
ベトナムでは今、あるカフェが人気なのだそうです。
その名は「“コン”カフェ」。
カフェの前に付いている“コン”とはいったい…
調べてみると、ベトナムの歴史が深く関わっているカフェでした。
(あさイチディレクター 黒田沢、ハノイ支局長 鈴木康太)
「コンカフェ」が人気?
去年2022年の大晦日、ベトナムで人気だというカフェを訪れることにしました。
実はベトナムは、ブラジルに次ぐ世界第2位のコーヒー生産国。

フランス統治時代、19世紀に本格的に始まったというベトナムのコーヒー栽培。
町を歩くと、至る所でコーヒーをたしなむベトナムの人たちを目にします。
そんな中、知人から人気だと勧められたカフェが「コンカフェ」です。
「コンカフェ」のコンの意味は?
訪れたのは、ベトナムの首都ハノイ中心部にあるコンカフェ。
壁が濃い緑色に塗られ、レトロな雰囲気がおしゃれな建物でした。店の看板を見ると「CONG CAPHE」の名前が。

実は「コン」はベトナム語。「ともに」といった意味で、漢字にすると「共」になります。
そして、2007年にハノイで開店したこのカフェのコンセプトは、1970年代から80年代に続いた計画経済時代の配給制。
「共(コン)」は、ベトナムの正式名称、ベトナム社会主義共和国の「共」の字からとったといいます。
「ともに」と「計画経済」?
つながるようでつながらないキーワードに疑問を持ちながらも、店に入ってみると…。

漂うのはレトロな雰囲気とコーヒーのいい香り。
店内は、ベトナム軍を象徴する薄い緑や濃い緑のイメージカラーで統一。
ロシア革命の指導者レーニンに関する本も飾られていました。

肝心の味の方は…
コンカフェはかなり人気なようで、店内は満席。
開店以来、次々に店舗を増やして、ベトナム国内で60店舗に拡大し、現在は韓国やマレーシアにも進出しているということです。
それでは、肝心の商品の味は?
メニューの中でも人気だというヨーグルトコーヒーを注文してみました。
出されてきたのは、ベトナム国旗と同じ星のマークがあしらわれたコーヒー。

一見すると、練乳を加えて飲むベトナムコーヒーに似ています。ヨーグルトとコーヒーの相性はいかに…。
飲んでみて、まず感じたのはコーヒーの強い苦み。その直後、とろみのあるヨーグルトの爽やかな風味が口に広がります。
思っていたよりも、すっきりとした後味でした。
ちなみに、お茶うけは地元の人たちにも人気のひまわりの種でした。
なぜ人気?
人気の秘密は何なのか?店を訪れていた人たちに聞いてみました。
「ノスタルジックな雰囲気に親しみを感じます。この空間が落ち着きますね。ストレスがたまる仕事なので、そういうストレスを忘れることができます」(男性客)
「私はその時代に生まれたわけではないので経験はありませんが、この空間にいると、温かく落ち着いた時間を過ごせます。外のにぎやかさと違って、忙しく疲れた私たちを癒やしてくれます」(女性客)
「計画経済時代」をコンセプトにしたねらいは何なのか?
マーケティングを担う女性に尋ねると、次のように話しました。

「その当時は、かなり大変な時代でした。モノがない時代、モノが足りない時代でした。それでも、どんな状況に陥ってもそれを乗り越えるのがベトナム人の精神力のすばらしいところです。そして、そうした時代だからこそ、人と人とのつながりが強かったのです。隣近所が助け合う温かい人情。これこそが私たちが目指すコンセプトです」
なるほど、「コン」が意味する「みんなでともに」とは、人情のことでもあったのですね。
しかし、なぜ今、当時のことを知らない若者たちの心をつかんでいるのでしょうか?
専門家は、次のように分析してくれました。

「ベトナムでは経済成長が続き、社会が急速に変化しています。特に、この20年間の変化は著しく、過去の面影は姿を消しつつあります。その速すぎる流れの中で、人々は不安を感じ、安らぎや立ち止まる時間を求めているのではないでしょうか」
1杯のコーヒーから見えたのは
人口が1億人に迫るベトナム。
アジア開発銀行によると、東南アジア主要国の中で最も高い経済成長率が続いていて、2022年の実質の国内総生産(GDP)は前の年に比べてプラス8%と、2009年以降最も高い成長率となりました。
町なかの至る所で高層ビルが建設されていて、その姿が大きく変わっていっているのを感じます。
話を聞いたカフェの利用者が言っていた「ストレス」「忙しさ」「疲れ」。
国の経済は勢いよく成長しても、一人ひとりの人たちは、その速度に戸惑い、どこか一息つける場所を探しているのかもしれません。
そんなベトナムの今を、1杯のコーヒーから垣間見た気がしました。
