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地震 想定 知識

「再び闇市が…」首都直下地震で経済はどうなる

「水の値段が5倍になって、闇市ができる」

戦後の日本の話ではありません。エコノミストによる、首都直下地震が起きたあとの「日本の未来予測」のひとつです。NHKが開いた、地震後の経済への影響を予測するエコノミストたちの座談会。そこで出てきた「最悪のシナリオ」は、日本を待ち受けるかもしれない、驚きの事態ばかりでした。
(社会部記者 森野周/首都圏放送センターディレクター 宣英理)

目次

    首都直下地震後の経済は?エコノミストに聞いてみた

    「1年で95兆円」(内閣府) 「20年で731兆円」(土木学会)

    首都直下地震が起きたあとの経済被害の想定です。大変な数字だということはわかりますが、実際にどのような事態が待ち受けているのか、正直、イメージができません。

    防災科学技術研究所 永松伸吾主幹研究員

    災害と経済を研究する防災科学技術研究所の永松伸吾主幹研究員に相談に行くと、「詳しい人に、直接聞いてみたらどうでしょう?」との提案が。そこで、永松さんの協力で、日々、経済予測を行う民間のエコノミストたちに、「首都直下地震後の経済」について聞いてみることにしました。

    専門家も驚くアンケート結果が…

    まず行ったのは、民間のエコノミストへのアンケート。38人を対象に行い、23人から回答を得ました。その一部を、紹介します。

    日本経済にマイナスの影響が出るという答えではあるものの、「やや」など抑制的な回答が多いというのが、一見した感想でした。

    「それほど大きな影響は出ないのかな」

    そう考えてしまいましたが、災害経済学の専門家・永松さんにとっては、驚きの結果だったようです。

    防災科学技術研究所 永松さん
    「災害って、必ずしも経済にマイナスの影響だけではないんですね。例えば、復興需要で経済にプラスの影響が出ることもよくあります。しかし、そうしたポジティブなシナリオを描く人がほとんどいない。エコノミストが、首都直下地震が起きると、日本経済にとってマイナスの影響が強いと口をそろえるところが、私にとっては驚きでした」

    「定価のない世界」?衝撃の予測が続々

    アンケートに答えてくれたエコノミストの4人に、座談会を開いてもらい、話を聞きました。

    三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎さんは、地震直後、かつてない事態が予想されるといいます。東京の物流が断たれ、食料や水の不足が深刻化するためです。

    三菱UFJリサーチ&コンサルティング 小林さん
    「もう『定価がなくなる世界』が来ても、おかしくないと思うんですね。地震前は、物の値段は100円だったけど、200円じゃないと売れませんと。『闇市』のようなものが立って、値段いくらでもいいから買うよ、じゃあ売るよって、どんどん売買されるような状態が続くかもしれませんね」

    ブルームバーグ・エコノミクスの増島雄樹さんは、別の要因によって、物価の高騰が起きるおそれがあると指摘します。

    ブルームバーグ・エコノミクス 増島さん
    「最近オンラインショッピングが増えていて、ネット企業の流通倉庫が動かなくなる、物流が止まるのは、今、日本でいちばん厳しいことだと思う。水やバッテリーなどの値段がはね上がって、5倍でも10倍でも、必要だったら買うという話になると思います」

    東日本大震災など過去の災害でも、被災地で、「白菜が1玉1000円で売られている」「おにぎり1個1000円だった」といったうわさが飛び交いました。首都直下地震では、より深刻な事態が起きるのかもしれません。

    1ドル200円!海外からものが買えなくなる

    こうした状況は、長期化するおそれもあるといいます。エコノミストたちが懸念しているのが、「円安」です。みずほ証券の末廣徹さんは、こう言います。

    みずほ証券 末廣さん
    「想定されるのは、日本の国債が危ないんじゃないかということで売り浴びせられて、財政や金融の政策が縛られてしまうこと。日本が破綻するとは思っていませんが、1ドル100円が200円になることはあり得ると思います」

