2023年3月29日
IT 経済 アメリカ

インスタ映えにさよなら?“映えない”新SNSヒットの背景

楽しそうなパーティーの様子に、ビーチで完璧なポーズを決める若者たち。

動画や写真の投稿アプリ、インスタグラムでは決めに決めた写真や加工を施した「映える」写真の投稿があふれかえっています。

いわゆる「インスタ映え」です。

しかし、アメリカでは今、こうしたインスタ映えの真逆をいく、“映えない”SNSに関心が集まり始めています。

その名も「BeReal」。

突如、アプリストアのSNSダウンロード数1位に躍り出た新SNS。
流行の背景には何が?ネット社会の新潮流を読み解きます。

(ロサンゼルス支局記者 山田奈々)
※この記事は2022年8月24日に公開したものです

ダウンロード数No.1

新SNS「BeReal」。

文字どおり「リアルであれ」つまり「ありのままの自分でいる」という意味が込められています。

8月下旬時点で、アップルのApp Storeでフェイスブックやワッツアップを抜いて無料SNSアプリのダウンロード数が1位になっています。

何が消費者の興味をひきつけているのでしょうか。

フィルターなし 1日1回2分以内

最大の特徴は、インスタのような写真の加工ができないこと。

フィルターで写真に写る食べ物の色を鮮やかにしたり、夕焼けの色味を良い感じに変えたりといったことができません。

さらに、投稿が許されるのは1日に1回のみ。
アプリから通知が来たタイミングで、原則2分以内に写真をアップするルールです。

写真は、スマートフォンの外側のカメラと内側のカメラの両方で同時に撮影されるため、毎回その瞬間の自分の顔も残ります。

タイミングや時間に厳しい制限があるため、どう考えても「映える」写真を投稿するのは難しく、投稿者のリアルな写真が投稿される仕組みです。

しかも写真が公開されるのは友人の間のみ。次の投稿がなされるたびに、前の投稿は消えていく形になっています。

SNS疲れが背景に

なぜ、映えない写真を投稿するアプリが人気になるのか?「全く理解できない」と思う方も多いのではないでしょうか。
私も最初はそう思いました。

でも、このアプリ登場の背景を探っていくと今のネット社会のほころびと新潮流が読み解けるのではないかと私は考えています。

キーワードは「SNS疲れ」「インスタ映え疲れ」です。

1つの悪い反応で心が折れる

「大量のコメントや、いいね!が寄せられると、自分にすごい価値があると思ってしまう」
「100人がいいコメントでも、1つ悪い反応があると心が折れてしまう」

アメリカABCテレビで放送された子どもたちのことばです。

この放送は旧フェイスブック、IT大手のメタが13歳未満向けのアプリ「インスタグラム・キッズ」の開発をめぐって炎上したときのことを特集したものでした。

メタは開発にあたり、自分の体型について嫌悪感を抱いた際、インスタでスタイルの良い人の写真などを見ると、嫌悪感がさらに強まると回答した10代の女性が32%にのぼったという調査結果をみずからまとめていたと発覚。

子どもの心の健康に悪影響を及ぼす可能性があることを知りながら、開発を続けていた実態が内部告発者の女性の証言で明らかになり、2021年、大きな波紋を呼びました。

SNSに詳しい専門家は次のように問題点を指摘します。

SNSの問題に詳しい メディア心理学研究所 所長 パメラ・ラトリッジ博士

ラトリッジ博士
「SNSには孤独を解消するなど良い面もありますが、全般的に写真などを加工することへの疲れがあります。
インスタグラムや中国発のTikTok(ティックトック)は完璧であること、見栄えが良いことを称賛するようにできています。
フィルターを使い、全方位からライトを浴びた人たちと比べれば、どんなにすてきな人でも自分の姿にがっかりするでしょう」

「疲れ」を逆手にとった戦略

こうした「SNS疲れ」「映え疲れ」を逆手にとる戦略を打ち出したのが「BeReal」です。

アメリカではなく、実はフランスの企業が2020年に立ち上げたサービスです。創業者はウエアラブルカメラのGoProに勤務していたアレクシス・バレヤという人物です。

2021年の初めにはフランスだけで50万人がダウンロード、今はアメリカでの普及に注力し、アンバサダーと呼ばれる大学生を雇って、各地の大学で広める戦略をとっているといいます。

冒頭で説明したとおり、インスタのような写真の加工ができないことや、アプリから通知が来たタイミングで、原則2分以内に写真をアップするルールです。

1日1回しか投稿できないので、ほかのSNSと比べると長時間のSNS漬けになる危険性は低そうです。

アプリの注意書きには「BeRealで有名になることはできない。インフルエンサーになりたければティックトックやインスタグラムでどうぞ」などと書かれています。

キラキラしなくて楽!実際に使っている人は

若者たちは実際、どのようにBeRealを使っているのか。

ロードアイランド州にあるブラウン大学3年生のルーカス・ガルフォンドさん(21)に話を聞きました。

ある集まりで友人が使っているのを見て、2021年11月ごろ、自分もアプリをダウンロードしたといい、今では100人以上の友達とつながっています。

ブラウン大学3年生 ルーカス・ガルフォンドさん(21)

ガルフォンドさん
「インスタみたいに見えを張って、完璧な写真をアップしなくてもよいところが良いです。同じ日の同じ瞬間に友達が何をしていたか確認できるので、みんなの本当に何気ない日常がかいま見えておもしろいんです」

ガルフォンドさんの投稿には友達と集まってワイワイ楽しそうな写真から、自宅の机の雑然とした様子まで、飾らない日常が映し出されていました。

35歳・・・記者の私もやってみた

ものは試しということで、もう若者には分類されないであろう?記者の私も2週間ほどやってみました。

BeRealのアプリ画面(数字は日付)

