“最強の風” その脅威にどう備える
猛烈な風で各地に大きな被害が出た2018年台風21号。記録的な暴風にかつてない恐怖を感じた人も多くいました。その脅威からどう身を守ればいいのでしょうか。
(ネットワーク報道部記者 管野彰彦 木下隆児 玉木香代子)
2018年9月放送の台風21号ニュースに関連する内容です
目次
最強の風 その威力とは
再生時間 0:19
目の前が真っ白になるほど勢いよく吹き荒れる雨や風。室内に散乱した窓ガラス…。
「今まで経験したことのない強い風でした。恐怖しかなく、近くの寮から被害状況を確認に来ていた学校の教職員も思わずカーテンや物陰に隠れるほどでした」
台風21号が接近した4日の午前11時ごろ、和歌山県日高川町でこの動画を撮影した、和歌山南陵高校吹奏楽部の顧問の竹下遼さん(30)。
1階の職員室にいてバリーンという大きな音を聞いた竹下さん。生徒たちの楽器を移動させようと3階の音楽室にかけつけると割れた窓から勢いよく吹き込んだ風で反対側の窓ガラスまで割れていたといいます。
さらに学校を見回ると…衝撃の光景をまのあたりにします。
想像絶する風圧に…
理科準備室でも窓ガラスが割れそこから7メートルほど先にあった、高さ2メートル近い木の扉2枚が吹き飛ばされていたのです。
「一度割れた窓ガラスの隙間から入ったものすごい風が吹き飛ばしたようなあとだったので、想像を超える風圧の大きさに恐ろしくなりました」と竹下さん。
窓ガラスがいたるところで割れ、5日朝まで停電や断水に見舞われた学校。休校だったことで幸いけが人はなかったそうです。
観測史上最強の風
今回の台風21号の影響で各地で吹き荒れた猛烈な風。気象庁は、全国の風の観測点のうち、近畿や四国、それに北海道など99の観測点で、統計を取り始めてから最も強い最大瞬間風速を観測したことがわかりました。
窓ガラスめぐる必死の攻防
猛烈な風がもたらす各地の被害。
中には関西各地での被害をニュースで知り、自宅の窓ガラスを守ろうと、何枚もの養生テープを窓ガラスに貼った人もいました。
また、窓ガラスの大部分が割れてしまい、風雨が部屋の中に入るのを防ぐために、何枚もの段ボールを粘着テープで窓枠に貼り付けたという人もいました。
どう守る? 窓ガラス
ネット上ではこうした窓ガラスを守るための対策を紹介した投稿が相次ぎましたが、実際のところ、有効な対策はなんなのでしょうか?
気象庁の元職員で現在は住民などに防災講習を行う防災士として活動している千葉県に住む矢野良明さんに話を聞きました。
窓ガラスにテープ その効果は?
まずは、今回、ネットでよく目にした“窓ガラスにテープを貼る”対応。矢野さんによると、実は窓ガラスを守るという観点からはあまり効果は期待できないといいます。粘着テープなどを十字や×マークに貼るのは、窓ガラスが割れてしまった場合に飛び散るのを防ぐには効果があるそうですが、貼ったからといって強度が増して割れないようになる訳ではないそうです。
割れないようにするには
では、どうすればいいのか。
シャッターや雨戸があるのであれば、それを閉めること。もし、ないのであれば、ベニヤ板や段ボール、あるいは発泡スチロールなどを窓の外側に貼り付けることが効果的だといいます。そうしたものが手元にないのであれば、お風呂のマットなどでも代用できるといいます。
また、強風による被害の場合、一般的にイメージするガラスの一部に穴が空くといった形状ではなく、全体が木っ端みじんに割れることが多いそうで、近くに人がいた場合、ガラスの破片を全身で受けてしまうおそれがあるということです。
つまり、そもそも割れないように対策をとったうえで、割れてしまった場合にも備えて、市販されている飛散防止用のテープを貼ったり、カーテンやブラインドを閉めておくことが重要なのだといいます。
反対側の窓開ける対策も
もう1つ大事なことを教えてもらいました。
窓ガラスが割れて家の中に風が流れ込んできた場合、室内に空気が充満して屋根を押し上げたり、ひどい場合は吹き飛ばされたりしてしまうことがあるというのです。そのため、一軒家の場合、割れた窓の反対側にある窓やドアを開けることが対策になるのだそうです。
また、風は高い場所ほど、強く吹くので、危ないと感じた時は1階にある窓のない部屋に避難することも大切だということです。
矢野さんは「基本的な対策として家の周りやベランダに物を置かないことがまずは重要です。そして、台風は数日前から天気予報などで接近することがわかっているので、余裕をもって準備することを心がけてほしい」と話しています。
屋根飛ぶ被害相次ぐ
今回の台風では、各地で屋根が飛ばされる被害も相次ぎました。
ネット上には屋根が飛ばされる瞬間を撮影した動画も投稿されました。
再生時間 0:10
こちらの動画は4日午後1時半ごろに大阪府高石市で撮影されました。強風で建物の屋根が突如、勢いよくめくれ上がりばらばらになって飛ばされています。
また、滋賀県甲賀市の保育園では、トタン屋根が150平方メートルにわたってめくれ上がり、敷地内の地面に落ちる被害が出ました。
なぜ屋根が飛ぶ?
なぜ屋根が強風で飛ばされてしまうのか。
屋根の製造や販売を手がける大手鋼材メーカーの「日鉄住金鋼板」の担当者に聞いてみました。
「気象庁の定義によりますと、平均の風速が人が風に向かって歩けなくなり転倒する人も出てくる秒速15メートル以上になると屋根が飛ばされる可能性が出てくるとされています」
そのうえで、屋根が飛ばされるメカニズムについて次のように説明しました。
「屋根の端に風が吹き込むと屋根の一部がめくれ上がり、風を受ける面積が大きくなって屋根の変形が進みます。さらに強風が続くと大きく変形した屋根が船の『帆』のような形となって最終的には破損して飛ばされることになります」
ただし屋根が飛ばされる原因で最も多いのは、定期的にメンテナンスを行っていなかったために屋根の劣化に気付かなかったというケースだそうです。
「屋根は、毎日外気にさらされ、雨や風の影響を受けています。このため劣化が進むと、少しの衝撃でも屋根が下地から外れてしまうこともあります。屋根が飛ばされないようにする対策は専門業者による定期的な点検とメンテナンスということに尽きます。仮に屋根の破損や劣化がごく一部だとしても、強風が吹くとその部分から屋根の破損が広がる可能性があります。前回の点検とメンテナンスから10年以上たっている場合は注意が必要です」
そして屋根が飛ばされることにはいくつものリスクがあるといいます。
「屋根の下地が雨にぬれると雨漏りする可能性が高くなります。さらに雨水が入り込むと、柱やはりなども傷み、建物全体の強度が下がってしまいます。また、飛ばされた屋根が近くの建物や車、それに人に直撃する可能性もあります」
各地に大きな被害をもたらした台風21号。台風シーズンはまだまだ続くだけに少しでも被害のリスクを減らすための備えが必要です。
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