    1ドルが100円から200円になると、海外から輸入するものの値段が、単純計算で「2倍」になります。その時、どのようなことが起きるのか。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林さんは、こう指摘します。

    三菱UFJリサーチ&コンサルティング 小林さん
    「日本の企業が海外からものを買うときに、『もう円では買えません、外貨じゃないと売れません』ということになってくる。すると、物資不足が深刻になってきます」

    企業が、日本を見放すワケ

    企業は、どうなるのか。エコノミストへのアンケートでは、「海外への移転が進む」と答えた人は、外資系企業の支店・事業所91%国内製造業の製造拠点83%にのぼっています。

    伊藤忠総研の武田淳さんは、その理由をこう説明します。

    伊藤忠総研 武田さん
    「自然災害で日本のブランドイメージが落ちると、アジアを見渡したら、シンガポールや中国・上海があるじゃないですかと。国際的な魅力が落ち始めた東京より、ほかのところに金を集めるということは、十分にありうる話です」

    「増税」「格差拡大」 いったい何が…

    こうした中で、私たちの生活に影響が出るのが、「増税」です。アンケートでも、83%のエコノミストが、復興資金のための増税が行われる可能性があると回答しています。みずほ証券の末廣さんが指摘するのは、「格差拡大」です。

    みずほ証券 末廣さん
    「復興増税が広く浅くとるかたちになると、相対的に高所得者よりも低所得者の方が、負担が大きくなっていくというパターンになって、『格差』につながると思います」

    ブルームバーグ・エコノミクスの増島さんは、東京と地方の「分断」の可能性も指摘します。

    ブルームバーグ・エコノミクス 増島さん
    「今は、東京など関東圏は高所得者が多く、地方の方が所得が低くなる。復興税が大きくなって、1人の負担が月に2万とか3万円になると、地方の人たちが、なんで自分の住んでいるところじゃないところの復興のためにとられなきゃいけないんだということが議論になってくるかもしれない」

    首都直下地震のリスク 問題は「今」にあり

    エコノミストたちの議論は尽きませんでした。ほかにも出てきた予測は、「外国人観光客の激減」や「全国の建設工事のストップ」、「世界同時株安」、「財政破綻のおそれ」、それに「遷都」まで…。座談会も終わりに近づき、それぞれのエコノミストは、首都直下地震後のリスクは、東京、日本がもつ「今の問題」とつながっていると話しました。

    みずほ証券 末廣さん
    「首都直下地震が起きた場合の話をしながら、問題は、首都に一極集中していることや、財政の状況が悪いとか、“今すでに日本が抱えていること”が、ほとんどだと思いました。首都直下地震に備えるには。今から議論しておくことがすごく大事だと思います」

    伊藤忠総研 武田さん
    「首都直下地震でクローズアップされるのは、東京一極集中のリスクで、効率化を高めることのリスクを考え直さないといけない。進むべき方向は、地方への分散、一極集中の是正だと思います」

    “東京だけの問題じゃない”

    そして、防災科学技術研究所の永松さんは、次のように座談会を締めました。

    防災科学技術研究所 永松さん
    「東京の地震は、東京の問題だけではない。規模の大きさで、東京の災害・復興が、日本全国、そして世界に対しても大きな影響を与える。起こってからどうするかではなくて、今から災害の被害、財政的な影響をできるかぎり少なくするためにはどうしたらいいかということを、真剣に考える必要がある

    今回、行ったエコノミストへのアンケートと座談会。私たちの生活にも関わる、首都直下地震後の深刻な「未来のリスク」が、次々と出てきました。このような「最悪のシナリオ」を避けるために、今、できることは何か。私たちも取材を通し考えていきたいと思います。

    「BCP(事業継続計画)とは?どうやって作る?」はこちらで

    藤島新也
    社会部記者
    森野周
    小林育大
    首都圏放送センターディレクター
    宣英理

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