アプリをダウンロードしたあとは、簡単なプロフィールを作成し、通知が来るのを待つだけです。

(左から)7月16日 7月22日 7月29日

▽7月16日(土)
週末に靴を洗っていたところ通知がきました。
靴と一緒のすっぴんの私と、自宅のベランダがこの日の投稿に・・・。

▽7月22日(金)
ライドシェアのウーバーに乗っていたところ、撮影を指示する通知が。

▽7月29日(金)
サンタモニカのビーチ近くで街頭インタビュー中に通知を受信。
気付いたらあと34秒しかない!と、慌てて写真を撮りました。
きれいなビーチがすぐ近くにあるのに、2分の制限時間にせかされて、写したのは目の前を通り過ぎる人たちのみ。

全く映えていません。

投稿の遅れは“映えねらい”と見なされる

やってみて気付いたことがありました。

スマホに注意を払っていないと、通知に気がつかないのです。仕事中や買い物中などで反応が遅れることがままありました。

このアプリ、通知から2分以内に投稿できなくても、その日中であれば遅れて投稿が可能です。

ただ、遅れてしまうと、何分、何時間遅れたのかが表示され、友達にもバレる仕組みになっているんです。

大学生のガルフォンドさんは、映える瞬間を待っていたのではないかと疑わしい投稿はすぐにバレるようにすることで、リアルさが保たれるとしています。

投稿しないと友達の投稿も見られない仕組みになっているのもポイントだといいます。

ガルフォンドさん
「もし友達が5分遅れて投稿していたら、それはちょっと遅れただけでリアルだなと思いますが、8時間、10時間遅れて投稿しているのを見たら、おもしろいことが起きるまで投稿を待っていたのかなと推察できます。
リアルになることを半ば強制される仕組みになっているので、ほかのアプリより投稿内容の信ぴょう性が高いと思う」

収益化できるビジネスモデルの構築がカギ

若者に注目されているBeRealですが、課題もあります。

新しいプラットフォームなので、まだ収益化できるビジネスモデルがありません。

インスタグラムやフェイスブック、ツイッターなどのSNS大手は、基本的にインターネット広告が主な収入源になっています。

運営会社に経営戦略を取材すべく、フランスにある「BeReal」の本部にインタビューを申し込みましたが、取材NG。

今後、どう収益化を図るのか、まさにRealな戦略に迫りたい気持ちでいっぱいです。

専門家は、この会社がネット広告を導入した場合、とたんに、ほかとの差別化が難しくなり、利用者の関心が薄れるおそれもあるため、どんなビジネスモデルにするのかが重要だと話していました。

ラトリッジ博士
「ネット広告を導入したとたん、BeRealではなくなってしまう感じがあります。
たとえば、ありのままの自分でいることを推奨しているブランドとコラボしたり、100円、200円といったような少額の会費を払うサブスクリプションのような形にするという方法もあるかもしれません」

大手SNSも岐路に

どうすれば利用者の心をとらえ、ユーザーを増やすことができるのか。

大手もうかうかしていられません。さらなる成長に向けてトライ&エラーを繰り返しています。

ティックトックになりたい?インスタ

インスタグラムは最近、写真ではなくリールと呼ばれる短い動画の投稿機能に注力してきました。

さらに競合するティックトックと似た投稿の全画面表示の機能を試験的に導入しました。

しかし、こうした「ティックトック化」に、テレビやネットで有名なセレブのキム・カーダシアンやカイリー・ジェンナーが「インスタグラムを再びインスタグラムに」と訴える投稿で猛反発。

会社側は、全画面表示の試験導入を撤回する事態になりました。

景気の動向に左右されやすいネット広告収入が減る中で、どうビジネスを成長させていくのか、岐路に立たされています。

ティックトックが学びの場に

ダンス動画や歌まねの動画をあげるイメージが強いティックトックも大きく変わりつつあります。

最近では、金融機関に勤めた経験があるトレーダーの女性が、クレジットカードの使い方など、若い人たちの金融知識を底上げするためのチャンネルを開設していたり、アメリカのデジタルメディアで働いていたジャーナリストが、エネルギーやテクノロジーといった分野のニュースをわかりやすく解説するチャンネルに人気が集まったりと、ティックトックを新たな学びの場として活用する人が増えているといいます。

ネット社会の新潮流か?

SNSの歴史をひもとけば、大きな動きでは16年前の2006年にフェイスブックが一般向けサービスをスタートし、ツイッターもこの年にサービスを開始しました。

インスタグラムは2010年、日本でおなじみのLINEは2011年にそれぞれ事業をスタートしています。(すべてグローバルベース)

コミュニケーションが格段に便利になった一方で、かつては本当に親しい友人どうしの間だけで使われるものだったSNSは、いつしか自己アピールや宣伝の場になり、炎上やひぼう中傷、個人情報の漏えいからフェイクニュースまで、さまざまなデメリットも浮かび上がるようになりました。

ネットの世界で「よく見せたい」、「いいねと褒めてもらいたい」あるいは「たたかれたくない」という気持ちがより強くなった16年間だったのではないでしょうか。

時にはみっともない姿もさらすことになるBeRealの流行は、せめて親しい友人だけには「本当の自分をわかってほしい。ありのままの自分を受け入れてもらいたい」という若者たちの心の叫びなのかもしれません。

SNSに詳しいラトリッジ博士が「アプリをどう使うかは使う人の判断に委ねられている。新しいSNSがはやったことで、信ぴょう性、本物とは何かという議論が巻き起こることは良いことだ」と話していたのが印象に残りました。

SNSをめぐり、新しい潮流の入り口に今、私たちはいるのかもしれません。

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