま浸透し、特別な食の体験を指すものとして人気が高まっています。

タイでも、日本人ではなくタイ人の経営者が手がける、本物志向の高級日本料理店が増えています。

今回取材した首都バンコク中心部にある店は、完全予約制で富裕層のタイ人に大人気です。

バンコクの高級日本料理店

メニューは日本の旬の食材を使った「OMAKASE」のコース2種類のみ。人気なのは1人7000バーツ、日本円で3万円近くする、値段が高いコースです。

この店のオーナーは、不動産業を営むタイ人です。

オーナーのジットブーン・ランノクターイさん(右)と料理長の大石計伸さん

料理長は日本の有名店で腕を振るってきた日本人で、日本で働くよりも高い報酬を条件にヘッドハンティングしました。

オーナーのジットブーンさん
「私たちの料理は日本の味そのもの。お客様からは『日本で食べたものと同じだね』と、良い反応をもらっています」

何度も日本を訪れ、本物の味を知るタイ人が増える中、日本国内の店にも負けないレベルだと胸を張ります。

女性客
「味はまろやかで、いい香りです」
「いつ来ても期待を裏切られたことはありません。毎回帰るときは満足感でいっぱいになります」

日本の鮮魚、水揚げ翌日にはタイに!

バンコク中心部にある市場に並ぶ長崎県産のタイや天然のヒラメ、愛媛県から届いた生の本マグロなど。

日本各地から週に数回、新鮮な魚が空輸されるのです。

日本中の生産者と連携していて、早いものは水揚げの翌日にはタイに到着。

高級ホテルや日本料理店などの料理人、さらには舌の肥えた市民も直接買いに訪れます。

いま、タイ人たちが求めるのは「本物の味」です。

買い物客
「価格は結構高いですが新鮮です。日本に行ったときに食べた味と、ここで買ったものの味は同じなんです」

価格は日本で買うよりも平均で2.5倍高いものの、売り上げの8割はタイ人で、富裕層を中心に人気を集めているといいます。

日本生鮮卸売市場 村松樹 本部長

村松本部長
「この前、日本に行ってきたよというタイ人が多く、日本についてかなり詳しい。本当においしく、価値がある物にお金を払って楽しむ人が多いです」

加速する食材の地産地消

タイの人々の手によって進化するタイの日本食。

これに伴って、店で出す日本の食材をタイ国内で作る動きも広がっています。

取材に訪れたのはタイの北部。企業の工場ではわさびが栽培されていました。

これまでタイでは日本の米や野菜の生産が進んできましたが、日本原産のわさびまで作るようになりました。

熱帯に位置するタイでは栽培が難しいとされていますが、この企業では湿度を一定に保つなど工夫を重ねて量産化に成功。日本料理店からのひきあいも多く、会社の収益は毎年10%増え続けているといいます。

この企業は近隣のインドネシアの高地でわさびの大規模栽培も進めていて、経営者の男性は今後、さらに生産を拡大していきたいと意気込んでいました。

経営者のナラ・コビタヤさん

ナラさん
「わさびを含め、私たち自身でさまざまな物を作ることができるようになっています。私たちの願いは質の高い商品を紹介して、タイ人全員に食べてもらうことです」

料理人でも進む“地産地消”

日本食料理店の拡大・進化に伴って、日本の食材だけでなく、足りなくなっているのが日本食の料理人です。

タイでは食材だけでなく、人材の育成もタイ人によって進められています。

取材したバンコクにある料理学校では、高級日本料理店で経験を積んだタイ人が寿司の握り方や魚をさばく時の包丁の入れ方など、日本食ならではの技術を伝えていました。

受講者の女性

受講者
「勤務するレストランのオーナーが日本食レストランを出店するので学びに来ました。シェフはほかでは得られない技術を教えてくれます」

111時間のカリキュラムで受講料は日本円でおよそ60万円。

受講者の申し込みが後を絶たず、日本料理を学ぶコースを2倍に増やすとともに、料理学校では今後、新しい学校を開いてより多くの受講者を受け入れる予定だといいます。

タイの本物志向の背景は?

タイでここまで日本食が進化する背景は何なのか。

背景には、経済成長で生活が豊かになって、旅行や外食にお金をかけられるようになった分厚い中間層の存在があります。

日本に来るタイ人は、2019年には131万人を超え、10年前のおよそ7倍に増えています。そのうち7割は何度も日本を訪れているリピーターだといいます。

かつての日本食市場は、タイに進出する日本企業の日本人駐在員などをターゲットにしたものでしたが、現在は日本へ旅行したタイ人によって本物の日本食のニーズが高まり、現地で進化し発展を続けているのです。

タイ人が担う日本食ビジネスが地元の産業の1つとして、どうなっていくのか。今後も目が離せません。

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