最強クラスの台風が接近!そのとき、何を検索した?

「西鉄バスが止まった。今回の台風はガチでやばい」
こんなツイートが話題となったのが2022年9月。日本が最強クラス(※1)の台風14号に襲われた時だ。この時「西鉄バス」はトレンドワードにもなって注目された。
今回、当時、検索されたワードのビッグデータを分析すると、この「西鉄バス」のように、台風接近時に検索されるワードには地域ごとに特徴がある可能性が見えてきた。
災害時にどんな情報が、多くの人の危機感を高め、避難行動につながるのか。
ビッグデータの分析からそのヒントを探った。
(※1)台風14号の上陸時の中心気圧は940hpaで歴代で5番目に強い勢力だった。
目次
何を検索していた?
NHKとYahoo!JAPAN研究所は、台風14号が接近上陸した2022年9月17日~19日の期間に、博多駅周辺にいた人たちが検索したワードを抽出。同じ時間帯に、全国のほかの地域と比較して、より多く検索されている特徴的なワードを分析した(※2)。
こうしたワードは、他の地域よりたくさん検索されたワード、つまり、地域の特徴が出ているワードと言える。下がその結果だ。


台風が九州に近づいてきた17日を見ると「台風」「過去最強」など、ニュースで繰り返し伝えられていた台風に関するワードが目につく。「運行状況」「西鉄バス・電車」など公共交通機関の動向を調べたと見られるワードも確認できた。
さらに、博多三大祭りのひとつの「放生会」や、「福岡銀行」「中州ジャズ」といったご当地ワードが確認できる。
これが、台風の暴風域が鹿児島県にかかる直前の18日午前以降になると、「西鉄バス・電車」というワードが上位に登場。以降、常に上位に登場している。非常に関心が高かったことを裏付ける結果だ。
振り返ると、当時は「西鉄バス」が注目を集めるワードだった。
『九州最強といわれる西鉄バスが運休を決めた時点でただ事じゃないことがわかる』
こんなツイートが多く投稿されていた。
マスコミが台風への警戒を繰り返し呼びかける中、「西鉄バスの運休」は多くの人が台風の危険性を実感するきっかけになったようだ。
(※2)ヤフーが個人を識別できない形で集計した検索ワードのビッグデータをもとに機械学習し、対象地域での検索ワードと、全国で検索されたワードの差を数値化。対象地域で全国と比べてより多く検索されたワードを時間ごとに抽出・分析した。山形屋、タイヨー、ニシムタ
同じような分析を、台風が上陸した鹿児島県と、被害が出た宮崎県でも実施した。
下の表は、鹿児島市内の鹿児島中央駅周辺で、他の地域より多く検索されたワードだ。


目につくのは「山形屋」や「タイヨー」、「ニシムタ」というワードが上位にあること。
調べてみると、「山形屋」は鹿児島を中心に展開する百貨店、「タイヨー」は鹿児島と宮崎で90店舗以上あるスーパーマーケット、「ニシムタ」は鹿児島と宮崎で30店舗以上を展開するホームセンター。
博多駅周辺では「西鉄バス・鉄道」といった交通機関が上位に登場し続けたのに対し、商業施設が検索される傾向にあって、大きな違いと言える。
一方、下の表は、宮崎県の宮崎駅周辺の検索ワードの分析結果だ。


「特別警報級」「台風」などのほかに、「氾濫」「ダム」「氾濫危険水位」など洪水に関連するワードが並んでいる。災害に関連する直接的なワードがほとんどで、宮崎という土地に特徴があるのは「大淀川」「五ヶ瀬川」「広瀬川」など地元の川の名前くらいだった。
求める情報に「地域差」?
この結果について、災害情報や避難情報に詳しい兵庫県立大学の木村玲欧教授は、次のように分析した。
博多駅周辺(福岡県)
都市部で、通勤や通学で人が集まる地域なので、移動の足となる「西鉄バス・鉄道」の動向に非常に関心が高まったのではないか。
鹿児島中央駅周辺(鹿児島県)
車社会の鹿児島市では、移動手段よりも「生活が維持できるか」に関心が高く、食料品や生活に必要な商品を購入するために、商業施設が開いているか確認する動きがあったのではないか。
宮崎駅周辺(宮崎県)
詳細な検証が必要だが、台風が鹿児島県に非常に強い勢力で上陸した件に注目が集まったことで、突然、災害に巻き込まれたと感じた人が多く、災害に関する直接的なワードが多くなった可能性があるのではないか。

「検索ワードのビッグデータを分析すると、災害時に、住民がどのような情報を求めているのかが見えてくると思います。地域ごとに求められる情報の特徴が把握できれば、行政やメディアも的確な情報発信ができるので、命を守ることにつながる可能性があります。今後も事例を積み上げて検証していく必要があります」
災害の大きさがわかる?
データを分析したYahoo!JAPAN研究所の坪内孝太 上席研究員は、災害に直接関係の無いワードであっても、住民が災害やリスクの大きさを判断する際に役立つものもあるのではないかと指摘する。

「台風情報などの直接的な被害情報だけではなく、地域に密着した公共交通機関や商業施設の営業に関する情報も、住民にとっては災害の強度を判断する上で重要な情報である可能性が大きいと感じます。今後も分析を重ねて精度を向上させ、分析する地点も増やしていきたい」
避難の「スイッチ」に生かせるか
検索されたワードのビッグデータから「ふだんとの違い」「他の地域との違い」を見ることで、災害時には、避難情報や災害情報以外にもニーズがあることが見えた。
これは災害報道を担う報道機関にとっても、いつ、どんな情報を発信すれば、多くの人の危機意識を高め、避難行動を喚起できるのかを知る手がかりになると感じる。
今後も分析を続けたい。
(取材班)
大阪放送局 災害担当記者 藤島新也
データ可視化 ディレクター 森田将人・添盛晃久
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